東洋の叡智・司馬遷の『史記』は、大学時代教養課程の授業で取ったことがあり、私に得も言われぬ感銘を与えました。そのときの知見は、以前もブログにしました。
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20121011#1349950304
:天道是か非か〜〜司馬遷の慟哭
このエントリーの書き出しを自ら引用します。
中国最高の歴史書『史記』の著者、司馬遷は極めて興味深い人物です。表題にある「天道是か非か(天道是邪非邪)」は、その『史記』を貫く大テーマです。私は大学教養課程のころ、司馬遷=『史記』に関する授業を聴講していましたが、このときの講師もこの「天道是か非か」という言葉を重視していました。なかなか良い講座でした。
『史記』は紀伝体(⇔編年体)という形式を持った歴史書です。年号は付随的でもっぱら人物の言動を記述します。構成は10表(年代の明記)、12本紀(帝王の伝記)、8書(礼、楽、軍事、治水など)、30世家(主君の支えになるもの)、70列伝(一般庶民)あわせて130巻、52万6500字からなる大著です。『老子』が5000字強程度ですから、『老子』約100冊分の分量で、司馬遷のころは紙はなく、竹簡や木簡に記したので、かさばったことでしょうね。
さて、『知識ゼロからの史記入門』に入ります。この本は幻冬舎が出版し(それは商売上手なこの出版社が、「売れる」と判断して出版したのだろうな、と思います。)監修の渡辺精一さんは、中国の歴史のことについてたくさんの本を出しておられるようで(私はこの本で初めて知ったのですが)、挿絵担当の横山光輝さんは、「鉄人28号」「ジャイアントロボ」「狼の星座」「三国志」・・・などで名を馳せた実力派の漫画家です。
この本については、主に3つの視点から料理していきたいと思います。
@1:「自刎:じふん」(自決、自殺)について。しょっぱなから荒々しいテーマですが、呉越の争いの時、越の軍師・范蠡(ハンレイ)が、呉軍の気勢を殺ぐために、囚人たちを呉軍の目前で集団自決させたという話が伝わります。このとき、囚人たちがどのように自刎したのか、定かではないのです。マンガ『呉越燃ゆ』(久保田千太郎:作、久松文雄:画:講談社スーパー文庫)では木の皮を剥くように、取っ手が2つあり、両手で両端を持って切るようになっている刃物で、自分で後頭部から首を目がけて斜め上から叩き切るのです。まるでギロチンの刑にあったように、首が胴体から離脱します。
一方『知識ゼロからの史記入門』では、刃物で頚動脈を掻き切るように描かれていて、どっちが当時(BC500年ころ)の自決法だったか、迷うのです。これについては諸説紛々ですが、私はギロチン方式がより相応しいと思います。
@2:司馬遷は刑について選択できた。中島敦の小説「李陵」では、武帝の怒りに触れた彼には、そのまま宮刑(生殖能力を奪う刑)があてがわれたように読めますが、『知識ゼロからの史記入門』によると、死刑か宮刑か、選べたとあります。父:司馬談からの悲願だった歴史書の完成を第一目的にすれば死刑ではだめで、男でなくなっても、宮刑を選んだのでしょう。司馬遷、苦痛の選択でした。
@3:『知識ゼロからの史記入門』で取り上げる人物について。はっきりこれは偏っていると思います。有名な国王、政治家、軍人などの話はよく出てきますが、一般庶民については記述が足りないと思います。司馬遷は列伝70巻のなかに、遊侠の徒(すなわちヤクザ)など、通常は歴史に名は止めないであろう人物も活写しています。この辺、司馬遷の偏りない視点が感じられるのです。
今日のひと言:司馬遷は、老子、范蠡(ハンレイ)と並び、私の中でのビッグ・ネームです。
昔は、こんなに素晴らしい人たちがいたのですね。
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20060425
:軍師・ハンレイ
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