ガウスとガロア:数学上の親子の話
この二人は、数学史上、燦然と輝く二大巨星です。二人とも、自ら数学の道を選 んだエリートです。
カール・フリードリッヒ・ガウス(Carl Friedrich Gauss=1777~一1855)はドイツの数学者。「数学の帝王」の称号を持ちます。ガウス(Gauss)って、 なにやらゼウス(Zeus:ギリシャ神話の最高神)に似ていますね。特に重要な業績 は、学位論文「代数学の基本定理:1799」――全ての代数方程式は、複素数の 範囲で必ず解(答え)を持つ、という保障の定理です。
エヴァリスト・ガロア( Evariste Galois=1811~1832)はフランスの数 学者。「群論」の創始者として知られますが、彼はノルウエーのアーベル( Niels Henrik Abel=1802~1829)が「5次方程式の解の公式は存在しない」こ とを証明した後を受け、「5次以上の代数方程式の解の公式は存在しない」という 不可能の定理を証明しました。
ガウスは、解が必ずあることを保障しましたが、アーベル、ガロアは、その解を 探し出す手続きはやってみないと解らない、という不可能性、不保障性を示したの です。ここでは、この二大数学者の人間関係を巡って書こうと思います。
ガウスは貧しいレンガ職人の息子、親の跡を継ぎ、細々と生きることだけしか期 待されていませんでした。ある日、小学校の先生が生徒たちに、「1から100ま で全部足してみろ」という意地悪な問題を出しました。その間、内職でもしよう、 と思ったのでしょう。1+2+3+4+5+6+・・・・・+98+99+100 の計算です。ある少年が「先生、出来ました!」と手を挙げます。先生は、「こい つ、1+100のことだと思ったんだろう、バカな子だ」と思ったのでしょう・・・ 見てみたらビックリ!! 正解の5050が、ノートにペンの跡も生々しく書き付 けられていたのです。
先生はこの少年に圧倒され、天才少年がいる、とフェルディナンド公に報告しま す。それから、ガウスの無敵の遠征は始まり、数学の沃野の大部分を征服します。 また、世渡りもうまく、株で儲けて王侯貴族のような生活をしていたそうです。
同じくらいの素質があったガロアは、逆に呪われた一生を送ります。フランス革 命という一種の狂気が、ガロアのたった二十一年間の人生に、暗い影を落とします。 彼自身、革命に身を投じ、陰謀と駆け引きのなかで、不保障性・不可能性の大定理 を発見します。だけど、当時のフランス数学界は、あくまでガロアに冷たかったの
です。
三回も、提出した論文が、紛失したり無視されたりとの目に会います。論文 をコーシーが紛失(なにやら、わざと・らしい)、フーリエが預かり中に死亡した りして。彼は、エコール・ポリテクニク(フランス最高の理工系大学)への入学を 希望していましたが、試験官が余りにつまらぬ質問をすることに腹を立て、チョー クを投げつけるなどして、一種の危険人物と扱われたようです。
そうこうしているうちに、ガロアは、ある女性を巡る決闘をするという陥穽に落 ち込みます。そしてその決闘の前夜、彼の着想した群論と、その応用である不保障 性・不可能性の定理を記した書簡を友人あてに走り書きします。「時間がない、時 間がない!」と口走りながら。そして、彼は負けます。臨終の間際、ガロアは、看 取る弟に、「泣くな! たった二十一歳で死んでいくには、ありったけの勇気が必 要なんだ」と諭します。そして、前後は解かりませんが、「この論文をドイツのガ ウスかヤコービ(Karl Gustav Jakob Jacobi=1804~1851)に見せて欲 しい」と託します。
ガロアは、当時のフランスに絶望し、ドイツ、そしてガウスに期待を掛けたので す。「ガウスなら、この定理の重要性を理解してくれるはず……」 でも、その願いは神に聞き届けられませんでした。ガウスの目にふれることはな かったのです。
ガウスは、数学の大部分を征服し、代数方程式については「やり残しはない」と
疑わなかったことでしょう。でも、見落としていたことがあり、それをガロアたち が発見したのです。フランス革命という混沌が、群論を生み出したとも言えるで しょう。
ガウスもガロアもなんら期待などされていない存在でした。そして、二人とも正 真正銘の天才です。明暗は分かれたし、ガロアの存命期間は、ガウスのそれにすっ ぽり入ります。年齢差三十四歳。もちろん、血のつながりはあるはずはないですが、 この二人は、正真正銘の親子といってもいいでしょう。
以上の逸話は、教育の陽の面も陰の面もあわせて見せてくれる、と思うのです。 素質はほぼ同等にありながらも、その教育環境の違いによって、全然別の生長を強 いられる
という事実がです。 「畏るべし、後世」と言えるほどの後輩を出したいものですね。
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