虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

麻原彰晃と水俣病

 

  

「つっぴーの憂い日記」:http://d.hatena.ne.jp/Tsuda_Katsunori/20120613/1339597637

 

に、興味深いお話が載っていました。それは、藤原新也のエッセイ集「黄泉の犬」に収められた「メビウスの海」というエッセイからの話題で、それは・・・

  

原田(正純)先生の推定では、水俣湾周辺海域で潜在的水俣病患者は20万人以上とされているが、しかし、現時点でも申請者は、おそらく7万人程度だと思われる。

(中略)

この本の前半部分に出てくる、オウム真理教の教祖である松本智津夫に関して、著者である藤原新也氏の推測通りならば、地下鉄サリン事件の元凶は水俣病であり、国とチッソの悪行が、オウム真理教を生み出した事になる。

(中略)

翻って、東電福島原発事故による放射性物質による健康被害が十数年後から発現し始めた場合、うやむやにしようとすれば、第2第3のオウムが出てくる可能性は否定できない。

  

 

なんと、麻原彰晃は、水俣病の未認定患者だったというのです!水俣病は、水俣湾だけでなく、八代海も汚染区域に入り、水俣病の患者候補としての51名に、麻原彰晃も入っていたということらしいです。

 

 

さっそく、図書館で「黄泉の犬」を借りてきて、読んでみました。

 

 

 この、一見奇妙な考えを着想したのは、藤原さんの手柄です。「麻原は八代出身」「八代は有機水銀で汚染されていた」「麻原は水俣病特有の視野狭窄であった」・・・その「恨み=ルサンティマン」こそ、一連のオウム事件の根本にあり、それは、チッソという国策企業と国の悪意を、形を変えて、社会に叩きつけることだったのですね。

 

 

 これらの疑問を晴らすため、藤原さんは人伝てに、麻原の全盲の兄・松本満広さんに面会します。彼は麻原を盲学校に入学させた人で、家族はあれほどの大事件を受けて、一家離散していました。彼が言うには、麻原彰晃も、八代における水俣病の認定を確かに受けていて、認定については「却下」されたそうです。なお、ここで聞いたお話は、満広さんが生きている間は口外無用でしたが、満広さんの死後、出版の運びになったそうです。

 

 

 そのルサンティマンが麻原を突き動かし、一連のオウム事件を招いたとしたら、それは実に悲しいことです。

 

なお、この本とその要旨について、水俣が故郷だという人のブログにその旨コメントしたところ、以下のような厳しい意見が帰ってきました。(要約)

  

 

全ては憶測に過ぎない。水俣病は社会の縮図。認定されることを恐れる人も大勢いる。また八代郡金剛村の麻原の実家は漁師ではなく、どうして水俣病に罹るような大量の魚が摂取できたのか。

また、麻原が水俣病で患者と認定されなかったことが社会へのルサンティマンになり、一連のオウム犯罪を起こしたことなど考えられない。

 

 

麻原と水俣病を結びつけることは一つの偏見である。

  

なるほど。しかし有機水銀の汚染域は水俣湾には限られなかったこと、麻原の兄(松本満広さん)は水俣病がうかがわれる視野狭窄全盲でした。また、漁村でなくても、麻原が子どもの当時、肉は食べなれず、魚をメインに食べていたのなら、閾値を超え、麻原を視野狭窄にしたことも考えられるでしょう。

 

 

今日のひと言:この「黄泉の犬」は、麻原彰晃と彼に関連して思い浮かぶ随想を緩やかに綴ったという感じの本で、私は個人的には藤原新也さんの文体は回りくどく、あまり好きではありませんが、なるほどな、と思って読み終えました。私は、麻原に水俣病の影をみることは、思考実験として、可能だと思います。

 

 

空中浮遊の話もあり、インドで2例、藤原さんは見ているそうですが、どちらも手品と云ったものだったと書いています。もちろん、麻原彰晃の空中浮遊も同類でしょう。

 

 

「黄泉の犬」:藤原新也文藝春秋:2006年初版

 

 

黄泉(よみ)の犬 (文春文庫)

黄泉(よみ)の犬 (文春文庫)

 

 

メメント・モリ

メメント・モリ