表題の2曲は、前者がオーストリアのシューベルト、後者もオーストリアのシェーンベルクが作曲した作品です。どちらの曲でも「月」が言わば「冷酷」な表情を見せる点で共通しています。
オーストリアでも使われるドイツ語では、おおかたの国に反し、太陽を女性名詞にあて、月は男性名詞に当てます。その理由は、寒いドイツにとって、柔らかく優しく接してくれる太陽(die Sonne)が女性、荒野を寒々と照らす月(der Mond)が男性になるというわけです。(注:ドイツ語では、名詞を大きく3つに分けて男性名詞、中性名詞、女性名詞という区分が存在しています。)
シューベルトの「ドッペルゲンゲル:もう一人の自分、影法師」は、以前も当ブログで取り上げましたが、失恋した男が、既に引っ越した元カノの家に出向いたところ、誰かが、指をねじり苦悶の表情を浮かべている、だれだろう、と見ると、月の光に照らされて見えるのは、正しく自分自身だった・・・驚愕。この曲の原詩はハイネ、その詩に負けない音楽をシューベルトは作曲しています。なお、その当時では考えられない旋律を持っているのも、さすが「歌曲の王」シューベルトだなと思います。特に、大学生初期の学業に行き詰まりかけた私には甚大な影響を与えた曲なのです。
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20110525#1306322204
以上述べたように、「ドッペルゲンゲル」では、月が表現の中心にあって、この失恋男の心理を抉るのに、効果的な役割を果たしています。
さて、「月に憑かれたピエロ」、この曲も、専門を決める際、一身上恋人も出来た時点に聴いて、大いに刺激を受けた曲です。多感な・あの時期、ほかの曲も相俟って(YMOの「Behind the Mask」や、山下達郎の「Ride on Time」など)、私はむしろ理性的というより感傷的に専門を選び、彼女ともギクシャクし、別れました。
この曲、wiki では以下のように紹介されています。
『月に憑かれたピエロ』(つきにつかれたピエロ)、あるいは『ピエロ・リュネール』(フランス語: Pierrot lunaire)作品21は、アーノルト・シェーンベルクが作曲した室内楽伴奏による連作歌曲である。
正式名称は『アルベール・ジローの「月に憑かれたピエロ」から三度の7つの詩』(ドイツ語: Dreimal sieben Gedichte aus Albert Girauds <> )。すなわち、アルベール・ジロー(英語版)のフランス語詩をオットー・エーリヒ・ハルトレーベン(英語版)がドイツ語訳したものから21点を選び出し、7点ずつ3部に分け曲付けしたものである。
ソプラノの独唱者は、詩の雰囲気を補うために、シュプレッヒゲザング(ドイツ語版)様式(語るように歌う=抑揚のようなメロディーが伴う、歌うような話し方)によって詩を「歌う」。無調音楽だが十二音技法ではない。シェーンベルクが音列技法を試みるのは、より後になってからである。
1912年10月16日に、ベルリンのコラリオンザールにおいて、「コロンビーナ」に扮したアルベルティーネ・ツェーメ(Albertine Zehme)を主演に迎えて初演が行われた。
なんだか、狂気に落ち込みそうな者の背中を押して、奈落に突き落とすような曲想でした。それは、いまだシェーンベルクの「12音階」作曲法の手前の「無調」音楽でつくられていて、不協和音がたくさん奏でられる「破調」の音楽であったことが、正にピエロに憑りつく「月」であったことに寄与するように思います。
今日のひと言:狂気である状態を「lunatic」といいますが、これはもちろん「luna」(月)から採られています。月は「危険な天体」なのです。さて、日本には月が精神にマイナスの効果を持つという逸話はあるでしょうか?むしろ日本の美意識の中では「雪月花」と愛でる習慣が圧倒的だと思います。松尾芭蕉の「名月や池を巡りて夜もすがら」なんていうのが有名ですね。
(あ、ちょっと思いだしました。)芥川龍之介は、自分のドッペルゲンゲルを見たことがあったそうです。これを見た人は、遠からず死ぬという言い伝えがあるそうです。また、芥川は「或阿呆の一生」(自伝的エッセイ)の中で、不倫相手と思しき女性について「彼女の顔は、今晩も月の光のなかにいるようだった」とか書いています。よほど芥川は「月」「ピエロ」に縁があるようで・・・
- 出版社/メーカー: アルバトロス
- 発売日: 2015/06/03
- メディア: DVD
- この商品を含むブログを見る
- 作者: 唐辺葉介,シライシユウコ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/08/17
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 7人 クリック: 105回
- この商品を含むブログ (22件) を見る
- アーティスト: ジュゼッペ・シノーポリ,シェーンベルク,シノーポリ,ドレスデン・シュターツカペレ,ルイーザ・カステラーニ,アレッサンドラ・マーク
- 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
- 発売日: 2011/08/17
- メディア: CD
- 購入: 1人 クリック: 1回
- この商品を含むブログを見る
- 作者: 芥川龍之介
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1968/12/15
- メディア: 文庫
- 購入: 3人 クリック: 34回
- この商品を含むブログ (82件) を見る
今日の一品
@ホワイトシチュー
ハウスの顆粒状ルーを使ってシチュー。シチューといえばカレー、肉ジャガと同じような材料でできるので、子供キャンプのような催し物には重宝します、3コース調理ができますので。
(2016.07.30)
@牛肉とニンニクの芽の炒め物
弟作。ニンニクの香りが家中に漂いました。
(2016.08.01)
@キクラゲとベニーナのサラダ
スーパーでキクラゲ(国産、半額)を見つけたので、たまたま売っていたベニーナ(赤茎のカイワレ大根:商品名)と合わせ、永谷園のお茶漬の素とゴマ油で和えました。
(2016.08.02)
@モロヘイヤのオイスターソース風
栄養価は高いがあまり味のないモロヘイヤ(シナノキ科)。むかしはよくスープを作っていて、最近は作らなかったのですが、お浸しとしてオイスターソースで和えてみると、案外美味しかったです。プラス、モロヘイヤはシュウ酸を含むので、よく晒して(20分くらい)、海藻の青海苔を加えました。シュウ酸をマスキングするため。
(2016.08.04)
今日の一首
水田(みずた)にて
雄叫び(おたけび)あげる
ウシガエル
野太き声は
勝利の凱歌?
普通、川から聞こえるウシガエルの声が、水田から聞かれました。アメリカザリガニでも食べてしまう悪食さには共感さえ覚えます。
(2016.08.04)