虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

哲学者・ショーペンハウエル〜「読書について」

以前私がエントリーしたブログのコメント欄に書いたことなのですが、天才の天才たる由縁について、ドイツの哲学者・アルトゥル・ショーペンハウエルArthur Schopenhauer:1788−1860)の逸話が面白いのです。なにやら、彼の主著である「意志と表象としての世界」を書き上げたショーペンハウエル、ちょっと席を外したあと、その原稿を読んで、叫んだのですね。「これは、素晴らしいインスピレーションに導かれて書かれた傑作に違いない、誰だ、こんな文章が書ける天才は!」冗談ではなく、ほんとにそう思って発言したのです・・・凡人では、とても真似できない言行です。この一件を以って、私は彼、ショーペンハウエルが天才だったと断言します。(この逸話は、三浦一郎さんが編集した「世界史こぼれ話」に出ていました。)


さて、彼は、後世の哲学界に及ぼした影響がとても大きく、はなはだしくは孤高の論理哲学者・ウィトゲンシュタイン(1889−1951)あたりにまで影響を与えたことが知られるそうです。欧州に与えた彼の影響には、他の哲学者が真似できないものがあるようです。それから、彼は、警句格言を生み出す達人でもあったそうです。


ただ、主著の「意志と表象としての世界」、知的冒険の意味で読んでみたいとは思うのですが、如何せん、大部の書、敬遠して、次善の策として、彼の小品・「読書について」(斉藤忍随 訳:岩波文庫)を読んでみました。このお話は薄い文庫本のなかの3篇の内の一つで、分量は少ないですが、彼の当時の読書の有様が活写されています。


まず、読者のドギモを抜くのは、「読書は、すればするほど頭が悪くなる」という主張です。なぜかといえば、本を読むことは、その本を書いた人の頭脳の働きにすがり、代行してもらって、自分では考えなくなるのだという皮肉な分析が置かれます。その陥穽から出られるのは、天賦の才を持つ者だけであろう、それ以外の者は模倣者になるに過ぎない、とも論理がつながります。読書をしてから、自分の頭で考えるということの重要性は、なにやら古代中国の孔子の「論語」の一節にもつながります。さらに、老子に「学をするものは日々増す、道をするものは日々減ず」(第48章)とあり、この老子の言葉の真意は、「本を読んでばかりいては、道から見放されるぞ」というこころであり、ショーペンハウエルの言葉に相通じるものがみられます。


ショーペンハウエルが大いに危惧することは、本当の天才が書いた書物が読まれずに、内容的には「屁」みたいな単行本(悪書)がたくさん出版され、好んで買い、真理から遠くなる読者が非常に多いという点です。これらの書物は、精神の栄養にはならず、人がその短い生涯において、読みうる書物が限定されているにも関わらず、これら単行本がそのチャンスを奪ってしまうことに問題があるということです。それに引き換え、天才の手になる良書は、せめて2回以上読むのが良い、としています。はじめの読書では読みきれなかった箇所も、2度目なら、章立ての特質にも目がつくので、理解しやすいだろう、と言うのです。(私の場合、「老子」がそれに当たります。何度も読み直しました。)


作品は、作者のエッセンスであり、書いた人そのものを超えて、価値が生まれる・・・大思想とはそんなものかも知れません。ここにショーペンハウエルによる、同業者=哲学者の評価はどんなものかと見るに、フィヒテ(1762−1814)、シェリング(1775−1854)、カント(1724−1804)などは、それなりに評価しているようですが、弁証法発案者のヘーゲル(1770−1831)は好みではなかったようです。その理由はこの本には周辺的なことしか書かれていないようですが、恐らく「意志」の働きを軽視した哲学をヘーゲルが展開したからなのかも知れません。(この我流の解釈は誤りかも。)



今日のひと言:ショーペンハウエルの論理では、ほんまもんの作品は50年たっても、消えずにいる可能性が高いが、悪書は1年限りの寿命である・・・現代日本の小説界・出版界がもろに皮肉を言われているようです。とくに日本では小説がよく読まれ、玉石混交の状態にありますね。これらのうち、50年後も生き残っている作品はどれだけあるでしょう?


読書について 他二篇 (岩波文庫)

読書について 他二篇 (岩波文庫)




今日の料理


@レモン汁漬け鶏もも肉炒め



弟作。1時間ほどポッカのレモン汁、醤油に漬けた鶏もも肉を焼き、加熱したつけ汁をそれに掛け、最後に胡椒を振ります。

 (2016.02.27)



@ハルノノゲシのマヨネーズ・ナンプラー和え




庭先で大きくなってきた野草のハルノノゲシを一株収穫し、茹でてマヨネーズ、ナンプラーで和えました。苦味のある野草で、我が家では「チコリ」として食べます。下の写真は、小株の様子で、茎や葉の真ん中の葉脈には赤い線が走っています。

 (2016.02.27)



@豆苗とエノキダケの炒め物卵入り




弟作。豆苗(とうみょう)とエノキダケを炒め、卵を加え、レモン汁とクレイジーソルトで味付けしました。

 (2016.02.28)



@鶏ムネ肉とアボカドの炒め物




弟作。両者をオリーブオイルで炒め、カツオ節、昆布汁で味付けしました。

 (2016.03.01)





今日の詩


凄腕漁師、
理想の女性を、
一本釣り。
お互い幸せ。


昔のマンガ「釣りキチ三平」の登場人物同志の恋。

 (2016.03.02)