虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

クレムリン・メソッド:世界を動かす11の原理(書評)

この本の著者は、現在ロシア・モスクワ在住の国際関係論の論者です。北野幸伯(きたのよしのり)さんで、ペレストロイカを実行した旧ソ連大統領のゴルバチョフに憧れ、日本の大学に見向きもせずにロシアに単身渡り、ほとんど一般ロシア人と同じくソ連崩壊の荒波を正面から被った人で、紙幣が紙屑になるという2600倍の超インフレも体験しています。そんな彼が学んだのが、モスクワ国際関係大学国際関係学科で、その卒業者は、外交官になるかKGB職員になるか、と言ったような超エリート達だそうです。北野さんは、「ロシア政治経済ジャーナル:RPE」というメルマガを主宰していて、現在読者数は3万人を超えます。


今回の本は、一連の著作のうち、最新刊で、これまでの本をふまえた集大成のような本になっています。2014年末に刊行されています。正式な書名は『日本人の知らない「クレムリン・メソッド」世界を動かす11の原理』(集英社インターナショナル・刊)これまでも、北野さんの本について、拙ブログで取り上げています。では、11の原理とはどういうことなのか、列挙していきます。



@1:世界の大局を知るには、「主役」「ライバル」「準主役」の動きを見よ


@2:世界の歴史は「覇権争奪」の繰り返しである


@3:国家にはライフサイクルがある


@4:国益とは「金儲け」と「安全の確保」である


@5:「エネルギー」は「平和」より重要である


@6:「基軸通貨」を握るものが世界を制す


@7:「国益」のために、国家はあらゆる「ウソ」をつく


@8:世界のすべての情報は「操作」されている


@9:世界の「出来事」は、国の戦略によって「仕組まれる」


@10:戦争とは、「情報戦」「経済戦」「実戦」の三つである


@11:「イデオロギー」は、国家が大衆を支配する「道具」にすぎない


・・・以上、なんだか耳に初めて入ってくる原理だけれども、どこか解るような気がしませんか?国際関係論上の原理なので、無味乾燥にも思えるかも知れませんし、人によっては北野さんの立論を「陰謀史観」であるとレッテル張りするかも知れません。でも、読んでみると、緻密ではあれ、陰謀史観というようにいい加減な思考の結果生み出されたものとは思えないのです。その証拠に、北野氏が10年前に推測していたことが的中している事例もあるのです(特にアメリカ・ドルの基軸通貨からの凋落のありさま)。熱に浮かされず、冷徹に物事を見極めないと書けない記述です。


これら11の原理を現在の覇権国家アメリカにあてはめてみると、第二次大戦後の世界はアメリカとソ連の2つの覇権国であったのが、ソ連の崩壊後、アメリカの一極覇権国家がこの世の春を謳歌していました。イラク戦争後中国の台頭が無視できなくなり、アメリカはライバルをロシアから中国に変えたようです。(これは、最近のメルマガで、AIIBを立ち上げた中国にアメリカがおおいにショックを受けた点が強調されています。)(@1)。


もっとも、国家にはライフサイクルがあり、老大国アメリカが成熟期にあり、(@3)新興国中国は成長期にあるので、中国の経済・軍事の拡充は止められないというのですね。その意味で日本も成熟期の国です。


アメリカが、大量破壊兵器を持ってもいないイラクを攻めたのは、いくつかの理由があり、一つは、イラクが決済通貨をアメリカ・ドルではなく、EUROに替えようとしたので、基軸通貨であるドルを守るために攻撃したこと(@6)、および石油という資源を独り占めしたかったこと(@5)、またこれは私の推測ですが、アメリカ軍がイラクの小麦バンク・・・さまざまな特性を持つ種を保存して、小麦の多様性を守る施設を空爆して消滅させ(意図的に)、いまではアメリカの企業・モンサント社の遺伝子組み換え小麦を栽培させていることなど、アメリカの国益になるよう、一貫して軍事活動を行ったのです。(@4):注:このモンサント社の件については情報をどこから入手したか、忘れてしまいました。知っている方は教えてくださいませ。


以上、見てきたように、アメリカという国の生理が手にとるように解ります。ところで、日本と同盟関係にあるアメリカは、日本をどう思っているのでしょう?北野さんによれば、アメリカはロシア・中国・ドイツ、そして日本を「仮想敵国」と見ているらしいです。だからドイツのメルケル首相の盗聴もするのでしょう。



今日のひと言:私のブログ友である方・id:SPYBOYさんは、問題の単純化に疑念を持つ立場を取っておられます。単純化には必然的に嘘が入るということもあるし、何より物事を善・悪に単純に2分する考え方はよろしくない、という立場です。でも、無秩序な複雑化も手に余る状態だと思います。私は国際関係を大づかみに単純化して提示する北野さんの視点も捨てがたく魅力的であると思います。北野さんの文章からは、国際関係のダイナミズムが読み取れるのです。


参考過去ログ:


http://d.hatena.ne.jp/iirei/20081018

:ロシア政治経済ジャーナル(by北野幸伯)はよく的中する。それはどうして?


http://d.hatena.ne.jp/iirei/20120827

プーチン最後の聖戦(北野幸伯):書評



人民元が基軸通貨になる日

人民元が基軸通貨になる日

基軸通貨の政治経済学

基軸通貨の政治経済学




今日の料理


@ヒバの煮つけ





乾燥品の小松菜(ヒバ)を戻して砂糖・醤油・出汁で煮込んだ一品。過去にも取り上げています。

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20140612#1402568560

 (2015.09.29))



@ラム肉の八丁味噌炒め




弟作。久しぶりに買ってきたラムを、キャベツ、唐辛子とともに八丁味噌で炒めました。強烈なこの味噌はいろいろな料理に使えますね。

 (2015.9.30)



@身欠きニシンのコンソメ





弟作。前回の「里芋と人参のコンソメ煮」の残り汁を使い、ニシンをこの汁に漬けてから煮込みました。

 (2015.09.30)



@カリフラ・ディップ




弟作。茹でたカリフラワーに付けて食べるのに、クミンシーズとカレー粉を炒めたものを、塩適量加えたマヨネーズに加え、これをディップとしたわけです。

 (2015.10.02)




今日の一句




この落ち葉
ラスタカラー
色付けり


ラスタカラーは、レゲエ音楽のシンボルである「赤・緑・黄」の三色です。

 (2015.10.03)




今日のロシア・フォルマリズム


過去ログで取り上げているこの言葉、

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20081122#1337305032

で書いていますが、要するに「言葉を先入観なく読み、先入観を持って読む人をぎょっとさせる」解読法のことです。


@「あの人は人間が出来ている」という言葉を読み替え、
「あの人は妊娠している」と読んでみました。


@「愛くるしい」とは普通「対象が可愛い」と言った意味だけど
 「愛とはpain?(痛み)」と読んでみました。


(このコーナーは、詩・俳句の欄の一つと位置つけ、たまにエントリーする予定です。)

 (2015.10.02)