虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

江戸のことわざ〜「犬も歩けば棒に当たる」の裏と表

2005年に癌で亡くなられた漫画家・江戸民俗評論家の杉浦日向子さんの著作を読んでいて、江戸時代の町人の生活ぶりが印象に残りました。いわく、町人の男女とも、日頃は仕事もせずにぐうたらしており、夫は金がなくなる時だけ働きに出、妻は家事については食事も作らず、もっぱら仕出し屋の「ファースト・フード」を買っていたと云うのですね。
女性にとっては完璧な楽園であったというのが町人世界のあり方だったというのです。


この記述について、私は批評するほどの知識はありませんが、面白いとは思いました。そしてその流れのなかで、今回『江戸のことわざ  「犬も歩けば棒に当たる」裏と表のその意味は』(丹野顯・たんのあきら:青春出版社・2004年初版)を読んでみました。


この本は、江戸に伝わることわざ200個を、1ページ1個づつ取り上げています。おおむね、同一視点の社会的事象について纏められていますが、ここではその区分にはこだわらず印象的なことわざを列挙してみます。私によるカスタマイズです。解説はおおむね今回書籍の通りです。


犬も歩けば棒に当たる・・・このことわざには表裏2通りの意味があります。1つは「用がないのにうろうろ出歩くと災難に遭う」という意味で、辞書・諺苑に載っています。もう1つの意味は「何も用がなくても積極的に出歩いていれば、思いもかけぬ幸運に出会える」ということで、滑稽本狂言綺語」に出てきます。(本書P14)


このように、1つの言い回しで意味が逆になるということわざは結構あり、「斧を研いで針にする」(努力すれば成功するVS無駄な骨折り)などが代表的です。そういえば、中国の故事成語にも、「君子危うきに近よらず」VS「虎穴に入らずんば虎子を得ず」などがあり、故事成語やことわざの多面性を語ると思われます。


薬九層倍・・・薬の価格が暴利を貪るように高いこと。「江戸時代には医療・薬は秘法に属していた。薬は毒薬と偽薬でなければ、効こうが効くまいが、だれが何からどんな薬を作って売ろうが処罰されなかった。偽薬というのはゴボウを朝鮮人参と偽って売るようなケースをさし、うどん粉を労咳(肺結核)に効くと言って売るのは勝手だった。この「無効無害主義」は昭和の敗戦前までつづいた。俳書・譬喩尽 (P47)


@捨て物は拾いもの・・・捨てられたものは拾った人の物であるということ。落し物なら、半分が拾い主のものである、というコンセンサスがあった。ただ、当時の江戸はリサイクルが徹底していたので、捨てる人はほとんど居らず、業者が修理したり買い取ったりしていた。藁一本、無駄にはしなかった。 譬喩尽 (P73)


弘法にも筆の誤り・・・弘法大師(空海)は書に優れていたが、書き損じはある、プロでもたまには失敗するという意味のことわざ。類似のことわざは他にもありますが、使うTPOを心得なければならない、と丹野さんは説きます。たとえば「猿も木から落ちる」ということわざをサラリーマンが上司を指して使うというのは失礼に当たる、と。 滑稽本・笑註烈子(P113)


娘一人に婿八人・・・1人の娘に求婚者が8人もいることで、転じて、あることに希望者が殺到すること。「一人娘に婿八人」とも。江戸の時代を下ると、城下町造成のころは江戸には男ばかりいた。8代将軍吉宗のころ(1721:享保6年)の町人人口は男32万人、女17万人あまりだった・・・女日照り。天保年間にやっと男女比が均衡した。 諺苑 (P176)



今日のひと言:ことわざにおいて、裏と表の両義性を持つことわざと、そのものずばり単一の意味を持つことわざがありますが、両義性をもつことわざについては、特に注意するべきだと思います・・・含蓄が深いから。ことわざの元祖である中国の易経も、そんな記述方法を取っています。表と裏の両義性。



辞書から消えたことわざ (角川SSC新書)

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いまさら聞けない ことわざ辞典

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慣用句・故事ことわざ・四字熟語 使いさばき辞典

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今日の料理



@鶏ムネ肉のグリーンカレー煮込み





弟作。これまでも似た料理を作ってきましたが(鶏モモ肉をグリーンカレーで炒めるなど)今回は表
題の通り。カレー料理にはチキンが似合うようです。

 (2015.03.14)




@長ネギのピクルス





2月28日に、アスパラガスの入っていた瓶に3本ほど、長さを切りそろえてネギを入れ、酢+塩+クローブ(スパイス)で漬けこみ、ちょうど2週間後の今日、食してみました。酸味、ネギの辛さ、クローブの香りが複合され、美味でした。甘い味が足りない人は、砂糖を入れてもいいかも。ネギはフランスでは「貧乏人のアスパラガス」と言われていることに想を得たのです。

 (2015.03.14)




@牛肉薄切りの胡麻和え






オーストラリアの牛肩ロース肉の薄切りを茹でて、お湯を切り、スリごま+塩で味付けしました。

 (2015.03.15)





@焼きブリの梅花和え






弟作。アラを含め、廉価で売っていたブリの料理。あらかじめ塩を振ったブリをフライパンで炒め、皿に移したあと切った紅ショウガとマヨネーズで和えました。マヨネーズを白梅、紅ショウガを紅梅に例えたのは私です。

 (2015.03.16)






今日の一句


ナズナ咲く
休耕田を
占拠して






 (2015.03.15)