虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

網野善彦の動的日本中世史:定説を疑うのは大事だ。

歴史家として高名な網野善彦氏(1928−2004)。山梨県出身で東京大学文学部史学科卒業。私はこれまで彼の著作を読んだことがありませんでしたが、ブログ友達のid:hatehei666さんの示唆によって「列島の歴史を語る:藤沢・網野さんを囲む会」(本の森・出版)を図書館から借りてきました。


網野さんが主張する視点は、大きく2つあります。


1)日本列島は「単一民族」からなるのではなく、列島の東と西で相当に文化が違う点。だから、いわゆる「王権」も、大和朝廷が唯一無二の権威だったのではなく、東にあったであろう王朝にも注意を喚起すべきだということです。もちろん、後世の鎌倉幕府江戸幕府もその範疇に入ります。


2)「日本列島は島国で、海外の国との交渉も無いか、または限られていた」というテーゼに、明確に反旗を翻しています。たとえば漁民の場合、朝鮮半島と頻繁に交渉していますし、縄文式土器朝鮮半島に見られるというのです。このテーゼは日本が「島国」であることから生まれる陋見だということ。


これら2点が特に重要な論点です。日本史をスタティック(静的)に見るのではなく、ダイナミック(動的)な視点から見ています。彼にとって重要な概念は「天皇制」です。網野氏が太平洋戦争の最中、学徒動員によって学業を中断させられ、工場労働を強いられた点が心のトラウマになっているようなのですね。


上に挙げた2つの論点は「天皇制」という虚構に一矢報いるという意図も感じられます。ここで重視されるのは一般庶民である「常民」です。彼の歴史観のなかでは、庶民は権力者に一方的に苛められたのでなく、動的な生活を送っていたことになるのですね。なお、「天皇制」という言葉は日本共産党が使い始めた概念であり、それまでは単に「国体」と呼ばれていました。網野氏は、日本共産党に籍をおいていたこともあるそうです。


なお、この本の中で特に面白かったのは、漁具を調べて漁民の生活の歴史を探る、民俗学、考古学的な研究があったとのことで、そんなありふれたグッズが研究の対象になる点ですね。実際、霞ヶ浦の漁民の自治組織・・・「霞ヶ浦四十八津」などが史上、有名なのですって。中世において庶民といえば農民といったものだけではなく、漁民もそうだったという点が日本の歴史研究からぽっこり抜けているのですね。また職人というジャンルは、非人の起源とも重なるということも述べられています。


最後に、網野さんの評価をwikiから。


中世の職人や芸能民など、農民以外の非定住の人々である漂泊民の世界を明らかにし、天皇を頂点とする農耕民の均質な国家とされてきたそれまでの日本像に疑問を投げかけ、日本中世史研究に影響を与えた。また、中世から近世にかけての歴史的な百姓身分に属した者たちが、決して農民だけではなく商業や手工業などの多様な生業の従事者であったと主張した。その学説には批判もある。
日本史学民俗学からのアプローチを行い、学際的な研究手法を導入した。



また、成立当初の日本国家、つまり7世紀末から日本国家が支配する地域が現在の日本列島や日本国の領域と同じだったというわけではなく、自然に国境が定まったわけではないと主張している。「日本国」という国家は「侵略」と「征服」で領域を広げたと意識しておくべきであると述べている。アイヌ民族琉球人などに限らず、日本国家の支配者に蝦夷なども侵略され、軍事力を背景とした力による圧服であったと主張し、そういった認識をもつべきだとしている。


その意味で、網野善彦は「日本人論」・「単一民族論」としての日本人の自己認識を変えようとし、「一国史観」を問い直した歴史学者である。海外の学界にも網野善彦の業績が知られている。


今日のひと言:網野氏は以下に挙げるように、教職を続けましたが、
東京都立北園高等学校の非常勤講師(日本史)→名古屋大学文学部助教授→
神奈川大学短期大学部教授


そうとうな貧乏暮らしだったので、婚約者にエンゲージリングではなく、カーテンリングを贈ったそうです。





日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)

日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)





今日の料理


@鍋のダシ汁を使ったニュウ麺





前日、今季最後の鍋を食べ、余った煮汁を汁にして(塩を適量添加)、ニュウ麺を食べました。こくがあったなあ。なぜかナツメグで風味付け。


 (2015.03.10)




@紫切り干し大根のハリハリ漬け





id:whitewitchさんに示唆された料理。切り干し大根60g、梅サワー漬け大匙2、醤油大匙2、ジン小匙1、以上の調味料を一煮立てして:吸水させて絞った切り干しに和えます。「部長の昆布」を少々添加。ネタはクックパッドの投稿から。ただ、幾分かカスタマイズしています。ただ、酸性のつけ汁であるためか、赤い色に幾分か変色したようです。(写真は作った直後)

http://cookpad.com/recipe/3025275


 (2015.03.10)




@レバーと白菜の炒め物





鍋で使い残した8分の1くらいの白菜と、すでに味付け済みのレバーを炒めました。レバーと同じく目の健康に良いというクコの実を添えて。調味料はエバラ焼肉のタレ。また柚子の変種である「はるかオレンジ」の皮を少々入れました。

 (2015.03.11)




@野蒜(ノビル)のヌタ





庭の一角に密生している野蒜。そのため球根は小さく、また泥が取りにくいため、葉ごと熱湯で1分ほど茹でて、味付けしました。味噌+梅サワー漬け(青梅:酢:砂糖=1:1:1で漬けたもの)
それなりに野趣があります。

 (2015.03.12)






今日の一首



オカノリの
葉をむしゃむしゃと
食うタエコ


さてはお前も
草はむ者か



オカノリは、わが家で栽培している野菜、タエコはわが家の飼い犬です。それまで手の届く範囲にあっても、食べなかったオカノリを、美味しそうに食べるタエコ。これはタエコに献上しなければなりますまい。


おかのり(オカノリ):http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090604#1244112704

 (2015.03.12)