中国の古典・「老子」は短い文章の断章・81章(5000余言)からなる全体も短い文献ですが、その意味するところは非常に深いです。これから、3回に分けて、各章のキーワード、要諦を挙げてみようと思います。@1=1章と言う具合に表記します。81÷3=27章づつです。出典は「老子」(小川環樹・訳注:中公文庫)からです。このブログは、私のなかの老子にインデックスを付け、整理整頓する意味があります。ちょっと取っ掛かりにくい人もいると思われるので、一回置きにエントリーします。今回は2回目。
(承前)
@28:「硬さの力をしりつつ弱さを保てば、天下の谷となる。すると変わらぬ徳が身につく。それは削られる前の樸(あらき)・(切り出したままの木材)と同等である。」(@19参照)
@29:「天下は獲ろうとして獲れるものではない。固執すると失う。」
@30:「道を旨とする者は武力を用いない。 軍が屯(たむろ)したところは不毛の地となる。」
@31:「優れた武器は不吉な道具である。」&「戦に勝ってもこれを光栄とするな。する者は殺人を楽しむ者である。」祝勝パーティーを行う者は、横死する。
@32:「道の有り様。道は永久であって、名がない。」&「樸は小さいが誰も部下にはできない」
(@19参照)
@33:「優れた人物の有り様。他人を了解するのが知恵者であり、自分を了解するものが明察のある人である。(以下いくつか対句風に列挙)」「老子」は、韻を踏んだり、対句を用いたりと、詩のような形式を持つ。
@34:「大いなる道は漂う船に似ている。なにごとかなし得ても、自分の手柄としない。」
@35:「おおいなるカタチを保持する者には、天下の人びとが集ってくる。道が言及されるときは、淡白である。」
@36:「戦争に絶対負けない極意。」「ある者を弱めようと思えば、まずしばらくそれを強めなければならない。奪おうとすれば、まず与えなければならない。(他数例)」&「魚は深い水の底から離れぬがよい。国家の最も鋭い武器は何人にも見せぬがよい。」
(注)この章は古代の陰謀の書「周書」の文章が紛れ込んだとの説があるが、古くから老子の一章とされていたので、後者の説を採ることにする。要諦は、敵を意識的に増長させることによってその衰亡を早めることにある。易経にある考え方「満つれば欠ける月」をイメージすれば良いだろう。なお、後半の言葉「魚は・・・」は、現代の最強兵器・原子力潜水艦をイメージする。あたかも深い淵にいる魚がSLBMを発射するありさまが彷彿される。老子・全81章のなかでも、特異的な章である。
@37:「道は無為であるが、成されないことはない。」&「名づけられない「樸」は無欲の状態を産み出す。」(@19参照)
(ここまで上巻・「道経」と呼ばれる。以下 下巻を「徳経」と呼ぶ。合わせて「老子道徳経」。「老子」の正式名称である。)
@38:「徳の高い人は、それを自慢することはない。」&「仁・義・礼など儒教道徳の相対化。」
仁者や義者は、なにか動機があって「善行」を行うものなのだ。
@39:「一(いち:完全なるもの)・・・統一原理を知ることで、天も地も生物も生きながらえる。」&「王は自称として孤・寡・不穀を用いる。」
王は、世の不幸を体現するとされている。孤は「みなしご」。寡は「ひとりもの」のこと、不穀は「凶作で食糧が乏しい」こと。
@40:「道はあともどりする。弱さが道の働きである。」
@41:「人格による道の受容の仕方の差異(3ランク)。」&「大器晩成」
この「大器晩成」という言葉は、「大きな器がゆっくり完成するという意味ではなく、大きな器は完成しない」、という意味である。
@42:「道は一を生ず、一は二を生じ、二は三を生じ、三は万物を生ず。」&「万物は陰を負うてしかして陽を抱く。」
この部分は陰陽五行論や易経のものの見方と共通している。父・母・子の三位一体、万物の消長を語る易経と、親密性がきわめて高い。
&「凶暴なものは良い死に方をしない。私はこれを教えの父とする。」この章のように、前半と後半のつながりが見えにくいものも散見され、老子をひときわ難しくしている。
@43:「水は硬いものを無視して突進する。」&「言葉のない教え、行動のない行動に比べられるものは希である。」
老子が水を讃えるのは、以前の章にもあった。(@8参照)
@44:「名誉と身体、いずれを選ぶか。」「物欲が強すぎるとかえって巨大な損失を被る。」
「体を毀損しての名誉にどれほどの意味があるのか?」と疑問符を呈している。
また、物欲は煩悩の種である。
@45:「大成したものは欠落があるように見える。(以下同じような趣旨のことが対句で表現される。)」
@46:「戦争がなくなれば軍馬も農耕馬になる。」&「足るを知ることの足るは、常に足る。」
無制限に欲望を広げることへの反鐘。
@47:「家を出ないで天下のことを知ること。出ることが遠くなるほど、知ることは少なくなる。」
現代では、テレビ、ラジオ、ネットの力で世界のことがわかるようになっているが、老子はどのように世界のことを知っていたのか?それは、現代人にとっては謎である。また、旅行するものが、観光地ないし商業都市を訪れたとして、物を見る目のない者は、碌でもない情報しか得られないだろう。
@48:「学問をすると、知ることが増える。道を行うものは、することを減らしていく。」
ちょっとひねくれた見方をすれば、学問をやり、かつ道を行えば、知ることと行うことは変わらない。だから、どちらも必要と私は見る。
@49:「善人を良しとし、善人でない者も良しとして、善という観念が完成する。」
「不善」ということを知ってはじめて「善」ということも解る。両者は表裏一体なのである。この見方で、聖人はいろいろな人に差別を設けないのである。(@27参照)
@50:「生死を分ける道・・・だれが予測できようか。生に執着するものには死地に赴く者が多い。」
@51:「道は生きものを生み出し、徳はそれを養育する。」
「徳:とく」という漢字は、もともと画数が一つ多く、その文字を字解すると「素直な心で道を行く」と読める。そうすると、道でいろいろ有形・無形なお宝に会うであろう。漢字では同音の「得:とく」に通じる。
@52:「世界には母がある。母から子を知り、子から母を知る。そうすれば死ぬまで危害を受けない。」
@53:「民衆は飢えているのに、王朝はドンちゃん騒ぎで、鋭利な武器を持ち、飽食している国。道に外れた国である。」(←例えば現代の北朝鮮。老子のいた春秋戦国時代にも、このような国はあまたあったのだろう。)
@54:「しっかりしつらえられた器具によって、先祖を子孫が尊敬してやまないだろう。それは道の徳である。」&「統治者という目から徳ある人の姿を見る。」
国を治めることと家を治めることは、類似性がある。
(以下、次回)
参考過去ログ :老子の七定理
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今日の料理
@ナスの煮びたし
わが家では、このレシピで作った料理を「ナスの煮びたし」と呼んでいます:ナスを縦に切り、横に切り込みをいれ、「醤油+砂糖+酢(少々)」のタレで10分ほど落し蓋をして煮る・・・皿に移
し、オロシショウガとカツオ節をトッピングする。これで案外美味しいのです。
@ヤマトイモの短冊切り
これは弟の発案で、短冊切りしたヤマトイモを「マヨネーズ+ポン酢+コチュジャン」で和えたものです。ただ、三種の調味料のバランスが均等すぎて、おとなしい味になりました。以後の課題ですね。なお、ヤマトイモは、ヤマイモ、ナガイモと異なり、粘りが非常に強く、とろろがけご飯に最適です。利根川の土砂が作った砂質土の土によく育ち、群馬県太田市、埼玉県妻沼町(めぬままち)の特産になっています。
(2013.08.28)
今日の二句
ああ鳩や
胸を抉られ(えぐられ)
死ににけり
一体、なにが原因で、このような悲惨な運命がこの鳩を襲ったのでしょう?
鳩は、なにも語りません。
(2013.08.28)
レディ・ガガも
こう咲くかもね
ガガイモや
ガガイモは、ちょっとヤマイモに似たつる性植物で、食用には適さず、薬用としての用途があったように思います。花は可憐でレディ・ガガに喩えました。
(2013.08.31)