虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

老子第1章と仏典(特に般若心経)+ラスコリニコフ(随想録―14)

老子第1章と仏典(特に般若心経)


難解で名高い『老子』でも、出だしの第1章は特に難解だ。この章でつまずき、それ以上読むのを諦めた人も多いだろう。どんな文かと言うと(書き下し文および日本語訳:小川環樹:中公文庫)


道の道う(いう)可きは、常の道に非ず。名の名づく可きは、常の名に非ず。名無きは、天地の始めにして、名有るは、万物の母なり。故に「常に欲無きもの、以て其の妙を観、常に欲有るもの、以て其の徼(きょう)を観る」。此の両つの者は、同じきより出でたるも而も名を異にす。同じきものは之を玄と謂う。玄の又玄、衆妙の門なり。


「道」が語りうる」ものであれば、それは不変の「道」ではない。「名」が名づけうるものであれば、それは不変の「名」ではない。天と地が出現したのは、「無名」(名づけえないもの)からであった。「有名」(名づけうるもの)は、万物の(それぞれを育てる)母にすぎない。まことに「永遠に欲望から解放されているもののみが『妙』(かくされた本質)をみることができ、決して欲望から解放されてないものは、『徼』(その結果)だけしかみることができない」のだ。この二つは同じもの(鋳型)から出てくるが、それにもかかわらず名を異にする。この同じものを、(われわれは)「玄」とよぶ。(いやむしろ)「玄」よりもいっそう見えにくいもの(というべきであろう。それは)、あらゆる「妙」が出てくる門である。


漢字では約60字。 般若心経は諸説あるが270文字としよう。ほぼ4.5倍、般若心経のほうが漢字の使用量が多いことになる。たぶん、仏典で最短であろう般若心経だが、呼び掛けの言葉など、無駄な部分が多い。


私は、老子第1章と般若心経は、同等なことを言っていると思う。有名な「色即是空、空即是色」という革新的な言葉、色は「欲」、空は「その忘却」とすると、「色」=「有」、「空」=「無」と関係付けられよう。お金は、生きていく上で必要だが、投機の対象とお金を見ると、ビットコインなどという邪道に落ちこむ。「欲」=「色」=「有」の境地であり、老子はこれを細道=徼(きょう)とするのだ。ビットコインをやり取りする人は、お金の本質を見ることはない。その無意味性に気付くかどうか・・・


「有は無から生じる」(老子第40章)そして有は無に帰す。これは、生死の境目を語った名句だ。悟りの境地。「死」について悩むことはない。ただ無に帰るだけのことだから。仏典すべてあわせても絶対評価で、老子の60語強には及ぶまい。


iirei.hatenablog.com

 (2022.02.25)






今日の詩

@眼から鱗:ラスコリニコフを超えて


最近の週末、某スーパーに寄った。
レジに並ぶと、先客の老婆が会計していた。
よくあるパターンだが、この人、頭が回らぬ。


2万円弱を請求されて小銭を処理したいのか、
のろのろした手つきで、コインの枚数を
ああでもない、こうでもないと数え始めた。


いつまでやっているのやら・・・(と私は思った)
終いにはコインを床に散乱させた。(!!)
私は「なにちんたらやっている!遅いぞ!」と怒鳴った。


そこで近くにいた・老婆の息子と思しき男が言った:
「遅くて、当たり前だろう」
この男、老いた母の後見人なのだろう。


――私はこのひと言で、毒気が失せた。
そう、私のように動作が速いものより、
遅い者のほうが圧倒的に多いのだ。


罪と罰』に登場するラスコリニコフのような
感性を、私も持っているので、この言葉が響くのだろう。
これは人生の転機になる事例かも知れないゾ。


それにしても、そのやり取りのあと、老婆は
「なんか言われる筋合いなんてないのよねえ」
:バカめ。筋合いがあるから私は怒鳴ったのだゾ。


 (2022.04.10)





今日の6句


スギナの子
継子(ままこ)扱い
所在無げ


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 ツクシ(土筆)はスギナの子どもです。

 (2022.04.10)



誰が元
「山笑う」とは
よくぞ言い


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 (2022.04.10)



この扇
飾りでなけりゃ
機能なに?


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水道橋に付いていた不審な構造物。

 (2022.04.10)



ネモフィラ
青ぞ天から
降り来る


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 (2022.04.11)



野草たち
気勢を挙げる
水滸伝


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 (2022.04.12)



麦の穂の
彗星たちが
宇宙ショー


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 よく見ると、麦の穂は、天体に思えます。

 (2022.04.12)