虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

「負けて、負ける」〜〜「戦後史の正体」(書評)

 昔、「吉田学校」という映画がありました。「優れた」政治家・吉田茂のもとに集まった政治家志望の若者を描いた映画であると、私は思っていますが(違ったらごめん)、その吉田を主人公にした渡辺謙主演のNHKのTVドラマ「負けて、勝つ」が、実は「負けて、負ける」という題名のほうが相応しいと思わされるのが、この本です。


 「戦後史の正体 1945−2012」は元外交官の孫崎享(まごさき・うける)さんの著作です。ことに、日本の外交とは、9割が対アメリカに精力が割かれるなかに於いて、アメリカが日本に押し付けてくる無理難題について、時の総理大臣がどう関わるかで、その総理の命運が左右されるという視点が斬新です。


 三つの反応があります。また、そのような反応を取った総理大臣を挙げますと(本P366−P368)


@対米自主派・・・積極的に現状を変えようと米国に働きかけた者
       重光葵(まもる)(この人は外務大臣)、石橋湛山岸信介佐藤栄作田中角栄細川護熙鳩山由紀夫など


@対米追随派・・・米国に従い、その信頼を得ることで国益を最大化しようとした者
       吉田茂池田勇人三木武夫中曽根康弘小泉純一郎など


@一部抵抗派・・・特定の問題について米国からの圧力に抵抗した者
       鈴木善幸竹下登橋本龍太郎福田康夫など


このリストを眺めるに、対米追随派の首相は、長期政権になることが多く、対米自主派の
首相は、短命政権になることが多いですね。佐藤栄作は、対米自主派でも長期政権でしたが、アメリカの要求・・・繊維問題に対応しなかったために当時のニクソン政権から、円の為替相場を1ドル=360円とする従来の相場を変動相場にされ、その他意地悪を沢山され、退陣となりました。


 吉田茂の場合、アメリカの言うがままに振舞わないと、首が飛ぶということが怖かったのでしょうが、重光葵は、軍備についても、アメリカにリーズナブルな発言をしています。:降伏直後の軍事植民地化政策を阻止。のちに米軍完全撤退案を米国に示す


これに対して吉田茂:安全保障と経済の両面で、きわめて強い対米従属路線を取ります。1951年のサンフランシスコ講和条約の際、ひっそりとした下士官会館の一室で、安全保障条約(安保)のサインを、日本側からは吉田だけ、アメリカ側からは4人がしています。屈辱的な内容の条文でした。「米軍は、日本で、望むだけの軍隊を、思う期間、思う場所で展開できる」ということです。


私は吉田の言葉として「軍事はアメリカに任せて、日本は経済に専念すればよい」というのを聞いたことがありますが、これは、負け犬根性のなせる発言だと思いますね。「負けて、負ける」です。


 岸信介(きし・のぶすけ:安倍晋三の祖父)は、安保改定をしたので従属派であると思われがちですが、安保に「ちゃんと米軍が日本を守ること」を明記した点は優れています。(それまでの条文では「・・・することができる」と、日本を守らなくてもよいとなっていたのです。):従属色の強い旧安保条約を改定。さらに米軍基地の治外法権を認めた行政協定(=地位協定)の見直しも行おうと試みる。安保闘争の記述にも多くページが割かれていますがそこはお読みください。(複雑で込み入った話なので、うまく整理できませんでした。)


ひとつ、日本がやってはならない活動をアメリカは設定していました。それはアメリカを出し抜いて中国と国交を結ぶ行為です。その禁忌を破ったのが田中角栄の訪中でした。一時は権勢を振るった田中でしたが、立花隆の金脈・人脈レポート、またロッキード事件で裁判に掛けられたのは有名ですが、田中が行った中国との国交回復に、キッシンジャーアメリ国務長官は激怒したらしく、なんとしても田中を蹴落としたいので、親アメリカの三木武夫に音頭を取らせて、通常の司法措置ではない手法を使って田中をはめたということです。かの岸信介も中国との関係改善を摸索していたらしいです。


 今日のひと言:いわゆる北方領土問題、これをソ連と日本の国際問題にさせたのは、アメリカだという話もこの本には掲載されています。ヤルタ協定で、アメリカ大統領は、ソ連に日本の北方領土を掠め取ることを提案=容認しています。潜在的に自国にとって敵になりそうな国家同士に火種を残すことによってアメリカが安泰だという戦略で、実際、ロシアと日本の和平の障害になっているところを見ると、じつにクレバーです。この策略は、アメリカの先輩のイギリスが良くやった手法だそうです。(たとえばインドVSパキスタン


TPPも、いかに日本にとって危険か、ということも最後に触れられています。アメリカ人の本音:「鎖国の壁の中に宝物を隠す権利はない」・・・これがTPPの本心です。


 ええーー、まさか!!といった話がてんこ盛りであるこの本、おススメです。


なお、私がこの本の存在を知ったのは、
http://d.hatena.ne.jp/SPYBOY/20120817

で、読了した際に以下のやり取りをしました。

iirei:私も今日、「戦後史の正体」(孫崎享)を読了しました。いやあ、本当、日米関係は「無理難題を押し付けてくる」アメリカとその時々の総理の確執で出来上がっているのですね。


SPYBOY:一部は本当かいなと思う点もありましたが、新鮮な視点の本でしたね。私は大変勉強になりました。
アメリカが自国のことしか考えないのは当たり前ですけど、日本の政治家・役人が自国民のことを考えない(笑)、これが問題の本質じゃないでしょうか。今回の沖縄の件でもつくづくそう思いました。(個人として)ルース大使のほうが、日本の政治家よりはるかに問題を深刻に考えているように見えました。


http://d.hatena.ne.jp/SPYBOY/20121019 より

現在の政治家・官僚を見ていると、SPYBOYさんの言われる通りかと思います。


なお、日本サイテーの首相であった森喜朗の逸話に面白いものがあります。アメリカにわたり、クリントン大統領と会った際、英語でつぎのようなやり取りを想定して、予め外務省はレクチャーしたそうです。


How are you?
I’m fine. And you?
Me,too.

お元気ですか。
ええ、あなたは?
私もです。

このような会話になることを想定していたのですが、森は


Who are you?
(あなたは誰ですか?)
とやってしまい、クリントンはとっさに
I’m Hillary Clinton‘s husband.
(私はヒラリー・クリントンの夫です)
と答えたのですが、森は
Me,too.
(私もそうなんです)←!!
と返したそうです。ヒラリーは重婚しているのか?・・・お粗末な首相で、クリントン夫婦は、日本の首脳とは知的会話ができないと言っていたそうです。(以上のエピソードは、ホントにあったかは不明ですが、外務省ではまことしやかに語られたそうです。)

「戦後史の正体 1945−2012」
孫崎享   創元社   2012.8.10 初版



今日の料理

長いものケチャップ和え


ヤマトイモと異なり、ナガイモヤマイモはご飯にかけるとろろにするには粘り不足で、イマイチだったので、短冊切りにして調味することにしました。弟がケチャップを使ったら?というので、ケチャップ+クレイジーソルトで和えたところ、欧風のような味がして美味でした。

  (2012.11.21)



今日の一句

線香の
花火飛び散る
ノギの穂や


犬の散歩中、用水路の上でイネ科の雑草(芒:のぎ)の穂が火花を散らしているかのように見立てて。

  (2012.11.22)


11月23日夜、ブログ仲間のwhitewitchさん夫妻と太田市で飲み会を持ちました。太田市南一番街・・・昨今では「北関東の歌舞伎町」と呼ばれるほど、風俗店が多いのですが、我々はそちらには見向きもせずに、健全な飲み屋・「玄」(げん)でわいわい会話・食事・お酒を楽しみました。私は拙著3冊と野菜「おかのり」の種付きの穂をプレゼント、whitewitchさんからは、手作りのクッキー・「ココナッツ・マカロン」、自宅の無農薬柚子、千葉名産のピーナッツ、そして、入手困難なハーブ・レモンバーベナ」の挿し木苗2株・・・しかも挿し木が成功した3本のうち2本を下さるとは・・・感激しました。腹ごしらえをした後は、カラオケ店「歌○」(うたまる)でひとしきりシャウトしました。夫妻ともに歌が上手かったなあ。また会おうね。


戦後史の正体 (「戦後再発見」双書1)

戦後史の正体 (「戦後再発見」双書1)