虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

ヨハン・シュトラウス2世・ワルツ王の影

ダンス特集その1(全2回)
ヨハン・シュトラウス2世
(wiki)→


 ヨハン・シュトラウス2世と言えば、世に「ワルツ王」という通称があり、実際ゴージャスでサービス精神旺盛で、しかも芸術性の高い音楽を量産したことで知られます。ワルツとしては「美しく青きドナウ」・「春の声」・「皇帝円舞曲」などの傑作があると同時に、オペレッタ作曲家として「こうもり」を作曲し、現在でも彼の活躍したウイーンでは、この曲は年末年始の音楽界でスタンダード・ナンバーになっています。


 ワルツという舞踊は、3拍子で、男女が密着して踊るものであるため、暫くは「ワルツ禁止令」が出されたことがあります。でも、今からの視点で見ると、とくにヨハン・シュトラウス2世のワルツは、芸術性も完成度も高く、これは音楽の立派なジャンルに入るとも思われます。以下は「皇帝円舞曲」の画像と解説。


皇帝円舞曲』(こうていえんぶきょく、独語:Kaiser-Walzer)作品437は、ヨハン・シュトラウス2世が1889年に作曲したウィンナワルツ。当初は『手に手をとって』(Hand in Hand)という題名が付けられていたが、ドイツ帝国皇帝ヴィルヘルム2世がオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世を表敬訪問した折に、「両皇帝の友情の象徴」として、現在の呼び名に改められた。1889年10月21日にベルリンにて初演された。


ヨハン・シュトラウス2世の晩年のワルツの中では、最も人気のある楽曲と認められている。随所できらびやかで荘厳な表現が認められる。静かな行進曲による導入部に始まり、力強いクレッシェンドによってワルツの主部が予告される。ワルツ本体が導かれるにつれ、雰囲気はつねに勝ち誇ったような調子を帯びていく。演奏時間約10分。

Wikipediaより


 ところで、シュトラウスの家族関係はそれほど恵まれたものではありませんでした。父ヨハン・シュトラウス1世は「ワルツのナポレオン」と称されたやはりワルツのプロフェッショナルであり、特に「ラデツキー行進曲」などですでに一家をなした名音楽家であり、2世も音楽家の道を目指していることを知ると、実家を飛び出し、愛人のもとに身を寄せてしまいます。音楽なんていうお金にもならないジャンルを息子に歩ませたくなかったからだと言われています。


 ヨハン・シュトラウス1世の「ラデツキー行進曲」:


 以後、2世(以後ヨハン・シュトラウス2世をこう略記します)に立ちふさがるように音楽活動をしますが、1世の死後は、1世のテリトリーに2世は容易に入りこめ、引く手あまたになったため、2世が多忙になったにつき、今度は一家の次男ヨーゼフ、三男エドゥアルトを、母親と共に唆し、本来別の職種に就きたかった2人を音楽家にしてしまいます。(ヨーゼフは建築家、エドゥアルトは外交官志望でした。)このことは、のちにヨーゼフの非業の死エドゥアルトの鬱屈に繋がります。


 また、2世は一生の内にロシア婦人オルガとの火の出るような恋愛に身をやつしますが、結婚はオルガとは別の女性と3回行っています。最初の妻・イエッティは元メゾソプラノ歌手で貴族と愛人関係にあったことも、私生児を7人も産んだことのある身持ちの悪い女性でしたが、周囲の反対を押し切って結婚したところ、案外彼女は出来た女で、作曲家としての2世の仕事を助ける内助の功を発揮します。お互い「私のぼうや」「僕の大事な宝物」と呼び合っていたそうで・・・書いてるこっちが恥ずかしくなりそうですね。彼女は演奏家としてより作曲家として業績を挙げることをアドバイスし、2世もそれに従います。ヒゲを立派に蓄えることも彼女のアドバイスです。彼女の意見は、おおむね2世を良いほうに導きました。


 また、2世は生まれつきのエンターティナーで、観衆が喜びそうなことを進んでやっていました。即興で、その場の空気を読む力が凄いのです。たとえば工学部の学生舞踏会に演奏を頼まれると、「電磁気ポルカ」などの曲を作曲しています。


 2世の野望は「ワルツの王」という称号には満足せず、「オペレッタ」・「オペラ」に向かいますが、オペレッタとしては喜劇的寸劇である「こうもり」に結実して、今でも前述のようにウイーンの年末年始を彩りますが、残念ながら3年間暖め、満を持して発表したオペラ「騎士パスマン」は不評で、1899年、2世は世を去ります。(オペレッタは短い喜劇で長大で芸術的なオペラより一段低く見られていたのですね。)


喜歌劇「こうもり」序曲:


今日のひと言:今回ブログの種本は「ヨハン・シュトラウス  「ワルツ王」の喜びと悲しみ」(ひのまどか著・リブリオ出版)です。いわゆる児童書ですが、かなり深く書かれていて、参考になりました。つけ加えると、2世の都合から弟ヨーゼフを音楽の道に引っ張りこんだのに、その自分を超えるかもしれない弟の才能に常に警戒心・猜疑心をもっていたらしいことも書かれており、家族制度って残酷だなあ、と思わせるに十分でした。



今日の一句

ひめやかに
美しく咲く
ゴマの花


 ゴマの花は、あまり注目されませんが、美しい花だと思います。ピンクの妖精。
 (2012.08.13)