虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

遺伝子のヴェクター(運び屋)としての姫たち/江〜姫たちの戦国〜


 今年2011年のNKH大河ドラマ江〜姫たちの戦国〜」を観ていて、気がついたことがあります。


それは、織田信長が、宿敵・浅井長政を倒した際、彼とその父、および朝倉義景の頭蓋骨で杯(さかずき)を作り、それで酒を飲むほどの憎悪ぶりを示したのに対し、その娘の三姉妹・・・茶々、初、江の三人には優しく接していた点です。


もちろん、彼女らの母は、信長の妹・お市の方であるから、もともと身内であるとも言えますが、もし、その子が男子だったら、信長は、ためらわずその子を殺していたでしょう。・・・実際、長政には嫡男浅井万福丸という男子がいたそうで(この人はお市の方の子ではないようですが)、信長は容赦なく秀吉に命じて磔刑に処したそうです。この時・万福丸10歳だったそうです。このエピソードは「江」の中では一切触れられていません・・・


 このような例は、動物の世界にもあり、ライオンやハヌマンラングールといったものたち、特に群れ(プライド)を成す動物であれば、群れのリーダー(もちろんオス)を追い落とした若いオスの個体が、その群れにいるオスたちをかたっぱしから殺すという行動――ブルース現象が見られます。メスは殺しません。そして、子供が減ったメスライオンは発情し、新しいリーダーと子供を作ります。


 ライオンたちがなぜこういった行動をとるかというと、それはリチャード・ドーキンスによる「利己的な遺伝子」の理論にぶち当たります。オスライオンは、他のオスの遺伝子だけを持つ子を嫌い、自分の遺伝子そのものが残せるような行動をとります。これがブルース現象です。だから、自分と同性のオスライオンは殺し、自分の遺伝子を受け取ってくれるメスライオンは殺さないのです。そして、子供を殺されたメスライオンは、オスにとっても都合よく、種族を残すためにも「発情」するといいます。


 「江」は、3度の結婚をします。最後に収まったのは、徳川家康の跡取り、二代将軍・徳川秀忠の妻です。ここで考えなければならないのは、「江」は、織田信長に繋がる遺伝子、浅井長政の遺伝子、徳川家康の遺伝子を持つ子・・・徳川家光を産んだということです。家光は、すべて当時一廉(ひとかど)の実力者の遺伝子を持ち合わせているのです。


 こう見ると、女性である姫たちの大きな存在価値として、「偉大な」遺伝子のヴェクター(運び屋)があると思われます。こういった姫たちと結婚することで、より優れた子孫を残せる、と無意識のうちに昔の人は気付いていたのかもしれませんね。だから、姫たちは殺されない・・・いや、むしろ、意識的に優遇していたかも知れません。
あまり、ライオンの群れと変わりありませんね。


 ところで、数年前、皇太子夫婦に女児が授かった際、後継男子がいなければ、「女帝」の即位もありかな・・・という状況になったとき、高崎経済大学八木秀次教授が、「Y遺伝子が伝わらないから、「女帝」には絶対反対」という論陣を張ったことがありました。天皇家の独自性は男性由来の、男性のみから伝わるY遺伝子にあるということですね。もっとも、その論争は、秋篠宮家に皇位継承権者第3位の男児が誕生したので立ち消えになってしまいましたが。(ここに言うY遺伝子X遺伝子というのは、性遺伝子です。)


 思えば、天皇家も、後の徳川家と同じく、「優れた」遺伝子を取り込むように行動してきました。蘇我家藤原家平家・・・etc。そして、姫を妻にする限り、Y遺伝子は確かに生まれる男児には引き継がれます。それが天皇家のオリジナリティであるといえばそれまでですが、もし、女性が天皇だったら、生まれてくる男児のY遺伝子は、天皇家由来のものではなくなってしまうわけです。Y遺伝子は引き継がれません。その時点で営々と受け継がれてきたY遺伝子は途切れます。


 ただ、これほどY遺伝子にこだわる日本のような国も珍しいと思います。(イギリス王室などはもっと緩やかだったようにも思えます。)もともと、Y遺伝子は不安定であり、X遺伝子のほうが安定しているのです。ただ、「江」たちに求められたのはY遺伝子ではなく、優れたX遺伝子であり、この点も遺伝子のヴェクターである彼女たちの運命も一種哀れに感じます。あくまでY遺伝は亭主である男のものを受け入れるのですからね。



今日のひと言:いつか自民党柳沢伯夫氏が言った「女は子供を産む機械だ」という発言、現在のような性環境では、一面の真理を突いているものとも思われます。もっとも、「男は子供を産ませる機械」なのですが。

利己的な遺伝子 <増補新装版>

利己的な遺伝子 <増補新装版>



今日の一句

この時期に
早くも咲くか
シロザかな


近くの休耕地にはえる野草、まだ本格的な夏にもなっていないのに、もう花をつけていました。シロザアカザの同類の野草で、秋に花が咲き、実がなるのですが・・・イヌタデの花も咲いています。・・・なにか異変でも起きるのでしょうか?
    (2011.05.31)



群れ雀
天の余禄
麦を喰い


以前にも同じ趣旨の句を書いたかも知れません。スズメは人間と極めて近い距離に住む鳥類で、人間が出し入れした食料を漁ります。穀物が稔った時期には、群れをなして食べに来ます。
    (2011.06.01)