虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

インドのカースト制度と天才数学者ラマヌジャン

数学者特集  その2(2話完結)



 シュリニヴァーサ・ラマヌジャン(1887−1920)は、インドが誇る天才数学者です。南インドのクンバコナムで貧しいバラモンの家に生まれ、現代数学の薫陶をほとんど受けずに、いろいろな数学上の公式をひねり出しています。(ただし、バラモンの家であることに注意して下さい。)


 彼の業績の姿に心打たれたイギリス・ケンブリッジ大学の教授・ハーディは、ラマヌジャンをインドから招聘します。1914年のことです。そして驚いたことに、数学者であるはずのラマヌジャンは、「証明」という、数学には基本的な概念が全然理解できていなかったのです。採点好きのハーディは、自分の数学的センスを25とし、同僚リトルウッドが30点、当時の大数学者ダビッド・ヒルベルトが80点、ラマヌジャンに至っては100点としています。


あとでラマヌジャンの公式に証明を与える仕事をハーディとリトルウッドがやっています。ラマヌジャンの発見した公式は、20世紀末まで証明が考えられました。まあ、どこから着想したかはわからないけど、すごい「公式屋」さんではあります。彼は、智恵の女神の恩恵で・・・着想したと言っていたそうですが・・・もっとも、公式を作ることが多くても、ラマヌジャンの業績がガロアの業績に及ばないのは当然のことです。ガロアの「群論」は、単なる公式たちのカテゴリーには留まらないからです。


 さて、ラマヌジャンの悲劇はこれからです。先ほど、彼はバラモンの家に生まれたと書きましたが、ヒンズー教の世界ではかれこれ5000年、いまでも「バラモン、クシャトリア、バイシャ、スードラ」の4大階級があり、その効力を保っています。


 最上位のバラモンが、どれだけすごい食事を摂っているか、というと、これが、食べてはならない禁忌が多く、菜食主義なのはモチロン、野菜のなかでも根菜類は、「土の中でそだっていて穢れている」という発想をもつのです。こんな食生活では短命に終わる人も多いかと思います。そのような食事制限をみずからに課していることがバラモンの「誇り」なのです。(「明るいチベット医学:大工原ヤタロウ:情報センター出版局」より)禁忌が多いほど、食べられる食物が限定されるほど、「偉い」というわけです。この点、インドならではですね。他の国なら、例えば「ホリエモン」のように各地の珍味を味わいつくすところが。そんな訳で、バラモンの階層の人の平均寿命は30歳くらいだと「明るいチベット医学」にあります。


 留学中、ラマヌジャンは、恐らくバラモンの禁忌に触れる食生活を余儀なくされていたと思われ、体を壊し、傷心の思いで故国インドに帰ったのでしょう。そして1920年に死亡。結核ともアメーバ性肝炎とも言われます。


(以上の文を踏まえて)
BRICs諸国の一つとして日々発展しているインド。「中国には資源があるが人材がない、インドには人材があるが資源がない」と、ある意味好意的に捉えられているインド。


この国は、中国のような海賊版を作らず、タタ自動車のように20万円で自動車を創造する優れた国です。人材が多いのですね。ただ、出世する人は高等教育を受けられる階層の出身であることが多いだろうと言えます。低い階層からは、優れた人材が出にくいわけですね。


そう、この国の場合、カースト制度という重い枷(かせ)があります。この身分制度を維持したままでは、これ以上の発展は望めないでしょうね。これまでも、いまでも、カースト制度は厳然としてあり、結婚も同じ階層から相手を選ぶようだし、生まれ持った階層は一生変えられません。輪廻転生思想とも結び付き、カーストの枷は強固です。



今日のひと言:カーストが違うと「食べ物」まで変わるこの奇習、改善すべきでしょうね。普通の食生活をしている我々から見れば、確かに変でありますから。



(↓「天才の栄光と挫折」に、ラマヌジャンの記述があり、本ブログはそれを多く参考にしました。)

天才の栄光と挫折―数学者列伝 (文春文庫)

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明るいチベット医学―病気をだまして生きていく (センチュリープレス)

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