虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

エサ(餌)としてのレバノン人民

 *エサ(餌)としてのレバノン人民
 イスラエル軍と、レバノンにいる武装民兵組織ヒズボラとの戦闘がやっと一応の終息を見た。この戦闘において不可解なのは、イスラエル軍の無差別ともいえる爆撃であり、自らアラブ人の敵愾心をあおっているように思える。また、アメリカは仲介の労を取ろうとせず、イスラエルの行動は正当防衛であるとしている。これも不可解だ。ヒズボラ武装解除に応じず、8月31日現在も、停戦は完全には成立していない。
 以上の事実を、ある視点で見ると、理解可能である。アメリカは、重大な国家戦略を持っている。それは「イランを叩く」ということである。それは揺るぎない、ぶれないものである。ジョージ・ブッシュ大統領はかつて「悪の枢軸」として「イラク、イラン、北朝鮮」を挙げていたが、イラクを落とした今、標的はイランになる。北朝鮮は、どうでも、いい。つまり、アメリカは同盟国のイスラエルを使って、ヒズボラの背後にいるイランを挑発しているのだ。そしてイランがその挑発に乗って手出ししてきたとき、宿願のイラン征伐が出来る、という寸法だ。アメリカが戦争をしたいときには、必ず「敵が先制攻撃をしかけてきて、自らは被害者となったとの立場を取りたがる。」太平洋戦争しかり、9.11しかりである。以上はあくまで仮説だが、説得力のある仮説であろう。ここで述べた見解はメルマガ「ロシア政治経済ジャーナル」(北野幸伯 主宰)による。(バックナンバー:409,410,411)北野氏は、高校卒業後、ソ連(今のロシア)に渡り、現地の有力大学を卒業し、ソ連崩壊前後の混乱を耐え抜いた傑物である。読む価値のあるメルマガなので、購読をお奨めする(無料)。ありきたりの政治評論家や経済評論家の説ではお目にかかれない分析にあふれ、またよく的中する。目の前の現象に惑わされない視点を持っている。
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 この説が当を得ているとすると、2つの思いが浮かぶ。
①国家戦略というものの持つ非情さ。この筋書きでは、レバノン人民は、釣りのエサに過ぎないことになる。無残にも爆死した人たちはアメリカの目には入らないのだろう。あるいは、アメリカはチェスのプレイヤーで、レバノンイスラエルも持ち駒であるということになるか。
アメリカが「イランを叩く」という国家戦略を持つのに比べ、日本の場合は「アメリカに追随する」というあたりが国家戦略になるのだろうな。でも、これでは独立国家としての体をなしていない。北野氏いわく「日本はアメリカの天領」。当っていると思う。
国際社会において、自らの意志を押し通す強さと狡猾さを持つ国家だけが生き残れるのだろう。日本にはどちらもない。「全方位外交」という方法もあるが、こんな八方美人的な考え方ではダメだろう。ちょっと似てはいても、中国のような狡猾な外交とは、天と地ほどの差があるのではないか。


今日のひと言:インドの首相(たしかバジパイ首相)が広島の原爆資料館を見学した際、「このような悲惨な目に我が国民を会わせたくない」との理由で原爆の所持を正当化したという話がある。案内した日本人には意外で心外な反応に思えたであろうが、このような反応が世界では当たり前であると思う。日本人が例外なのではないか。まず、自国民の利益を考えるのが通常の国家だ。その意味でインド首相の反応は当然であろう。一方、「人類一般」の利益を考えるのが日本流といったところであろうか。
  国家戦略のない国、日本。よく、日本の政治家とかマスコミとかは「国際社会がうんぬん」という言葉を
口にするが、国連自体、各国の利害関係の調整以上の力は持たず、アメリカはアメリカの、ロシアはロシアの
国益を追求して止まないのだ。日本は国連に代表される「国際社会」というものに、過大な期待を持っていの
ではないか。
PS 「自国民の利益」や「国益」という表現が、あらゆる階層の人を指しているのではないことは論を俟たない。
アメリカのニューオーリンズのハリケーン・カトリーヌによる災害の連邦政府による対応を考えれば容易にわ
かります。