島崎藤村の『若菜集』には、青春の喜びを告げる詩が多いように思いますので、青空文庫を参照して、この大きな詩集から、出だしの方の2詩を挙げてみます。
@初恋
まだあげ染めめし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の杯を
君が情けに酌みしかな
林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
もう一編。
@狐のわざ
庭にかくるゝ小狐の
人なきときに 夜いでて
秋の葡萄の樹の影に
しのびてぬすむつゆのふさ
恋は狐にあらねども
君は葡萄にあらねども
人しれずこそ忍びいで
君をぬすめる 吾が心
どちらも良い詩だと思います。「初恋」は藤村の詩のなかでも、「椰子の実」と並び特に有名で、中学くらいの頃、読まされた記憶があります。最初の2連が特に人口に膾炙していますが、後半2連を良く読むと、恋の対象の女性との「嬉しい」やり取りが綴られていて、飽きさせません。小さな道が出来たのは、彼が彼女のいる場所に足しげく通ったからなのでしょう。なんとも林檎のように甘酸っぱい初恋の一断片です。
「狐のわざ」は、その恋の逆の側面を表現しているように思います。この詩想は『伊勢物語』の「芥川:あくたがわ」が発想の原点かも知れません。恋する高貴な女性を盗んで逃げた昔男の物語(第6段)。また、この「葡萄:ブドウ」とキツネの組合せは『イソップ物語』の「酸っぱい葡萄:sour grapes」の逸話も連想させます。たぶん長野県は果物栽培に向く土地柄、林檎や葡萄が詩のモチーフになるのは自然なことなのでしょう。これら複数の情報を処理して、一篇の詩をまとめ上げるのは、詩人の力量だと思います。
それにしても文語体の詩は、心にしっくり来ます。風格を感じるのです。文語体の詩について、萩原朔太郎と佐藤春夫の論争があります。それについての過去ログ。
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20121130#1354269786
島崎 藤村(しまざき とうそん、1872年3月25日(明治5年2月17日)- 1943年(昭和18年)8月22日)は、日本の詩人、小説家。本名は島崎 春樹(しまざき はるき)。信州木曾の中山道馬籠(現在の岐阜県中津川市馬籠)生まれ。
『文学界』に参加し、ロマン主義詩人として『若菜集』などを出版。さらに小説に転じ、『破戒』『春』などで代表的な自然主義作家となった。作品は他に、日本自然主義文学の到達点とされる[『家』、姪との近親姦を告白した『新生』、父をモデルとした歴史小説の大作『夜明け前』などがある。
詩にも小説にも才能を発揮した人だったと思います。『破戒』なんかスゴイです。
今日のひと言:藤村の詩は、4行が1セットで構成されることが多いようです。彼は几帳面な人だったか、と思います。ロマン主義詩人には、ドイツのハイネ、イギリスのブレイクなど、錚々たる人たちがおり、藤村も彼らを目指したのでしょうね。
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20131130#1385765834
:ハイネの詩〜抒情詩の達人
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20160118#1453068342
:ブレイク:スペルと文法がいい加減だが美しい詩
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今日の一品
本日、弁当屋で買って食べました。細切りのキュウリも入っていて案外さっぱりしていて、美味しかったです。
「豚のひき肉や細かく切ったものを黄醤(豆味噌)や甜面醤で炒めて作った「炸醤」と呼ばれる肉味噌を、茹でた麺の上に乗せた料理。日本では炸醤に細かく切ったタケノコやシイタケなどを加えたりする。好みで千切りのキュウリや細切りのネギなどの他、北京では大豆などを乗せる。日本では茹でたモヤシやチンゲン菜などが乗せられることもある。
中国の炸醤は本来は塩辛く、炸醤麺の味付けも日本式のような甘めでピリ辛の味付けではなかった。昨今は甜麺醤などを用いたり、糖分を加えた甘めの味付けがされているものも存在している。また麺も鹹水を用いない太くて平たい麺が使用されている。この本来の中国式の炸醤麺の特徴を受け継いでいるのが盛岡のじゃじゃ麺である」 (カッコ内wiki)
(2018.09.21)
@アボカドのポン酢掛け
色々な味付けができるアボカド。今日はポン酢和えで。
(2018.09.21)
@カボチャのマリネ
庭で3個ほどのカボチャが採れたので、2個目を半分煮漬けにし、4分の1をマリネにしました。(残り4分の1は冷凍保存)煮た後マリネ液に漬けましたが、ちょっと皮が硬かったです。もう少し煮たらベターかな。
(2018.09.23)
@ハンペンとキャベツのスープ
以前挙げたハンペン煮の料理の発展形。シャトル・シェフで刻んだキャベツ、ワカメ、クコの実、キクラゲを煮て、オイスターソースで味付け、最後にちぎったハンペンを加え、20分位保温調理。お椀についで山椒を掛けます。
(2018.09.25)
今日の詩(2編)
@キノコX
ふわふわの
絨毯(じゅうたん)の上
キノコ生じる。
美味しそうだが
食べもせず。
怖いもの。
このキノコX、
家の北・じめじめしたところに
幾つか生えた。
ヒバらしき
針葉樹の落ち葉が
絨毯(=栄養)だ。
(2018.09.21)
我が家に昔からあった玩具。
棚の上にあったり落っこちたり、
そのままにしたりして・・・
冷遇していた。
可愛い女の子の顔をした
起き上がり小法師。
一度転倒しても必ず
起き上がる。
この玩具、いつから
我が家にあったかさえ
思いだせない。
我が家の主かも知れない。
(2018.09.22)
今日の二句
雨雲を
凌いで高し
赤城山
(2018.09.22)
荒畑に
アメリカセンダン
咲き誇る
雑草の中の雑草、アメリカセンダングサ。複数咲けばこれは見事です。
(2018.09.23)