虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

『女系図でみる驚きの日本史』のインパクト

この本は大塚ひかりさんが物した新潮新書の一冊で、通常男性を中心に描かれる家系図を、女性を中心に描いてみるとどんなことがいえるか、実行した記録です。10講、5補講からなる労作です。


著者の大塚さんは、中学生のころから古典に関心が高く、古典のうまれた歴史的背景を研究したくて、早稲田大学一文の日本史学に入学した人です。


内容について一つだけ例を挙げると、「頼朝はなぜ、義経を殺さねばならなかったのか」(第9講)。普通、政治上、源頼朝は、朝廷に対抗する勢力として鎌倉幕府を打ち建てようとしていましたが、異母弟の源義経が、頼朝に無断で、後白河法王から検非違使の官位を授かり、舞い上がったのが目障りだったから、義経を討ったとされます。つまりは、政治向きのことは解らない軍人としての弟と、政治家である兄の相克だったとされるわけです。


ところが、女系図を描いてみると、また違った視点が現前すると大塚さんは言います。義経の母・常盤は、出自の低い女性であったとは言え、源義朝の正妻で、のちに平清盛の妻になりけっして身分の低い女性とはいえません。一方頼朝の母はさほど高位で有名なひとではありません。この差異が、華々しい軍事と対女性関係で際立つ義経を頼朝が討つ、隠された動機になったと大塚さんは解析します。(白拍子静御前とねんごろになった義経について、白拍子の恋人を持つことは、当時ステイタス・シンボルのようなものだったとか。)


今日のひと言:大塚さんの作成した女系図は、緻密で詳細を極めています。よくこれほど調べたな、と思える労作です。この諸図を転載したくても、この図自体がかたく著作権に守られているとも思われますので、一見の価値あるものだと言うに止めておきます。



愛とまぐはひの古事記 (ちくま文庫)

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こうして歴史問題は捏造される (新潮新書)

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