虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

寺山修司と「過去」:身捨つるほどの祖国はありや

「身捨つるほどの祖国はありや」は、寺山修司(1935−1983:47歳没)の書いた文章から、特記すべき記述を警句として抜き出した警句集アフォリズム集)です。もちろん作者は寺山修司であり、編集したのが藤本真佐夫、発行人が伊藤勇、2003年にPARCO出版から発売されています。寺山修司は、青森県に生まれ、18歳で和歌の賞を受賞し、劇作家としても大いに活動した万能人でした。


警句集については、私は以前、何人かの作者を選び、論じたことがありますが、なかでも、ラ・ロシュフコー警句集(「箴言:しんげん」)が鋭く人間心理を読み解くという意味で最上のものだと思っています。ラ・ロシュフコーの場合、あたかもラ・ロシュフコーの眼が正確きわまりない焦点距離を対象に向って浴びせ、その情報が彼の頭脳に到達し、幾分皮肉であると同時に極めて本質的な分析がなされるという感じです。


参考過去ログ:

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20100818#1282129309

  :ラ・ロシュフコーの明察(モラリストとしての断章)



さて、寺山修司の場合、それほどの「正確さ」はなく、やはり諸事物をいくらか歪んだ視点から見ているように思われます。それは過去・歴史に関する見解に顕著です。その例

私は、<過去>という文字にルビをふるときにエクスペリエンス<経験>とするよりも、ストーリー<物語>とする方が当たっているという意見で、「過ぎ去ったことはすべて物語に過ぎない」と思っている。

        ――さかさま世界史

「過ぎ去ったことなどはみな、比喩に過ぎない・・・・それは遠い他国の出来事なのだ」

        ――千一夜物語 新宿版

         25P


彼、寺山修司は、「過去」という領分については、後ろ向きであるか、との理由で、考えまい、としているように思います。以下は彼本人が書いているのですが、彼の母が「特出し女優」すなわち「ストリッパー」であったことが、彼にとって大きなトラウマになっていたようで、その彼にして「書を捨てよ、町へ出よう」とか「家出のすすめ」などの作品を書くことは、彼の心理上、当然の帰結であったのかも知れません。出発点からして、少々歪んだ体験を元にしているのでしょう。・・・もう一つ、「歴史」について書いた部分を引用しますと

歴史

私は歴史は一冊の書物にすぎない――という説にくみする。過去は、ストーリーであり、未来だけがエクスペリエンスであり得る。――あらゆる歴史は、過去であり、思い出である。
                      ――幸福論

                    248P


もしこの一くさりを、中国の歴史家の司馬遷が読んだら、「なんとものを知らないことよ」と冷笑されること必至でしょう。司馬遷は、彼の歴史書史記」の中で、過去の色々な人物の「生の有様」を掛け値なしに蘇らせる「エクスペリエンス:経験」・・・(しかし寺山修司はこの言葉が好きですね)・・・を成し遂げていたのですから。司馬遷にとって、歴史はけっして「思い出」ではないのです。それは、後世の人たちへ贈る今日・明日を生き抜く叡智の結晶なのです。寺山流に言えば、司馬遷は書物ではない書物を書いたとも言えるでしょう。



今日のひと言:青森という土地は、独特のメンタリティーを持った人を生み出すようです。寺山修司の場合は、人生の出発点に文学を知ったので、やや不良の様相があった程度ですが、盗んだピストルによる連続殺人事件(3人殺し)を起こし、死刑判決が出た後、文学に目覚めた(「無知の涙」「木橋」などの作品がある)永山則夫は、不運でした。可能性としては、この二人が入れ替わってしまうこともあり得たのではないかと。(念のため調べますと、永山則夫は北海道生まれで青森育ちでした。彼はすでに死刑執行されています。) 


さらに忘れてならないのが破滅的な小説を多く残し、最期は心中自殺を遂げた太宰治です。この人も青森出身です。青森県は、本州の最北であることが、一種の閉塞感を生むのか、と思います。その力が、ある種の人たちに世を拗ねた態度を取らせるのかもしれません。あ、青森の人が全てそうだと言っているのではありません、念のため。



書を捨てよ、町へ出よう (角川文庫)

書を捨てよ、町へ出よう (角川文庫)

無知の涙 (河出文庫―BUNGEI Collection)

無知の涙 (河出文庫―BUNGEI Collection)

木橋 (河出文庫)

木橋 (河出文庫)

知識ゼロからの史記入門

知識ゼロからの史記入門




今日の一品


@大豆モヤシの炊き込みご飯



表題の通りですが、大豆モヤシのお浸しを作る際に、ちょっとだけ取った分を、炊き込みご飯にしました。炊飯器には余り多くは入れませんでした。サポニンの泡が発生して、炊飯が失敗する可能性を考えて。

 (2017.03.03)



@ベークド・ポテト



弟作。一口大に切ったジャガイモにクレイジー・ソルト、粒マスタードを加えてオリーブオイルで炒め、仕上げにブラック・ペパー。

 (2017.03.03)



@とろろこんぶ入り卵焼き



美味しかったですが、オレガノも入れたため、とろろこんぶの風味がぼやけた気がします。

 (2017.03.04)



フキノトウ味噌


3月に入って庭からこぞって生えてきたフキノトウ、25個くらい集めてフキノトウ味噌にしました。フキノトウは有害なピロリジジン・アルカロイドを含むので、草木灰を加えて茹で、冷ました後、草木灰のジャリジャリした不快な粒子を取り除き、砂糖・味噌で味付け。ほろ苦さが旬の味です。


取ってきたまま



煮汁の黒さ。アクです。



完成品



 (2017.03.05)





今日の詩(神谷バーの電車内広告から)

ごめん、ごめん。
ほっぺたを赤くして駆けてくる。
基本、真面目なんだよね。
だけど、なんで毎回
遅刻してくるわけ。



神谷バーは浅草にある、飲み屋兼食事処。有名なお酒「電気ブラン」の製造・販売元です。面白いので引用しました。

 (2017.03.04)




今日の一句


気が知れぬ
サティアンに住む
家族たち



窓が極端に少なく、無機的な所はオウム真理教サティアンと同じか。

 (2017.03.04)