孫悟空と釈迦:世界の果てと非ユークリッド幾何学
西遊記の主人公・孫悟空は、自分の持つ力量に慢心し、天上界で暴れまわったことがあります。斉天大聖と名乗り、天上界の実力者たちをなぎ倒し、一回捕まって太上老君(老子)の「八卦炉」で焼き殺されかけましたが、炉の弱点を突き、この難も逃れます。
最後に登場するのがお釈迦(しゃか)さまです。彼は孫悟空に対し、孫悟空が世界の果てに行けるかどうかの賭けを持ちかけます。容易いことだと孫悟空はその賭けに乗り、筋斗雲を飛ばし五本の柱が立っているところまで到達し、「斉天大聖ここに至れり」と柱に落書きし、小便もして、意気揚々と帰ってきます。
ところが、いざ帰って、お釈迦さまの鼻を明かしたと思っていましたが、釈迦が言うには、「お前が世界の果てだと思っているのは、私の手のひらの上のことに過ぎない。」・・・みれば釈迦の手の指に落書きと臭い小便がたれ流してあるではありませんか。「あっ」という間もなく、孫悟空の上に釈迦の手のひらが覆いかぶさってきて、孫悟空は山の下敷きになります。号して「五行山」。孫悟空は三蔵法師が通りかかるまで、この山で幽閉されていたと言うわけです。
さて、この逸話、数学上の「ユークリッド幾何学」「非ユークリッド幾何学」の話題としても興味深いものがあります。ギリシャの数学を集大成したユークリッドの「原論:ストイケイア」で、後の世にも大きな論争を招いた「平行線公準」、平たくいえば、「ある一点を通り、一本の線と平行な直線は一本だけある」といったものでした。
ここに「公準」というのは証明なしに正しいと認められる真理のことですが(「公理」のように)、この平行線公準は、ほかの公準より複雑なため、「もしかしたら、この公準は、他の公準から導き出される定理ではないか?」、と思われ、その証明に勤しむ人がたくさんいたのですね。でも、その努力は報われず、むしろ平行線公準を疑う人も出て来たのです。その結果「ある一点を通り、一本の直線と平行な直線は2本以上ある」(ボヤイ、ロバチェフスキー)「ある一点を通り、一本の直線と平行な直線は一本もない」(リーマン)のように、ユークリッド幾何学を否定はせず、別体系で矛盾のない幾何学が創設されました。これらを「非ユークリッド幾何学」というのです。
さて、以上の論を補充するため、「幾何物語 現代幾何学の不思議な世界」(瀬山士郎:ほるぷ出版)から引用してみます。
(ある円を設定する)内部の点と円周との距離が無限大となるようにします。
したがって、この円の内側にいる人間にとっては、円周は無限のかなたにあるわけで、いくら歩いてもこの世界から抜け出すわけにはいきません。この円の中だけが全宇宙です。しかし外部からこの世界を見ている私たちにとっては、円周は手のとどく有限の距離にあり、内部の人が無限の遠くにあると思い込んでいるのは、単に同じ一メートルが円周に近づくにつれ縮んでいくということにすぎません。
これは難しい記述です。実は引用した張本人の私も正直、半解状態です。「無限に大きい」円を設定するので、平行でなくても一見、平行だと見えるようになるのですね。交わって見えない=平行と。有限の視点しか持たない人から見れば。その平行線は、無限大の円を外部から見る人にとっては、平行線ではなくなるのです。たんに無限遠で交わるにすぎません。
今日のひと言:孫悟空と釈迦、住んでいた世界が、円に閉じ込められていた前者と、世界を選ばない釈迦と、大きく違っていたのでしょうね。まあ、蟻を見る立場の人間が、釈迦であり、蟻が孫悟空なのですね。なお、非ユークリッド幾何学は、アインシュタインの「相対性理論」のバックボーンになりました。
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今日の一品
弟作。我が家ではこの料理に卵は入れません。ゴーヤと豆腐が主です。今回はクミンシード・ホール(カレーの風味の元)、山椒、ヤマサの顆粒調味料、醤油で作りました。やはりクミンが目玉でしょうか。
(2016.05.21)
@大豆もやしのお浸し
栄養価たっぷりながら、他のもやしより料理に手間が掛る大豆もやし。なに、よく茹でればいいのです。目安は6分。その後、煮汁は取っておきます。冷やした大豆もやしに、コチュジャン、ポン酢を掛けてかき回し、一品。なお、煮汁はすまし汁にしましたが、なにやらシジミに含まれるオルニチンに似た風味でした。その後、wikiで見たところ、大豆の一種であるだだちゃ豆にもオルニチンが含まれているとのことでした。当たらずと雖も遠からず、でした。
(2016.05.22)
@ラッキョウの漬物
前日の夜に下ごしらえをしたラッキョウ(根きり、皮の整理済)を、朝漬けました。漬け汁は、穀物酢、砂糖、梅干しの漬け汁(再利用)。なので赤っぽい色です。いつごろ上手く漬かるかな?
(2016.05.23)
@クワの葉のバター炒め
クワは、蚕のエサとするには、もったいないほど色々な用途があります。葉は食用にもなり、DNJ(デオキシノジリマイシン)という白い乳液状成分は糖尿病にも効果があるといいます。ただ、天ぷらにすると良いのですが、たんなるお浸しではもっそりした食感で、いまいち。そこで以前「コシアブラ」で上手く行ったように、バター炒めにしたのですが、首尾よく仕上がりました。これこそ「滋味」。プラス塩、コリアンダーシーズ。
(2016.05.25)
今日の詩
今日もすれ違ったあの車。
それは幼稚園の送迎車。
ピンク色が基調で
前面が猫の顔をあしらい
側面は猫の脚。
なにやらトトロの
猫バスに似ていた。
これなら園児も大喜びだろう。
正確に出会う時間が解らないので
写真は無し。
(2016.05.23)