マノン・レスコー(小説):物欲まみれの「運命の女:ファム・ファタール」
愛するシュバリエよ、あなたが私の心の偶像であり、あなたをわたしが愛しているような愛しかたで愛することのできる男は世の中にあなたのほかにはいないことを、私は誓います。けれども、いとしいおかたよ、いまのこの状態で、貞節は愚かしい徳だとお思いになりませんか?パンに不自由をしている時に、ひとは愛情を持つことができるとお思いになりますか?飢えが私に何か致命的な間違いをさせるかもしれません。恋の溜め息をつくつもりで、いつか最後の死の溜め息をつくかも知れないのです。あなたを熱愛します。それは信じてください。ただ、しばらくの間、わたしたちの運命を整えることをお許しください。わたしの罠に落ちてくるものに禍あれ!わたしのシュバリエをお金持ちにしあわせにするためにわたしは働きます。兄があなたのマノンの消息をお知らせするでしょう。そして、やむを得ずあなたのもとを去るのをマノンが泣いていることをお伝えするでしょう。
河出 世界文学大系13(1980年初版) 208P 杉 捷夫 訳
「マノン・レスコー」は、フランスの小説家アントワーヌ・フランソア・プレヴォー(1697−1763)の小説で、出版は1731年。ファム・ファタール(la Femme fatale)、つまり、その女を愛する男の運命を大きく変えてしまう女のことですが・・・この主題を扱った小説としては、世界初だったという定評があります。
マノンは、非の打ち所のない美人ではありますが、特に「物欲」を満たすように行動するので、当然のことながら金持ちに囲われるのを良しとするわけです。そんな彼女に「一目惚れ」したシュバリエ・デ・グリュは彼女が当たり前に持っている娼婦性が受け入れられず、私からみると、マノンを巡って妄動します。かわいそうなくらいマノンに振り回されるのですね。マノンにとって、大事なのは贅沢な暮らしであり、シュバリエが求める純愛をマノンに求めるのは、無理な相談で、今回ブログの冒頭に挙げたマノンからシュバリエ宛の手紙が全てを語っています。シュバリエを金持ちにするために頑張るという下りは、リップサービスだったのでしょう。
第一印象が正しい確率は50%ですが、シュバリエはマノンに一目惚れしたとして、その危険性をのちに気付いたのかも知れませんが、それを修正することなく頑固にマノンに執心したのです。はっきり言って「阿呆」です。私事になりますが、私の初恋の相手は、物欲が多いにせよ、可愛いところもある女子大生でしたが、あまりに男性遍歴が激しいため、私は彼女を振りました。あっさりとマノンを見限らなかったシュバリエは行動を誤ってしまったのだと思います。まあ、生活の安心とかクオリティを大事にするのが女性のサガだとすれば、女性がある程度の物欲を持つのは当然であり、それを確保させてあげられない男性を疎ましく思うのもある意味当然なのかも知れません。特にマノンの場合、物欲が異常なほど大きく、性を買う金持ち男とマノンは、物欲と性欲を等価交換していたのでしょう。これは、言ってみれば、日本で「援助交際」をやる女子中高生が抱いているのと同じ傾向の感性だと思います。
この小説の最後に、やはりマノンを好きな金持ちの老人とシュバリエは対決し、金持ちはマノンとシュバリエを牢獄に入れるのですが、首尾よく難を逃れた2人は、アメリカに落ち延びました、が、マノンはこの地で死亡してしまいます。埋葬後シュバリエはフランスに戻りますが、墓守りはいない・・・あわれな結末ですね、マノン・・・
今日のひと言:この小説の場合、地の文はもっぱらシュバリエが語っている文体で、セリフは各登場人物が話したとおり記載されますが、どうも私にはシュバリエの「私小説・イッヒロマン」のようにも思えてなりません。マノンのことも、シュバリエの妄想?また、今回読んだ翻訳は、いかにも直訳的で案外読みにくかったです。杉さん、ごめんなさい。また、昔のアイドル・岩崎良美の曲に「あなた色のマノン」というのがあったそうです。作詞はなかにし礼さん。さすが直木賞を取っただけのことはありますね。マノン・レスコーを踏まえた歌詞を書いています。
ちょっとテイストの似ている作品(過去ログ)
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080612
一十郎とお蘭さま・・・一人芝居のドラマ
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今日の料理
@アボカドのポン酢掛け
油っぽいアボカドをさっぱり(?)食べるのに、酸っぱいものが良いかと、ポン酢で和えました。なかなかの味です。
(2015.07.02)
弟作。ブリをフライパンで焼き、甜麺醤を温めて掛け、刻んだ茗荷をふりかけました。ブリの臭みが気にならなく食べられました。
(2015.07.02)
@塩レモンチキン
弟作。市販の調味料を使って、フライパンで炒めた鶏もも肉にまぶしました。
(2015.07.04)