西條八十の詩~天才詩人:ランボーとの比較~色彩感覚
西條八十の詩~天才詩人:ランボーとの比較~色彩感覚
西條八十(さいじょう・やそ)と言えば、群馬県立太田高校の関係者で知らない者はたぶんいないでしょう。太田高校の校歌は、この詩人の歌詞によるもので、「♪止まざる流れ、高き山・・・」と歌い上げるもので、利根川、赤城山、浅間山を歌詞に織り込み、独特な味わいのある校歌です。私も太田高校のOB、この曲はよく覚えています。(一説には「止まざる」は「山猿」を意味していて、田舎の高校をバカにしているのではないか、という都市伝説もあります。)
さて、西條八十の第一詩集『砂金』を友人に借りて読んでみました。もっとも感じられるのは、それら韻文詩の「色彩感覚」が特徴的であると言うことです。例を挙げましょう。
鸚鵡(おうむ)
碧き夜なりき、
鸚鵡の籠を逃れしは
朱の紐ながく暗の底を曳き
七人の皇子とらへ得ず。
碧き夜なりき、
鳶色の林のうへに月さしのぼる、
七人の皇子走りとき
白き翼 水銀の暈を掠めぬ。
碧き夜なりき、
棺車を、黒き馬しづかに牽きて、
巴旦杏の花蔭をゆく、
七人の皇子こころ病めり。
碧き夜なりき、
籠を逃れて地獄にくだる
寂しき鸚鵡よ、錆びし鉄扉に
朱の紐ながく残れる。
この詩の場合、碧、朱、鳶色、白(水銀も含め)、黒・・・などの色のイメージが立て続けに登場し、読者を夢見心地の世界に誘います。その点、なかなかユニークな詩になっています。もともと、鸚鵡自体、極めてカラフルな鳥なので、色彩は否が応でも際立つ詩ですね。ほかの韻文詩の場合、彼の場合、とくに「赤」という色が夥しく登場し、西條八十はよほど「赤い色」に惹かれるのでしょう。
ところで、西條八十はフランスの詩人:アルチュール・ランボー(Arthur Rimbaud)を研究していたと『砂金』の解説で読んだ時、「なるほど」と納得しました。ランボーも色彩感覚が豊かで、特記すれば「母音」という詩を書いています。つまり(A.E.I.O.U)という5つの母音に、それぞれ色を感じるというのですね。詩人がこのような表現を取った場合、読む人は「これは単なる比喩だろう」と取る場合が多いですが、実はそのように知覚ている場合があるそうです。ランボーなどは詩作のため、麻薬の類を使っていましたし、その意識の中で、見者(voyant)となることを切望していました。なんとも過酷な「修行」をしていた訳です。「母音」を引用してみましょう。
Voyelles -Arthur Rimbaud
A noir, E blanc, I rouge, U vert, O bleu : voyelles,
Je dirai quelque jour vos naissances latentes :
A, noir corset velu des mouches éclatantes
Qui bombinent autour des puanteurs cruelles,
Golfes d'ombre ; E, candeurs des vapeurs et des tentes,
Lances des glaciers fiers, rois blancs, frissons d'ombelles ;
I, pourpres, sang craché, rire des lèvres belles
Dans la colère ou les ivresses pénitentes ;
U, cycles, vibrements divins des mers virides,
Paix des pâtis semés d'animaux, paix des rides
Que l'alchimie imprime aux grands fronts studieux ;
O, suprême Clairon plein des strideurs étranges,
Silences traversés des Mondes et des Anges ;
- O l'Oméga, rayon violet de Ses Yeu
母音ーーアルチュール・ランボー
A黒、E白、I赤、U緑、O青:母音、
私は君たちの潜在的な源を言おう。
A: 輝くハエの毛むくじゃらの黒いコルセット
残酷な悪臭の周りを砲撃する。
E:汽船とテントの率直さ、 誇り高き氷河の槍、
白い王、散形花序の震え。
I:私、真っ赤、血を吐き、美しい唇を笑う
怒りや酩酊状態で;
U:サイクル、鮮やかな海の神聖な振動、
動物が蒔かれる牧草地の平和、
しわの平和 その錬金術は素晴らしい額に刻印される。
O:奇妙なストライダーでいっぱいの最高のラッパ、
世界と天使が交差する沈黙。 -
おお、オメガ、彼の目の紫光線!
この和訳は、グーグル翻訳ツールで訳し、ちょっと私が手直ししました。
全14行続くソネットなのですが、各母音にイメージ喚起される事物が挙げられます。この詩を書いた際、ランボーはただ修辞のためにこれを書いたのでしょうか?それとも本当に、そう感じていたのでしょうか?真相は解りません。ただ、人によっては「共感覚」と言い、2つ以上の感覚で、対象をとらえることがあるそうです。私の知人の画家の人は、「数字に色がついて見えた」そうです。算数で、1から10まで足す、というような問題を、見事色別に組み合わせて、すぐ答えを出せたそうで、まるで天才数学者のガウスのような天才だと騒がれたそうでした。
ランボーに傾倒していた西條八十、本人もランボーのような詩作法を取っていたのか、興味あるところです。他に、西條八十は「7」という数字が好きなようで、この文字も詩集全体に渡って登場します。(掲載した詩:「鸚鵡」は、なんだかかぐや姫に求愛し、それぞれ難題を出されて奔命に疲れて脱落した王子たちを連想しますね。)
他に、3編収められた散文詩などは、極めて良い出来の作品集になっています。例えば「曠野」。リンゴを7個←(出た!「7」)お使いを命じられた使用人の少年が、買ってきた「7」個のリンゴを、どう見ても「6」個だと言う主人夫婦の叱責に耐えかねる散文詩など、ミステリー小説のようにも読めるもので、出色です。
今日のひと言:西條八十は、キーボードで、一発変換出来ませんでした。案外ノーマークな人のようです。私から見た詩人としての西條八十は、日本の詩の世界では「中堅」と言ったところでしょうか。
今日の一品
@ラムとミニトマトの炒め煮
弟作。バラ肉のラムを炒め、これとミニトマトをコンソメ入りスープで煮込む。塩、胡椒、青じそで調味しました。
(2021.05.12)
@ベトナムらーめん
ドンキホーテのエスニック食材売り場で見つけたカップ麺でフライめん。一食88円なり。日本の真似をしているようだが、まだまだ日本には及ばない。カップはついていず、自宅の丼と鍋蓋を使う。
(2021.05.15)
@ブリの塩麹焼き
このブリは、冷凍庫に3年ほど入れたままにしていて、嫌な臭いが染みついていました。そこでホワイトリカーを注ぎ、ブリを漬けて、脱臭を試みました。2、3時間表裏を返しつつ漬け、引き上げて塩麹を塗り、また1時間。最後はオーブントースターで180℃、18分。かなり臭いが和らぎました。
(2021.05.16)
@芋柄煮
特に、赤い茎のサトイモの茎が珍重されます。草木灰を入れて煮て、そのまま一晩置いて2、3回水洗いして、砂糖・醤油で甘く煮て、シナモンを散らしました。出来上がりの食感は干瓢に似ていて、山暮らししていたころは、見事に騙され(?)ました。
(2021.05.17)
@バンクシー小劇場(おもに動物に関する詩を載せます。)
穴を掘り
寛ぎたるや
アマガエル
(2021.05.15)
今日の五句
かつて見ず
葦(あし)が河原を
占拠する
(2021.05.12)
草ひとつ
生えない通り
おぞましき
(2021.05.12)
嗚呼(ああ)気高
白芍薬の
散る間際
しかも夕刻。
(2021.05.12)
保育園
植え込み換わる
キクの花
正式な名称は解りません。マーガレットか?保育園に問い合わせたところ、「ジニア:百日草」だそう。
(2021.05.14)
あややのや
こんな時空で
蕎麦の花
春に蕎麦(そば)の花を見られるとは!
(2021.05.15)
今日の写真集
チチコグサモドキ 「もどき」とはなんとも可哀そうな命名。(2021.05.12)
キク科の真っ赤な花。だれか名称を教えて!(2021.05.14)
なにやら人が数人立っているように遠目から見えるクワの木。
(2021.05.16)
訂正とお詫び:太田高校校歌の作詞者、ずうっと「西條八十」と思ってきましたが、念のため調べたところ、「土井晩翠」がほんとの作詞者でした。ミスです。ここに明記して訂正・お詫び致します。済みませんでした。
☆☆過去ログから厳選し、英語版のブログをやっています。☆☆
“Diamond cut Diamond--Ultra-Vival”
https://iirei.hatenadiary.com/
ダイアモンドのほうは、週一回、水曜日か木曜日に更新します。
英語版ブログには、末尾に日本語ブログ文も付記します。記事は
虚虚実実――ウルトラバイバルとはダブりませんので、こぞって
お越しを。