虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

手のない招き猫(散文詩)〜〜チョマの生の軌跡

1993年、 生き物には非情な態度をとってきた父が「ネコ」を飼うぞ、と言ったときには驚きました。「父のように冷淡な男がネコでもあるまい」、と思っていたのです。


 初めてみたそのネコは本当に小さなネコで「なんだ、このちびっこいやつは?」と思いました。
父が工場長をやっていた会社の事務員さんちで産まれた子猫の一頭に目をつけ、もらってきたのです。そしてこのネコは、片親に「スコティシュ・フォールド」を持つネコで、本来耳が垂れるところが、ネコ本人にはその特徴が現れていませんでした。


 「チョマ」という名は父が付けました。なんでもエサをチョマチョマ食べる=ちよっとずつ食べるという意味なようです。それで別名「チョマコ」「ぐいつこたん」とも父は呼んでいました。


 寝るときも一緒です。


そしてチョマは、キャットフード、たまに魚の刺身を与えられながら、成長していきました。


チョマの場合、決められた時間に出すべき御飯を、にゃあと鳴けばだしていたので、みるみる大きくなり、猫としてはヘビー級の体格を持つに至りました。おおむね9kg。


 そして、オス猫のサガとして、家のそとに遠征しては縄張りを開拓し意気揚々と帰ってくるのでした。そんなチョマには好敵手がおり、散々命を懸けた喧嘩をして帰ってくるので、怪我はショッチュウでした。たとえば「角膜穿孔」、失明の恐れアリなので、動物病院に連れて行き、点眼薬をもらったりしていました。また、猫の場合、怪我をした箇所は、表面がすぐ直ってしまい、体の中に病巣が残るそうで、これにも注意が必要でした。


 また、我が家では、野良猫たちにもエサをやっていたので、チョマは彼ら野良猫を見下すように、蹴散らしていました。なんとも傲慢な態度でした。一度、エアコンの室外機に逃れた貧相な猫「ノック」をいたぶっていたので、「お前も弱い者いじめがすきだなあ」と、チョマを抱えて、その間にノックを逃がしてやったことがあります。


 これら野良猫の中に、優しいお兄さん風の猫がおり、同僚たちといたわりあいながら生きていました。我々は「ノウ」と呼んでいました。この猫の兄弟が毛色が薄いのに対し毛色が濃いので「ノウ(濃)」と呼んだわけです。もう一方は「タン(淡)」です。安直な命名法。


 そうこうしているウチに1996年1月10日がやってきました。


1996年1月10日、チョマに異変が起きました。昼間、なにやら切羽詰った声が聞こえるので、出入り口の部屋にチョマがいました・・・でも、良く見ると、左手の手首が「ねじ切られて」いて、みるも無残な状態です。


 これは、すぐ動物病院に連れていかなければならない、でも、とりあえずメシを食えとエサをだすと、驚いたことに食べました。


動物病院で聞くに、「義足」は作れないし、中途半端に前脚が残っていると、骨が露出してしまうので、左前脚ごと取らなければならないと。


 そこでチョマの手術が行われ、チョマは、3本脚になりました。


その事故以後、「ノウ」の姿も見えなくなったので、おそらくチョマはノウをいじめていたところ、人為的な回転する設備に手を入れ、ねじ切れたのではないか、と思っています。「ノウ」は彼の命と引き換えにチョマの片手を奪ったのでしょう。
 

それからもう一つの手術が必要になります。こんな哀れな状態になったチョマ、オス猫としての本能はいまだ衰えず、外に出たいという衝動はあり、去勢手術をする必要があったのです。いままでと同じように外へだすと、喧嘩ですぐさま命を落すでしょうから。チョマ、「たまたま」を失いました。


チョマは巡回ができない、家の中で飼う猫になってしまいました。


もう一つ、運動不足からか、マグネシウムを多く含む魚類を食べさせたことにより、FUS尿路結石)に罹り、その症状は解消できたけど、魚はやれなくなり、あまりおいしくなさそうな、マグネシウムが含まれていないキャットフードを動物病院から入手するようになったのです。


こんな状態になったチョマ、何か楽しいことはあったのでしょうか?われわれ家族はできる範囲でチョマをサポートしていました。もしかして、野良猫たちをいじめていたころの非に気づいたでしょうか?


父が言っていました:「チョマは、お前と同じくらい運がない」(「お前」とはiireiのこと)。


にっちもさっちも行かなくなったチョマ。外にも出られず、美味しくもないキャットフードしか食べられなくなったチョマ。それでも必死にキャットフードを食べていたチョマ。


 我々家族は、せめて長生き出来るよう祈り、「歯石」除去の手術を動物病院に依頼しました。その手術は無事に終わり、さて、家に帰ってくるとチョマに異変が・・・廊下でうずくまりグルグル唸っています。一時的なものか、と放置していたところ、それが致命傷になりました。獣医に聞くと、チョマは麻酔に弱かったのです。時は1998年初冬。


 そんなに麻酔に弱いという情報が入っていたら、むりに歯石除去手術はしなかったのですが。麻酔手術後、暖かくさせること・・・この情報は遅かったのです。


チョマはついに動くこともままならなくなりました。そして、ほぼ毎日動物病院につれていきましたが、決定的な情報が獣医からもたらされます。チョマは「猫エイズ」「猫白血病」を発病していました・・・麻酔のため、タガが緩んだ体に顕著に発病したのでしょうか。


その日の帰り、チョマを広い麦畑に放してあげましたが


チョマはキャリーのそばから離れられず、じっとしていたままでした。この空間は、私にとってとても悲しい時空でした。






 そして、家族会議・・・父、私、弟の3人で会議をして、チョマを安楽死させることで一致しました。自分がそのような境遇になったら、そうしてほしいという意味でです。


 安楽死当日、私は外せない他の用があったので立ち合いませんでしたが、私がお別れの挨拶をチョマにすると、チョマは正座で応じました。動物病院で弟と父が立会いましたが、父がいうには「超強力な麻酔薬」の注射の際、ひとこと「にゃん」と鳴いたとのこと。


麻酔に猫一倍弱かったチョマの最期がこれとは・・・


数日後、チョマは、市の清掃局に付属した「愛玩動物斎場」で荼毘に付しました。この時は、父と私が行きました。お好みでボロボロにしてしまった馬のぬいぐるみとかと燃やしてもらったのです。骨は一部庭に撒き、一部骨壷に納めてあります。


チョマは、とくに私と父の確執をやわらげてくれ、家族全員が愛するという要(かなめ)の役割を果たしてくれました。iirei家には、昔から「業:ごう」のようなものがあり、チョマはその生きていた5年間、それを支えてくれたと思えてなりません。





この絵は、私がチョマの死の2ヶ月ほど前、そうとは知らず描いたチョマの肖像です。
油絵で、「手のない招き猫」といった題名です。
                             

手がない猫でも、招き猫になり得るのだと思います。





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今日の料理


@サバ缶丼







サバの缶詰を使い、かつ丼風にネギ、ミョウガ、卵でとじ、昼食にしました。タレは、カツオ出汁、醤油、砂糖で。


http://d.hatena.ne.jp/iirei/20140310#1394399832

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20140702#1404295835

  参照。

 (2014.08.02)





コリアンダー入り蕎麦汁(つゆ)





普段の蕎麦汁に手を加え、摺りショウガ、ミョウガ、ワサビの他にコリアンダーパクチー、香菜)を加えてみました。蕎麦が無国籍の味になりました。

 (2014.08.03)



@シロザのマヨネーズ風味





アカザ(ないしシロザ)の、粉っぽさが気になっていたのですが、思うところありマヨネーズ、スリゴマ、塩で和えたところ、マヨネーズの力によってその粉っぽさが消えました。これは具合が良いです。アカザ料理の決定版ですね。

 (2014.08.03)





今日の一句


我が庭に
ちょこんとおわす
ヤブラン




 (下は、ちかくのクルミ畑に生えているもの。大株。)


ヤブランは、クサスギカヅラ科・スズラン亜科に属する多年草。写真ではうまく撮影できませんでしたが、花はムスカリのような青紫色をしています。

 (2014.08.02)





今日のキャタピラア





順調に成長しています。この前の鳥の糞みたいだったのが、脱皮して黄緑色になっていました。ただ、食草であるヘンルーダの濃い緑からは浮いてしまうので、鳥に見つかってしまうかも知れません。

 (2014.08.05)




今日の一押し


鈴華ゆう子さんというミュージシャンがいます。
和楽器と洋楽器を融合させたライブがスリリングです。ヴォーカルを担当しますが、彼女、詩吟のコンクールで優勝したこともあったそう。ピアノも弾きます。よんばばさんのブログで紹介されていました。

http://d.hatena.ne.jp/yonnbaba/20140806 :素敵な若者発見!



 (2014.08.07)