私は、水上勉(みなかみつとむ・みずかみつとむ)さんの作品については、「雁の寺」とか「金閣炎上」などの小説、あるいは「土を喰う日々」などのエッセイで接してきましたが、彼の処女作といえる小説「フライパンの歌」を読みたくなり、図書館にはあいにくなかったので、相互貸借で借りて読んでみました。
時は終戦後の物資が不足していた闇市の時代、1948年(昭和23年)。作家志望の主人公・安田は、しがない出版会社・土曜書店の営業係。妻の民江と乳飲み子のユキエの3人で縫製会社の屋根裏部屋に住んでいます。ユキエは体が弱く、また栄養状態のよくない民江の乳ではうまく育たず、乳の出がよい女性に「貰い乳」をしてもらって元気さを取り戻します。ぎりぎりの生活でした。
ただ、土曜書店はオーナーがあまりこの出版という分野に明るくなく、社をたたんでしまいます。とたんに収入のなくなった安田・・・ここで妻の民江がハッスルします。彼女は当時流行していたダンスホールに就職し、家にもお金がもたらされることになります。
いざと言う時の女性の強さが明確に描かれています。ただ、夫婦の決定事項として、ユキエは夫婦の手許におくより、民江の両親(松坂市に住む)に預けて養育を頼みます。もちろん、民江が両親に相応の仕送りをすることが条件で。
その内、屋根裏部屋は縫製会社の従業員に貸すことになったため、安田夫婦はそこを出ることになります。安田は浦和の農家の蔵、民江はダンスホールの社員寮。どこまでも民江は楽天的です。「おいおい、よい場所を探して一緒に住みましょ」・・・という感じです。
小説を書くこと以外興味のない安田は、民江にくらべ生活力がないですね。それでも、日課として日記を書き続けます。
この小説の核だと思った記述があります。「赤い風船がどんどん膨らんでいく」というヴィジョンですが、私はこのイメージが、小説のなかでどう膨らまされるか、興味がありましたが、安田の日記の一節が最後に置かれただけで、「え?もう終わり?」と言った感じで唐突に小説は終わってしまうのです。
それから、もう一つ、極貧の生活者と、フライパンは縁があるようですね。この調理器具には汎用性がありますからね。民江、安田それぞれ一回づつ、フライパンで料理をするという記述が出てきます。
今日のひと言:この小説は、水上勉さんの処女作ですが、上で記述したように、小説自体穴だらけなので、評価はあまり高くないですね。幾分か水上さんの自伝的小説といった感じがしますが、彼の実生活上の諸体験のほうが面白そうです。
以上、wikipediaより抜粋。福井県の大工の家に生まれ、5人兄弟の次男として育った。9歳(一説には10歳)の時、京都の臨済宗寺院相国寺塔頭、瑞春院に小僧として修行に出される(この時、寺に住み込んで画の練習をしている南画家の服部二柳を見ている。)が、あまりの厳しさに出奔。 その後、連れ戻されて等持院に移る(これらの経験がのちに『雁の寺』、『金閣炎上』の執筆に生かされた)。
10代で禅寺を出たのち様々な職業を遍歴しながら小説を書くが、なかなか認められず、また経営していた会社の倒産、数回にわたる結婚と離婚、最初の結婚でできた長男(窪島誠一郎)との別離など、家庭的にも恵まれないことが多かった。
旧制花園中学校(現・花園中学校・高等学校)卒業。1937年(昭和12年)、立命館大学文学部国文科(夜間部)中退。
1946年(昭和21年)頃、作家の宇野浩二を知り、文学の師と仰ぐようになる。1947年(昭和22年)に刊行された処女作『フライパンの歌』がベストセラーとなるが、その後しばらくは生活に追われ、また体調も思わしくなく、文筆活動からは遠ざかった。
(中略)
1960年(昭和35年)、水俣病を題材にした『海の牙』を発表し、翌1961年(昭和36年)に第14回日本探偵作家クラブ賞を受賞、社会派推理作家として認められた。同年『雁の寺』で第45回直木賞を受賞、華々しい作家生活が始まった。
彼が再び文壇に現れるまで、10数年待たねばなりませんでした。でも、その期間は、美味しい酒が醸造されるための準備期間だったのかも知れません。
今日の雑感
こんどの総選挙で立候補した政党・「日本未来の党」、さすがに小沢さんの「国民の生活が第一」が母体なためか、3年前の民主党と同じような公約を挙げているのが気になりました。国民は民主党のみじめな姿をみているでしょうから、案外支持されないと思うのです。でも当時には発生していなかった、原発問題、TPP問題などは私の意向と一致していますから、まあ、私は支持しますが。
ああ美味し
脂乗りたる
ツボダイや
いずくの海にて
育ちしものか
ツボダイはスズキ目スズキ亜目カワビシャ科ツボダイ属 の魚。案外世界各地で漁獲される魚ですが、その味は、スズキ目の魚のなかでも特に美味しいです。大体干物で売っていますが、30cmの直径の皿でやっと入るくらいです。
(2012.12.07)
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