虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

アニメ「もしドラ」を観て・小説「もしドラ」も読んで


マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則

マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則

 アニメはNHKの放送、本はダイヤモンド社。なかなか面白い作品でした。畑の違う私にとっても、ドラッカーの言葉は面白かったといえます。このドラマは、ひとりの野球部女子マネージャーが「マネジメント」(ピーター・ドラッカー:著)を胸に抱き、地方の2流の野球部(程久保高校野球部)を甲子園にまで導くというサクセスストーリーです。あ、知らない人のために書きますと、この作品、正確には「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」という長い題名ですので、略して「もしドラ」と称するわけです。


 設定で面白いのは、その女子マネージャー・川島みなみは、小学生のころ、まだ体力差のすくない男子とまじって少年野球をやっていて、「さよならヒット」を放ってチームを勝利に導いたことがあり、本人はいたってマジメに「将来はプロ野球選手になりたい」と思っていたけれど、男女の体力差の大きさはいかんともしがたく、逆に野球大嫌い少女になってしまっていました。


一方親友で体の弱い宮田夕紀は、みなみのその「さよならヒット」のことが忘れられず、野球部のマネージャーをやっていましたが、重い病気のため、入院する事態になり、その替わりにと、みなみは野球部のマネージャーになるのです。これは、野球への思いはともかく、親友のためにその選択をしたのです。


 以降、ドラッカーの「マネジメント」を指針に、野球部強化のためのあれこれを実践していきます。初めに迷うのは、ドラッカーのいう「顧客」という言葉をどう野球部に結びつけるかという難題が立ちふさがりますが・・・まずは野球部員それ自体、また応援してくれる観衆を「顧客」と呼ぶことになるようです。そんな感じでマーケティングイノベーションなどの言葉も「翻訳」されていきます。さらに、夕紀は野球部員に愛されていて、彼女を「お見舞い面談」に訪ねてくる野球部員から、見事それぞれが抱える問題をさりげなく聞きだすのです。これがマーケティングの一環になるのですね。


そこでこのお話の随所にドラッカーの言葉が引用されますが、老子のいう「正言は反するがごとし:78章」と呼べるような、眼をむくような言葉が結構あるのです。2つ程例を挙げれば

消費者運動が企業に要求しているものこそ、まさにマーケティングである。」(もしドラP124・マネジメントP16―P17)

・・・クレームをむしろ歓迎しているようです。

「まちがいや失敗をしないものを信用してはならないということである」(もしドラP175・マネジメントP145−P146)
・・・それは冒険をしないから。

 こまかな説明はこのブログでは省略しますが、言われてみればなるほどなあ、という感想を持つこと請け合いです。


 さて、このお話、一介の女子マネージャーが野球部の意識改革をして、さらには強豪高に仕立て上げるという夢のようでありそうもない気がしますが、あとがきで著者の岩崎夏海さんが語っています。

例えば、アメリカ大リーグで「マネジャー」といえば、それは「監督」のことを指す。しかし日本では、真っ先に思い浮かぶのは「高校野球の女子マネージャー」だ。しかもそこには、「スコアをつけたり後片づけをする」といった、下働き的なニュアンスさえ含まれている。つまり、英語圏のそれとは、責任や役割において、指し示すものに大きな違いがあるのだ。その違いが、『マネジメント』を読むことによって、ますます広がったように感じられたのである。
 ――と、その時だった。ふいに一つのアイディアが閃いた。
 それは、「もし高校野球の女子マネージャーが、ドラッカーの『マネジメント』を読んだら(どうなるか?)というものだった。そしてまた、「そこに書かれている『マネジャー』という存在を自分のことだと勘違いし、本の通りにマネジメントを進めたらどうなるか?」
さらには、「それによって、みるみるうちに野球部が強くなっていったら、一体どうなるのか?」――そんなことを考えたのである。
 それが、この本のアイデアを思いついた最初の瞬間であった。(P269―P270)


 まあ、壮大なフィクションといえるでしょうね。パラレル・ワールド。こんな風に、サッカーについても同様なお話ができるでしょうか?サッカーでなく野球をテーマにしたのは、1968年生まれの岩崎さんが、より野球に親近感があったからでしょうか?


今日のひと言:女性とスポーツ・・・昔の人は(例えば虫明亜呂無さん)「女性はスポーツが好きというより、競技している男性を見るが好きなのだ。」とか言ってましたが、昔日本の女子バレーが世界最強だったころは「サインはV」「アタックNO1」のような作品がテレビで放送されましたし、サッカーの世界でも、少女雑誌に細々と描き続けられたそうですし、「なでしこジャパン」の活躍でいま盛り上がっていますね。
http://oshiete1.watch.impress.co.jp/qa6889288.html


ボクシングでも、NHK乙女のパンチ」に主演した南海キャンディーズしずちゃんロンドンオリンピックに出場するようですし、ああ、日本の女子は元気です!!


 それにしても、岩崎夏海さんは、あの芸術家もどき秋元康さんの弟子筋にあたるそうで、なんだか複雑な気持ちです。あこぎな商売であるAKB48の設立にも関わっているとのことです。