男を妊娠させる女:ルー・ザロメ
ジェンダーと芸術・科学シリーズ その2:文芸
(ジェンダー:gender:社会的、文化的意味づけされた男女の差異・三回シリーズ)
ルー・ザロメ(あるいはルー・サロメ)という名を聞いたことがありますか?彼女はフランス系ロシア人の将軍の娘(1861−1937)で、文才がありました。
ただ、その文才は、今ではさほど評価されておらず、もっぱら、天才である男性との交友関係が奇跡的だといわれています。ニーチェ(1844−1900)、リルケ(1875−1926)、フロイト(1856−1939)ら、一流の男たちです。
ニーチェはルーに求婚しましたが断られ、その後「ツァラトゥストラはかく語りき」を書いたそうです。フロイトにはすでに自ら開拓した「精神分析」の手法を持っていましたし、お互い大人だったので、ルーとフロイトの間には、尊敬=信頼関係があっても、性的な関係にはなりませんでした。
ルーの影響をもっとも受けたのは、ライナー・マリア・リルケです。彼が22歳の時に出合ったので、ルーはそのとき36歳で、アンドレアスという学者と結婚したあとでした。でも、二人を襲った恋心は、両者をある意味、深淵に、また高みにもっていきました。
それまでのリルケはしょぼくれた抒情詩を書く詩人でしたが、ルーに出会って、構想雄大な詩を書くようになります。たとえば
静かな友よ 片山敏彦訳
数々の遥かさに生きている静かな友よ、感じたまえ
君の呼吸が さらに拡がりを増しているのを。
真暗な鐘楼の中全体に
音となって轟きたまえ。君を食いほろぼすものが
一つの力となるのだ――糧である君の上方で。
出で入りたまえ、転身の道程を。
君のもっともつらい経験も 何ほどのことぞ?
飲むことが君に苦いなら 葡萄酒に化したまえ。
この夜 君のあらゆる官能の十字路で
みなぎり溢れる不思議な力を
化したまえ――それらの官能の稀有な出合いの意と化したまえ。
そして君が現世のものに忘却されたら
静かな大地に言いたまえ――「僕はほとばしる」と。
急流に向かって言いたまえ――「僕は在る」と。
(オルフォイスへのソネットより):詩への架橋(大岡信:岩波新書)
・・・といった具合です。(この詩は、一橋大学の学生で、「文学青年」のような友人から教えてもらいました。)だれより、リルケにとって、ルー・ザロメは「ファム・ファタール:運命の女性」であったと思います。ニーチェもそうだったけど、ルーと付き合った男性は、精神になにかの化学反応が起き、もちろん人間の子供は産めませんから、なんらかの思想上の大作業に励むのであろうと思うのです。そして、ルーと別れたリルケは短い一生を閉じる際、「僕のどこが悪かったのか、ルーに聞いて欲しい」といいつつ事切れます。最後まで「ファム・ファタール」だったのですね。リルケにとってルーは。
私にも「ファム・ファタール」と呼ぶべき女性がいました。私は都会に住む彼女のために「防災パンフレット」を作り、100部ほど作成し、その一部を彼女に贈呈し、ひとり山暮らしを始めたのです。このパンフレットは、1999年「災害の芽を摘む」(MBC21/東京経済)の出版の元になりました。私も、その彼女に妊娠させられたというわけです。(ここで触れた私の例は、ちょっとリルケと同列に論じるのはどうかな、とも思いますが、書いちゃいました。)
参考文献:ルー・サロメ 愛と生涯 (ちくま文庫)なお、「男を妊娠させる女」という表現はこの本にはなく、別の本にあったのですが、本の名称は失念してしまいました。
今日のひと言:ザロメ、あるいはサロメという言葉は、ヘブライ語で「平和」を意味するそうです。サロメといえば、2人の人物が有名です。一人は洗礼者ヨハネの首を所望した王女、もう一人は、磔刑にされて死んだイエスに香油を注ごうとした女性たちの一人。
ルー・ザロメは、ある意味王女のほうのサロメに近いものがあるかも知れません。インドのヒンズー教における破壊と創造の神、シヴァ神と、彼を殺す妻のカーリー。シヴァ=リルケ、カーリー=ザロメ。(シヴァ神は、カーリー神に殺されたあと、再び生まれ変わるといいます。)

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今日の詩
Aくんへ
火は移る。
君は君、
僕は僕。
僕はウサギだ、
君は熊だ。
ガスはカスだ。
野原でかけっこしようぜ!
この詩は1984年ごろに書いたもので、私が専門の「水の問題」を友人のA君に教えたところ、彼は「炭」の良さを教えてくれました。彼はスケールの大きな人物で、私は彼の影響下にもっていかれそうだったので、予防線のためこのような詩を書いたともいえます。第一行「火は移る。」はもちろん炭火の燃え方を形容したものですが、ある人が言うには「宇宙的なフレーズだ」とのことでした。「ガスはカスだ。」という表現も、炭と比較して挙げたフレーズです。
ウナギ屋の比較
最近、シラスウナギが取れず、養殖鰻が希少になり、ウナギ屋さんではその対応に苦慮しています。店それぞれ、いろいろな対応があります。ウナギ大好きな私としては気になるところ。4店の比較をしてみます。(どこも味はいい)
@店A 値段もウナギのかば焼きの分量も変わらず
@店B ちょっと値段は上がったが、ボリュームのあるウナギで、食後なんとドリップ式のコーヒーを出してくれる(インスタントかと思っていたら、ドリップ式とは・・・
驚きました。)
@店C 高額な商品しか注文を受けない。たとえば1100円の「ウナ丼」は、入荷量の少ない小さなウナギを使うところを、大振りなウナギを使わなくてはならないので店にとって損。大振りなウナギの値段で出したい
ので、1550円以上の「ウナ重」しか客には出さない。
@店D この店は米も自家精米するほど味にはこだわるが、肝心の蒲焼きの量が悲劇的に乏しい。蒲焼きの量が少ないならウナ丼もメニューに入れればいいのに、改善されない。こっちは「ウナギを食いにいく」のだぞ〜〜〜!!
以上、私は現在店Aと店Bには食べに行きますが、店Cと店Dからは足が遠くなりました。