読者の中には、青銅(ブロンズ)という言葉を聞いたこともある人もいるでしょう。
銅と錫(すず)の合金です。
では、赤銅、黄銅についてはいかがですか?
この本は、そういった関心を持つ方に相応しい本です。
赤銅というのは、銅に、金を3%から5%ほど混ぜた合金で、濡れカラスのような、渋い色合いになったものです。渋い色合いの工芸品を作ります。
黄銅というのは、銅に15%から20%ほどの亜鉛を混ぜた合金で、その色合いはまさに金のイミテーション・ゴールドと言えます。これは現在の5円玉に使われます。
なお、銅:亜鉛:ニッケルを混ぜた合金は、「洋銀」とよび、現在の500円玉に使われますし、楽器の素材にもなります。
自然界から金属を得るには、2つの技術が必要です。
まず、1)採鉱→選鉱→製錬(smelting)→精錬(refining)の一連の技術、
2)鋳金、鍛金、彫金 などの応用技術。
これらの工程を、人類は長い間にマスターしてきたのです。もちろん、これらの工程の多くは「火」を使うことが不可欠です。
日本にも、6世紀後半から、朝鮮半島からの渡来人によってその技術はもたらされたのです。
そして、日本史上、3度の鉱山ブームがあります。
第一は、7世紀後半(奈良時代)・・・仏像の建立
第二は、戦国時代・・・戦国大名の資金稼ぎ
第三は、ペリー来航後・・・欧米諸国との貿易
それぞれの期間には、血眼になって、原石の採掘がなされたのですね。当然、鉱害も、鉱山の規模が大きくなるほど、被害は甚大になったことでしょう。その矛盾は、明治時代の足尾鉱毒事件で大きく凝集されるのです。
今日のひと言:この本の著者の村上隆さんは、歴史材料科学、材料技術史が専門で、その理系的な意味と興味で、この本を書かれているようです。ただ、残念なのは、近代日本の成長に不可欠であったけれども、鉱毒騒動になった足尾銅山(足尾鉱毒事件)についての記述はなく(一般的な鉱山の危険性に関するコメントがならありますが)、金属を廻る「陽」的側面ばかり追い、「陰」の面はネグレクト(無視)しているようなのが残念です。それらしい記述は、「おわりに」の203Pから204Pまでにちょびっと出てくるだけです。ある意味、視野の狭い論者だと言えるでしょう。
金・銀・銅の日本史 村上隆:岩波新書:2007.7.20 第一刷
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