虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

本当はスゴイ・プラスティック。


 お刺身を入れるプラスティック・トレイ、しげしげと見たことはありますか?これが結構綺麗なのですね。美しい意匠が施されています。私はすべてとは言いませんが、プラスティック・トレイを取って置くことがあります。昨年も、「フキのキャラブキ」を作って、取っておいたプラスティック容器に入れました。



 綺麗で丈夫なプラスティック・トレイには2度、3度繰り返し使える魅力と実力があるのです。ただ、燃やしてしまえばそれまでだし、耐熱性はそれほででもないしね。まあ、有機物だからしょうがないけど。紙だって500度で燃えてしまうから、プラスチックだけが耐熱性が弱いわけではないのです。
 


人類が発明した物質のなかでも、その重要性についてベスト10に入るのがプラスティックだと思います。
なんとならば、陶器なら、土と薪があれば作れますが、今現在手許に持っている道具で、石油、石炭からプラスティックを作れる人がいるでしょうか。それを成し遂げたのが、19世紀末から20世紀前半に活躍した化学者たちなのです。徒手空拳で作れる物質ではないのです。また、いろいろな用途に利用できるのも、プラスティックの美質です。



   ちょっと歴史を追ってみます。

 プラスチックが歴史年表にはじめて登場したのは,ルニョー[仏]によるポリ
塩化ビニール粉末の発見である(1835年)。しかし,彼の発見した粉末は熱分解
しやすく,製品化までには至らなかった。製品化された最古のプラスチックは,
1851年のエボナイトで,つづき1868年のセルロイドとなるが,天然ゴムやセル
ロースという天然の高分子を原料とするため半合成品といえる。完全なる合成
品,すなわち,小さな分子を原料として合成された最初のプラスチックとして
は,フェノール樹脂(1907年)になる。これら3つのプラスチックの誕生は,ど
のような原理に基づいて化合物ができているかという理論が確立される前ので
きごとであり,プラスチックの黎明期といえる。

 ハイトラーとロンドンの量子力学に基づた共有結合についての理論が発表さ
れたのは1927年である。また,高分子化合物は小さな分子の集合体ではなく,
シュタウディンガーによる非常に多数の小分子が結合(重合)した化合物である
という説が,実用化されてまもないX線構造解析や彼自身の高分子化合物溶液
の粘度測定などの結果によって実証されたのは1930年である。これらの理論に
基づき,はじめて高分子化合物を合成したのはカロザースである(ポリアミド
のナイロン66の合成,1934年)。

ナイロン66の合成と相前後して,ユリア樹脂(1920年),ポリ塩化ビニル
(1927年),低密度ポリエチレン(1933年),ポリスチレン(1935年),メラミン
樹脂(1938年)などと,すぐれた性質をもつプラスチックが合成・工業化され,
プラスチックの第一期黄金期ともいえるが,開発されたプラスチックは当時お
もに軍需用として使われた。エボナイトセルロイドやフェノール樹脂が,天
然樹脂に代わる代替品として,広く一般市民におもちゃや文具などとして使わ
れたのと大きく異なっている。開発当時,第一次大戦と第二次大戦と世界規模
の戦争時代であり,天然ゴム,絹や石油など有用な天然資源の貿易が制限され
ていたためであろうか。

 第一期黄金期に開発されたポリ塩化ビニルは,石炭(コークス)と石灰石それ
に水から得られるアセチレンと,食塩の電気分解による水酸化ナトリウム製造
の副生成物である塩素を原料につくることができ,第二次大戦中・後の物不足
であった時代であっても合成することができた。しかも,生成物は,燃えにく
く,耐薬品性や耐候性にすぐれ,可塑剤を混ぜることで硬い成形品から柔軟で
薄いフィルムやシートにまで自由に加工することができ,多種多様な製品に応
用することができる万能プラスチックであった。しかし,戦後,よりすぐれた
耐熱性や耐久性をもつプラスチックが開発されると,新しいプラスチックにそ
の地位を譲った。



以上の記述は「プラスティック、これまでの歩み」:
http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~sawada/plastic/tanjyou.html
より。

 他の化学物質と同じく軍事用に使われたこともあったのですね。また、ポリ塩化ビニルは、その含有する塩素と有機物が「ダイオキシン」を生成するので以前問題になりましたね。(今でも問題だけど。)また、「メラミン」という中国製食品に含まれて問題になったものも、この時期(1930年代)開発されたわけです。


 私は以前、プラスティック成形会社に1年ほど勤めたことがあり、そこでは、「自動車関連のプラスチック」を作っていましたが、なにぶん下請けのまた下請けのため、自動車会社からはプレッシャーを受け続けていました。言いがかりにまごうこともありましたが、業界用語で「ショート:成形が不完全」とか「シルバー:製品に白い筋が入る」などの不具合がよく出たものです。でも、自動車よりプラスティックの方が、より優れた発明だと私は思います。なぜなら自動車は、ヨーロッパにおいて水車の伝統技術から派生したものだからです。くそー、威張りやがって、某本田技研!!



今日のひと言:プラスティックとうまく付き合うことは、これまでも、これからも人類の重要な仕事です。ところで私は、内容物より容器のほうがより重要なのではないか?――と感じる感性を持っていて、たとえば、漉いたままの紙のほうが、書かれた文字なり絵なりより、価値があるのではないか、という感性です。プラスティックも同じで、刺身より、それを入れるプラスティック容器のほうが価値があるのではないか、と思っちゃうのです。


白いプラスティックのフォーク―食は自分を作ったか

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美容整形と化粧の社会学―プラスティックな身体

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