虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト:色々な事物を取り上げます。

水って、なあに?(2)塩素の嘆き

             


(ぜんぶで6話、私が1984年から1985年に渡って某ミニコミ誌に書いた記事を載せます。なにぶん古いですが、今でも一定の価値を持っていると自認しています。私の文章修行にあたる記事です。第2話。)


 真夏のスリラー一題。今、あなたは、立喰いソバ屋にいます。昨夜飲みすぎて、水が無性に恋しい。「水頂だい。」―――「ゴクゴク。」―――「ああ、甘露。」・・・・・落ち着いた?じゃあ、調理場を見ましょう。合成洗剤などで、コップを洗っているはずです。それを水道水で流して、ザルに、逆さに立てる。水を頼まれると、蛇口をひねって、「はい、どーぞ。」何も問題ない?―――いえいえ、こんなに危ない水は他にはありません。


水道水には、塩素カルキ)と、それが元で生成する、トリハロメタンなどの「有機塩素化合物」が入っています。その上、コップの壁には、合成洗剤がたっぷり付着しています。これらは、そっくり飲み込まれます。体内は35〜36度Cで、有機物(炭素)の塊りです。ここで塩素は、トリハロなどを作る。(以後トリハロメタンは、トリハロと書きます。)


水道水に入っているトリハロは、高々、0.1PPMです。ところが、塩素は、1ないし2PPM入っています。1.5PPMとすると、塩素はトリハロの、1.5÷0.1=15―――15倍あります。トリハロが0.1PPMにまでなることは、あまりないので、東京なら、五十倍程度にもなります。塩素は反応しやすいので、体内で暴れまくります。発ガン物質が体内で生成し、血液に乗って、体内を駆け巡る!これは、私たちの遺伝子を傷つける。でもそれだけなら、ガンになる率は低いし、子孫への悪影響も出にくいのです。


ところが、もう一つ―――合成洗剤があります。トリハロが遺伝子を傷つけ、合成洗剤がその回復のジャマをする―――ガンが出来る。このように、トリハロと合成洗剤は、いいペアなのです。(ダーティーペアですか。)この場合、トリハロをイニシエイター合成洗剤プロモーターと呼びます。


でも、こんなに危険な塩素にだって、言い分はあります。彼の嘆きに耳を傾けましょう。塩素は、食塩(NaCl)の一成分です。特に、ナトリウム(Na﹢)は、生命維持に不可欠です。塩素イオン(Cl﹣)は、なくても良いが、ナトリウムの無二の連れ合いです。無用の用とでも言えますか。まるで、オンドリみたい。(ああ、男って悲しいね。)そして、塩素イオンの寿命は、海水中で、億年単位です。彼、塩素は、海に抱かれて、安住の地を得たのでした。


ところが、ここに、人間どもが「電気分解」という技術を作り出した。中学の理科を思い出してね。食塩水に電極を差し込んで、エネルギーを与えると、塩素ガスと苛性ソーダが出来る。それも一瞬のうちに。(塩素ガスと塩素イオンは違います。)ああ、塩素とナトリウムは引き裂かれた。


連れ合いと引き裂かれた塩素は、何とか安定しようと、健気な努力をします。それは、
1:手当たり次第に反応して、元の塩素イオンに戻ろうとする。
2:連れ合いとしては少々問題があっても、炭素(C)とくっつく。生物にとっては、有難迷惑な結婚であり、自然界では、まずありえません!(これが「有機塩素化合物」。)


 ここに1PPMの塩素が水道水にある、とは、1リットル中に、日本人の人口の約2兆倍個の塩素があることです。こんな多くの「振られ男」が、1:か2:の行動に走る―――その相手の炭素も、莫大な人口ですから、そこで繰り広げられる愛欲図は、すさまじいものとなります。水道水中ではもちろんのこと、人体内で起こるわけです。
       *********************

 このような超常世界には、私は耐えられません。(うそつけ!)ウーン、気を取り直して、続けます。


 そもそも、なんで「塩素」なんか入れて飲むのでしょう。一つには「殺菌」のため。細菌やウィルスを殺して、長距離、「腐らないよう」水を運搬するためです。いわば、「防腐剤」。でも、素朴な疑問が浮かびます。
1:なんでそんな長距離、水を運ばにゃならんのだ?
2:なんで細菌をそんなに目の敵にするのだ?―――この二つです。1)については、自
分の世話もできない甘ったれが、ないものねだりしている図が目に浮かびます。やみくもにダムを作り、山林を破壊し、水道広域化と称して、自分の住む地域の水(自己水源)を捨ててダムの水を飲む。これでいいのでしょうか?



2:については、人間の思い上がりだと思います。細菌にも、生きる権利がある。水道水に入れられた金魚は死んでしまいます。人間だけが、有難がって飲む。私には、むしろコレラ赤痢の流行を口実に、化学工業界が儲けているとしか思えません。こんな病気が流行するのは、その原因を人間が作った場合が、極めて多い。一律に塩素を入れなくても、賢く生き、ないものねだりをやめればいいのに。実は!水道では、塩素にもう一つの使い道があります。図を見てください。処理のはじめに、ドッと塩素を入れます。

その目的は、ともかく「水の中の汚れ」を除くことに尽きます。アンモニア、鉄、マンガン、藻類、有機物―――自然条件でもともと多い場合を除けば、大抵は、私たちが水を汚したから入ります。それを塩素で除く。(乱暴ね。おまわりさん呼ぶわよ!)特にアンモニアが大変で(例えば、大小便に由来)アンモニア「1」を除くには塩素を「10」入れなければなりませぬ。トリハロなどは、既にここでドバッと出来る。(もっとも、アンモニアが残っている時は、それと塩素との反応が優先するので、トリハロは出来にくい。しかし、塩素は過剰に入れるので、やはり出来るのです。)


 どうすればいい?―――「もっと技術を投入すればいい。別の薬を使えばいい。」という発想で、厚生省あたりはマジに、「過マンガン酸カリウム」で一部代用しようとしています。マンガンとは、立派な重金属です。毒ガスが駄目なら重金属!どこにも出口はありません。でも、厚生省ばかりを責められない。出口は―――皆さん、お分かりでしょう。


 では、今、水道水には処置があるのか―――当面の対策を書きます。
1:まず、塩素をなくす―――広口の容器に入れて(素焼き製のがいい。変なウワ薬の塗ってあるのはダメ。)フタをせずに(ゴキブリが恐い人は、ガーゼでフタをすればいい。)一晩、たった一晩、汲み置くのです。そうすれば、塩素はなくなる。それを煮沸して飲む。トリハロはすぐ飛び、もっと重い毒は残るとしても、ましな水です。汲み置かずに、蛇口の水を煮沸すると、トリハロが増えて逆効果。
2:水を凍らせる。水は、純粋に凍ろうとしていますから、七割がた凍ったところで、凍ってない三割を捨てて飲めば、とてもいい。煮沸しなくていい分、良い水です。以上、お試しください。それでも、―――


汚れていない水を、小手先の工夫をせず、そのまま飲むに勝る方式はありません。(また、都市民は、どんな水であれ、飲めることに感謝しなければならないでしょう。


参考過去ログ
 http://d.hatena.ne.jp/iirei/20091207#1260152540
  :Slat(スラット):人工甘味料の落とし穴(スクラロース


http://d.hatena.ne.jp/iirei/20101102#1288654476
   : 危険な人工甘味料・・・チクロからスクラロースまで


水道とトリハロメタン

水道とトリハロメタン

人間・環境・地球―化学物質と安全性 第3版

人間・環境・地球―化学物質と安全性 第3版

今日の一句

春一に
天人唐草
笑いけり


天人唐草」とは「オオイヌノフグリ」の美称。春先にブルーの綺麗な花を咲かせます。ゴマノハグサ科の野草で、なんにも利用価値はありませんが、この花を愛でるような心の余裕が欲しいものです。なお、「フグリ」とは「睾丸」(キ○タマ)のことです。実の成り方からこう呼びますが、帰化植物の「オオイヌノフグリ」より在来種の「イヌフグリ」のほうがより似ているそうです。

 (2013.01.24)