マラルメとヴァレリー 海に寄せる師弟の詩
フランス象徴詩特集 その1
(ある人へのメールに手を加えました。)
海の微風 ステファヌ・マラルメ
肉体は悲しく、私は万巻の書を読んだ、
私は海の向こうを指向する、
マストは折れるかも知れない、
でも我が心よ、
水夫たちの声を聴くのだ!」
以上、意訳によるダイジェスト。
マラルメは、1842−1898に生きた人で、リセ(大体日本の大学教養課程ていど)の英語教師を生業にしていました。穏かな一生を送ります。毎週火曜日には、彼の家に若い芸術家たちが集まり、研鑚していたのですね。ヴァレリー(1871−1945)もその一人でして、マラルメの家に若い芸術家たちが集まり、研鑚していたのですね。この詩は「フランス名詩選」(岩波文庫)にも出てきます。この詩を読み解くヒントは「旅立ちの決意」といったところでしょうかね。この詩の最後に出てくる「水夫」にひきずられて「水夫の歌」と理解してもよさそうですね。そして、師のマラルメの問いかけに応えるかのようにヴァレリーは次の詩を書いたのです。(14行詩:4.4.3.3行からなるソネットという形式)
Le VIN perdu
J‘ai,quelque jour,dans l‘Oc・_ean,
( Mais je ne sais Plus sous quels cieux )
Jete,comme offrande au neant,
Tout un peu de vin precieux...
Qui voulut ta perte,O liqueur?
J‘obeis peut−etre au devin?
Peut−etre au souci de mon coeur,
Songeant au sang,versant le vin?
Sa transparence accoutumee
Apres une rose fummee
Reprit aussi pure la mer....
Perdu ce vin,ivres les ondes!...
J‘ai vu bondir dans l‘air amer
Les figures les plus profondes...
par Paul Valery
(注:正確なフランス語のアルファベットではありません。変換できませんでした。)
失われた酒 ポール・ヴァレリー
いつだったか、私は大海に
(どんな空の下だったかは覚えていない)
少々の高貴な酒を投げた。
まるで「虚無への供物」のように。・・・
おお、酒よ、誰がお前を捨てようか?
神の意志に従ったのか?
心の寂しさからなのか
血に飢えて、酒を投げたのか?
少々バラの香りがしたあと
海はまた透明になり
静けさを取り戻した・・・
酒は投げた、波が酔った!・・・
私は見た、苦い大気の中
この上なく深いものの姿を・・・・
これは、私自身の訳です。
師の呼びかけに応じ旅した末、垣間見たヴィジョンがここに語られています。この「失われた酒」は、これまで私が出合った詩の中で、最高の作品の一つです。
酒を海という虚無に捧げるこの行為、もちろん無意味です。でも詩人はその無意味な行為の中に永遠との出合いを体感しています。まあ、象徴的な言い方をすれば、虚無とのSEXと言ってもいいかも知れません。虚無は、確かに彼とコレスポンデンス、共感し、SEXしたのです。
なんとも見事な師弟の共演だとは思いませんか?なお、ヴァレリーは死後、フランスの国葬を受けています。
今日のひと言:難しい言葉を使えばいい詩が出来上がるわけではありません。簡単な言葉を使うことで、いい詩が出来上がる例はたくさんあります。
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