虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

*海洋と陸地――地政学への招待 その2

地政学とは何か?A:地政学は、英語でGeopoliticsと言う。「geo」とは「大地」を指す。「politics 」とは「政治」だ。直訳すれば「大地政治学」だね。この学問は、その原義のとおり、政治学の一種だけど、政治は必然的に軍事も内包するので(「戦争は、政治の一形態、延長である」(クラウゼヴィッツ:ドイツの軍人、兵法家))、きなくさい学問であることだけは言っておこう。 
 だけど、地政学の最大のメリットは、小学校から大学まで学ぶ社会の諸分科、つまり「歴史」、「地理」、「公民」を包括できる学問の一種だということ。たとえば、1192年に日本に起きた大事件とは?・・・との問いの答えはもちろん「鎌倉幕府成立」だ。でもこの事実は「歴史」の分野での事実であり、今の日本の教育制度および入試制度では、これが「地理」とか「公民」の問題になることはなく、ただ単に1192という数字が問われるに過ぎない。ただでさえ、覚えるべきことの多い社会の分野で、この取り上げ方って、生徒のエネルギーの浪費じゃないのか?・・・と僕は思う。

 地政学・・・##地政学とは、地理政治学(Geopolitics)の略語である。        ある国家が置かれた地理的な状況(地形や国土の広さ、気候など)が政治や国家関係に与える影響を研究するのが地政学である。たとえば、寒く、農業に適した土地の少ない国であれば、土地を求めて侵略的な政策をとることが多くなるだろう。逆に、ほぼ自給自足の可能な温暖な島々であれば、争いは起こりにくい。また、半島は戦略ルートとして常に緊張した環境に置かれやすい。##

 出典:http://tagataga.hp.infoseek.co.jp/data/sennsou/gunj/strategies/geo_Politics.htm
   

A:この定義の場合、民主主義とか共産主義、資本主義、帝国主義など従来の社会科学的概念は二次的なものになる。ある国家と別の国家の地理的関係を、単に地図上の位置関係と考えずに、もっとダイナミックに考察するんだね。その際には両国間(あるいは多国間)の歴史的関係とか、社会制度のあり様、農漁業生産能力、鉱工業生産能力なども考慮される。この辺が、「統合された社会科」として地政学を取り上げる根拠だ。あるいは、以下のような定義もある。
 ##まず、ひとくちにいって政治学の一種であることは確かです。それもかなり手の込んだ現実的な政治学の形態といえるでしょう。ふつう政治学では、よく日本の議会政治のあり方とか、またそれと外国の政治との比較とかいったことを問題にします。が、地政学ではそれもさることながら、常に地球全体をひとつの単位とみて、その動向をできるだけリアル・タイムでつかみ、そこから現在の政策に必要な判断の材料を引き出そうとします。つまり、常に地球を相手にする政治学だから地政学というのだと、まあそう簡単にいっておきましょうかね。##
       地政学入門(曽村保信中公新書  P4)

 後者の定義は、きわめてグローバルな視点を持っているね。もっとも、論者によって定義のニュアンスが変わるのもちょっと気にはなるが。「地政学入門」の中で触れられているけど、ブラジルの突端部にある「ナタル」という場所は、当然アメリカ合衆国の勢力圏だと思われるだろうが、地球儀でよく見ると、アメリカ合衆国のマイアミからと、ヨーロッパのイベリア半島の突端からと、ほぼ等距離にある。そうすると、地政学的には、ブラジルがスペインの潜在的な勢力圏であることが解かるだろう。この地理学的事実から政策の示唆を得るわけだね。ここで、小手調べの問題。

問い:「台湾」は、現代の日本人には、グルメ・ツアー以外になじみが薄く、日本人の関心もあまり向いていないが、実は日本にとって、地政学的に重要な位置にある。島嶼としては琉球列島につながるように見えるが、歴史上はほぼ中国の領土だった。日清戦争の結果日本の領土となったが、第二次世界大戦後は再び中国の領土となり、中国の内乱で共産党に敗れた国民党が逃れ、いまでも「分断国家」である。そして、日本にとって特に重要なのは、石油の輸入経路上にある要衝だということである。この台湾が、中国に吸収された場合、どんな事態が考えられるか書け。



B:この問題の場合、歴史、地理、公民のばらばらな知識では答えられないね。ここに地政学の視点が必要になるんだね。     (つづく)

今日のひと言:「ハッスル」プロレスラーの和泉元彌(いずみ・もとや)、今度は狂言師に転向か?