- 作者: 林信吾
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2001/01
- メディア: 単行本
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この言葉は、竹下登・前首相が言っていたものだそうです。確かに、民主主義に「多数決」という原理があるかぎり、この言葉は正しいのでしょうが、ある本でこの言葉に接したとき、私は違和感を覚えたものです。途中の議論というものは全く無視して、金、地縁、血縁を駆使することによって獲得した議席の優劣のみで国法を決定する・・・なんだかイビツな民主主義だと思います。
そこで議会制民主主義の先達イギリスの場合はどうなのかと思い、「英国議会政治に学べ」(林信吾:新潮選書)を読んでみました。いくつかの重要な点で、両者の相違が解ります。
1) イギリスの議会制民主主義は、セブンイレブンのようなもので、日本のそれはローソンみたいなもの。その心は、議会制民主主義はイギリスがその歴史、社会構造の中から編み出したもので、その過程でいろいろな問題が起きたけれども、ひとつひとつ解決している。日本の場合はトップダウン式に与えられたもので、検証されていない。この相違は私がたてるアナロジーでは、自分たちで商売のノウハウを確立したセブンイレブンと、遅れて参入したローソンくらいの違いになります。不測の事態に対しても、イギリス議会とかセブンイレブンとかのほうがより柔軟に対処できるように思われます。
2) イギリスの場合、議員は全員落下傘候補であること。立候補したい人は党の審査を受け、党が指示する選挙区から出馬します。だから理論上候補は落下傘部隊であり、選挙民に対して弁論で支持を訴えなければならず、日本のような地縁、血縁が入り込む余地はありません。その分、お金による買収は出来ません。
3) 日本の場合、国会議員にはバカでもなれる。杉村太蔵議員のような人は、イギリスでは間違っても議員にはなれないでしょう。意外なことですが、イギリスの場合、選挙区は単純小選挙区制であり、比例代表区はありません。だから死票は多くなりますが、しのぎを削る選挙戦の結果、つぶよりの当選者が選ばれるのです。また、公明党のような有害な宗教政党を制度上締め出すこともできます。
4) どの政党も政権担当能力を第一義的に磨く。日本政治のような「万年野党」に甘んじるといった姿勢はミジンもありません。イギリスの政党はいろいろな社会階級の利益を代表するものですが、政権担当を目標にいわゆるシャドウ・キャビネットを充実させています。保守党、労働党いずれも在野の際、次の政権運営をリアルに思い描いているのです。(なお、保守党といえども、革新的な政策をためらわずに取る点にも留意すべきでしょう。)
5) イギリスでも、過去、金権政治=買収がよく行なわれていましたが、法規改正でその弊は除かれています。竹下登の金庫番だった青木幹雄がその財力にものをいわせて(ろくに大臣を経験していないのに)参議院で隠然たる力を保っていますが、金で買った議席の力を誇示する言葉が冒頭の「民主主義とは数だ」という横暴な発言なのですね。
今日のひと言:イギリスの議会制民主主義が完全なものではなく、盲目的に日本でも導入するべきであるとは思いませんが、日本の議会制民主主義の一応の指針になるとは思います。