虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

寒山詩:高僧でもないパシリの寺男の偉大な境地




寒山・拾得→


 寒山と拾得という2人の寺男(寺の雑務を任された人)は、寒山が詩を書くための筆を持ち、拾得が掃除のために箒(ほうき)を持ち、日夜雑務をこなしていますが、その禅的悟りの境地は、非常に高かったとされます。森鴎外の作品にその名もずばり「寒山拾得」というものがあり、彼らを真理の比喩とし、常識人には捉えきれない存在として描いています。


http://d.hatena.ne.jp/iirei/20160817#1471422631

  :川合玉堂:私にとっては忘れられない名を持つ日本画家(今日の一枚の絵を描いた人)


彼らの風貌、なんとなく俳優の「佐藤蛾次郎」さんに似ている気がします。似ていない?これは失礼しました。


寒山にはおびただしい詩作品があり、総称して「寒山詩」と呼ばれます。そこで図書館の蔵書を検索してみましたが、寒山詩についての本は2冊ほどありましたが、いずれも禁帯出で、搦め手から読んで見ようと、「座右版 寒山拾得」(久須本文雄:講談社)なる分厚い本を借りてみましたが、これが大当たりで、寒山詩に500首あるとして、ほぼ半数の詩が収録されていて、拾得の詩、豊干禅師寒山拾得の理解者)の詩なども収録されている、学ぶ者にとっては至れり尽くせりの本なのでした。


そんな訳でこの本から、寒山詩を2つ拾ってみようと思います。ただ原文の漢詩は、常用漢字以外のものが多く、変換できない、ないし困難ですので、書き下し文を持ってきます。

@独り重巌の下に臥す


重なった深山幽谷の巌の下に独り住んでいるが、そのあたりは蒸れのぼる雲が昼になっても消え去らない。それで、家の中は薄暗いけれども、心の中は閑寂で騒しさは無い。夢で帝釈天の黄金の門へ遊びに出かけ、また魂は帰っていって天台山の石橋をさまようのである。騒々しくて気にさわるものは放り出してしまう。からからと鳴る樹の間にかけた瓢箪(ひょうたん)なんかはうるさくて。

  118P−119P

この詩は修行のため、女性はもとより世間一般と隔絶した深山幽谷に身を潜めるという、禅宗ならではの境地が語られますが、ちょっと紋切り型だなという印象を持ちます。禅宗に限らぬ仏教の持つ「偏見」であろうと思われます。ある老女が修行僧をあれこれ援助して、さて美人を彼のところに連れて行ったとき、僧は美女に心を動かされなかった、それを見た老女は「こんなデクノ坊を作るために援助したのではない」と僧を追い出したと言います。(「禅――現代に生きるもの」:紀野一義:NHKブックス)



@黙黙として永く言うこと無くんば


いつまでも黙々として言葉を発しないでは、次の世代の者はどうしてその人の言葉を受けついで述べ伝えることができよう。山林に隠れ住んでいては、智慧の太陽はどこから出るであろうか。隠棲して落ちぶれやせ衰えることは、堅固な保身とはいえない。風や霜にあたって、病気で若死にすることになるだけである。土で作った牛で石ころの畑を耕すようなもので、いつになっても、稲は期待できない。隠遁生活では、とても道を体得することはできないであろう。

 146P−147P


この詩は、先に挙げた詩と矛盾しているように思われますが、修行をして高い心の境地を達成したあとは、その境地を我のものとして独り占めせずに、他のおおくの人々に延べ伝えるべきである、というルールが語られているのですね。
 


今日のひと言:このブログの初めに触れた森鴎外の「寒山拾得」は超・短編小説で、読みやすいので、彼らの息吹を垣間見ることのできるものとして、オススメします。特に結末が良いです。青空文庫でダウンロード出来ます。




座右版 寒山拾得

座右版 寒山拾得

莫山の寒山拾得

莫山の寒山拾得

阿部一族・舞姫 (新潮文庫)

阿部一族・舞姫 (新潮文庫)






今日の一品


@ニシンのケチャップ煮



弟作。ニシンを5個にブツ切りし、ケチャップ、バジルソース、塩で煮ました。

 (2017.07.24)



@ブナシメジのアヒージョ



かなり優れた食味のブナシメジを使ったアヒージョです。もっとも「シメジ=本シメジ」はマツタケ並みに稀なキノコで、通常シメジとして言われるのはヒラタケです。ほかの「**シメジ」として売られるのも、同じ状況です。

 (2017.07.25)



@オクラのアゴ出汁、醤油煮



弟作。オクラは、生より煮物によく似合うようです。

 (2017.07.26)



@切り干し大根



弟作。これぞ、日本の代表的な保存食。今回は、切り干し大根1袋、油揚げ1枚、クコの実適量を、ゴマ油、醤油、砂糖で味付けしました。

 (2017.07.27)





今日の一首


普段には
それと解らぬ
百日紅サルスベリ


並木になりて
目を奪うなり




百日紅の言葉通りの赤い花、四季の一時期だけ街路を飾ります。カメラなしで写真なし。

 (2017.07.27)