虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

葉桜と魔笛(太宰治の超短編):太宰もなかなかやるじゃん。








この超短編は5、6分あれば読めてしまいますが、太宰作品にしては明るい作品だと思います。時は明治時代で、季節は4、5月かと推察されますが、はっきりしたことは解りません。また、魔笛とは軍艦の礼砲、口笛など、いくつかその正体が挙げられるようです。


この作品の主眼は、2歳ちがいの姉妹のお互いを気遣うやりとりでしょう。腎臓結核になって余命わずかになった妹の箪笥の引き出しを開けてみた姉、おびただしい量の手紙が封筒ごと緑色のリボンで結わえてあるのを発見したのですね。


妹には失敬してこれらを読んでみると、なにやらM・Tと言う男性からの恋文であることを知ります。でも、妹の病状が悪くなっていくにつれ、まさに「つれなく」なっていくことに男の薄情さと妹の落胆が知られ、ここは一肌脱ごうと、M・Tからの恋文を偽造(!)し、病臥している妹に読んできかせます。 


ただ、姉には解り得ないことでしたが、これらおびただしい恋文は、妹その人が自作自演したものでした。淋しさを紛らすために。もちろんM・Tも架空の人物でした。その事実を聞かされて、姉はいろいろな感情が駆け巡り、赤面してしまいます。

 
でも、この一件で、姉妹の仲が険悪になるということはなく、むしろ絆が深くなり、姉は妹に付き添い、3日後に妹はむしろ幸せに死にます。これが姉20歳のときの出来事で、その印象が強すぎ、24歳という結婚適齢期(明治時代においてはこの歳はむしろ晩婚)になっても、縁談が纏まらないという不具合を経験したとのことでした。


この作品を読んで、私は太宰治の小説の優れた一面を見た思いです。太宰作品というと、なにやら悪党じみた男が家庭を省みずはめを外すといった情景を思い浮かべますが、それだけでない要素も、太宰作品は持っているようです。太宰の本領は、市井の人として(例えば彼は東大仏文学科中退で、アカデミックな世界には背を向けていました)、当たり前の人物を描くことにあったのだと思います。


その意味では、太宰の文学は、市井の人を描くと言うことで、アレンジすれば現代小説、現代演劇にも応用できるという普遍性を持っていることになります。太宰の文学は、そのような小説の走りだったと思います。今回取り上げた「葉桜と魔笛」などは、やはり市井の人を描いたアメリカの小説家:O・ヘンリーの作品、たとえば「賢者の贈物:The Gift of the Magi 」などに似ているように思われます。


この種の作家は、日本の小説家のなかでは、どんな人がいるか、考えてみますに、現在ではむしろ多数派である気がします。むしろ、市井の人しか描けない作家が多いのではないか、と思います。明治期から昭和期にかけて活躍した森鴎外中島敦安部公房などは、ものごとの真理を洞察するような作品を残していますが、こんな小説たちは、言わば「時代遅れ」の烙印を捺されるかも知れませんね。淋しいことです。



今日のひと言:なにはともあれ、太宰治の作品は日本人の中に深く根ざしていて、いまの若者をも惹き付け続けている点でも、名作が多いのだと思います。なお、手紙の束を縛っていた緑色のリボン、もし妹が赤いリボンを使っていたなら、女性心理としてM・Tは実在の人物であったろうかな、と思います。最後に、今回の作品は、同僚の女性に薦められ、青空文庫で読んでみたものです。



ヴィヨンの妻 (新潮文庫)

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エロい文学 - エロチック短編集

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太宰治短編集(英文版)  -  Crackling Mountain and Other Stories

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葉桜と魔笛 (立東舎 乙女の本棚)

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今日の一品


@サワラのピザソース焼き



淡泊な味のサワラ(鰆)。ピザソース(カゴメ社製)のように味の濃厚なものと合わせるとどうなるか、やってみましたが、イケました。

 (2016.12.25)



@大豆もやしのナムル



大豆もやしは、その栄養価を十全に発揮させるのに、「茹で」時間が必要です。6、7分茹でることによって、栄養が摂れます。また煮汁は、ほかの汁ものに使えます。今回は味噌汁のベースにしました。ナムルに使った調味料は、コチュジャンゴマ油、醤油。


http://d.hatena.ne.jp/iirei/20160525#1464171213 も参考のこと。

 (2016.12.28)



@鮭頭煮



鮭の頭は、注意していれば、スーパーで置いてあることがあります。我が家では、これを圧力鍋に水を張り、重りが動き始めてから10分ほど煮て、放冷します。骨まで食べられます。今回は手でばらばらにしたあと、ナツメグを振りました。頭部には「氷頭:ひず」と呼ばれるゼラチン状の部位があり、これは美味しいのですが、圧力鍋の調理では、柔らかくなりすぎるのが、難点といえば難点です。

 (2016.12.29)



慈姑クワイ)焼き



「芽が出る=芽出度い」ということでおせち料理にも使われる慈姑。近年人気はなく、スーパーなどで見かけるのも稀です。あっても、品薄で高価です。ただこの植物には滋味があり、正月くらいは食べてみたいもの。今回はオーブンレンジで180度・15分、味噌を塗って電子レンジ2分で仕上げました。味は、さほど甘くない栗といった感じ。芽は苦い。

 (2016.12.31)





今日の詩


@ABC随想


Aはatomic、核兵器


Bはbiological、生物兵器


Cはchemical、化学兵器


ノーベル科学3賞で
栄誉ある地位を与えられる
このABCは、
人殺しの道具でもある。



参考過去ログ :フリッツ・ハーバー〜不運な愛国者

 http://d.hatena.ne.jp/iirei/20110724#1311503102

 (2016.12.28)





今日の三句


春を待ち
ツボミをつけし
ハクモクレン

 (2016.12.28)




薔薇(バラ)のごと
山茶花サザンカ)落花
匂い立つ

 (2016.12.31)



愛犬と
散歩で拝む
御来光

 (2017.01.01)