虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

短編小説名手の傾向分析:川端康成・芥川龍之介・梶井基次郎・中島敦

私が大学時代の最中とその後数年食いつないだ一種の学習塾で、理科系だった私はそれに反し、国語科の講師に合格し、中学生たちに教えていました。教材も粒揃いで後から考えるとエクセレントな作品の数々を生徒たちに教えることができたのは僥倖でした。


そのような作品の一つに、川端康成の「掌の小説:てのひらのしょうせつ、たなごころのしょうせつ」という短編小説集に収められたものがありました。いまからうろ覚えに思いつく題名は、たしか「故郷」、特徴は、冒頭に近い位置で「ヘリコプター」が登場することでした。


たまたま弟が「掌の小説」(新潮文庫)を持っていたので、短編が100編あまりも集められたその本を読んでみましたが、(冒頭にヘリコプターがでているかどうかを調べたのですが)「故郷」という題名の小説はひとつあり、この作品がヘリコプターという用語を含んでいればOKでしたが、この作品ではありませんでした。


そこで、弟は図書館に行った折、少々苦労して別の文庫本を借りてきてくれました。その本は「文豪怪談傑作選 川端康成集  片腕」(東雅夫編:ちくま文庫)。川端の作品を「怪談」の枠内で取り上げよう、という珍しい趣旨の本でした。もちろん、お目当てだったヘリコプターにも再会しました。「故郷」という名の小説で、川端康成は、同名の作品を発表することもあったのだな、と納得しました。


そもそも、この作品の場合、私は冒頭を読んだ際、ヘリコプターに「無気味で」「不安な」感情を抱きましたが、小説も、そのような旋律で進んで行き、最後には主人公が「ここは、自分の帰るべき故郷ではない」と自分に言い聞かせることで話は終わります。途中、幼馴染の女の子と、その子の年老いた姿が二重写しになり、怪談というより、一種の「ファンタジー小説」のようにも読める気がします。まあ、よい作品ですね。


さて、今回ブログの表題、「傾向分析」ですが、私は2つの座標軸を設定します。ひとつ(y軸)は「湿度」、もうひとつ(x軸)は「温度」です。「湿度」は、その値が高いほど「感傷的」「涙にまみれた」という意味合いを持たせます。「感情性」の指標。「温度」は「ユニークさ」「(および、それによって生まれる)楽しさ」を表わし、テクストの持つ「特殊性」の指標。そして、今回は4人の日本を代表する短編小説の名手をこの座標系の、原点を中心とした半径√2の円上で、4つの象限にそれぞれ割り振ります。







例えば、梶井基次郎の作品には、本人の悲しみが投影されることがなく、むしろ自分の命を奪うことに間違いない結核についても、それを特に恐れたりせずに、「桜の木の下には」などのユニークな感性が光る作品群を残しています。それで梶井の数値は(1,-1)。また中島敦の場合、彼も結核で命を落すのですが、それも特におそれず、客観的でまさしく文豪だな、という作品群を残しています。ただ、さほどユニークではありません。それで(-1,-1)。ただ、これは中島の欠点ではなく、長所です。冷え切って乾燥した究極の知性を表すと思うのです。注意したいのは、梶井も中島も自殺していないことです。


転じて、川端康成の作品の場合、なんだか今回挙げた「故郷」のように「悲しい」雰囲気があるのですね。そして、作風はユニーク。座標では(1,1)。芥川龍之介にも、仮面の裏に「涙にまみれた」素顔が覗きます。作風はオーソドックスです。それで(-1,1)。ここで注意したいのは、川端、芥川、共に自殺している点です。



今日のひと言:私が今回採用した、2次元の直交座標系を使うというのは、案外知られている手法だと思います。さて、今回の蛮勇を振るった座標化、いかがでしたか?なお、例えば(短編作家ではないですが)石原慎太郎の位置づけは(小説家の力量は、原点(0,0)からの距離(絶対値)で測るとして)、彼の位置は原点・・・「力量はない、取り柄もない」と見なせます。「太陽の季節」は、ユニークだ、との意見もあるでしょうが、あれは単なる「露悪趣味」だと私は思います。今回取り上げた4人の(短編)小説家の場合は、その絶対値が√2で、力量は均等にある、としました。



掌の小説 (新潮文庫)

掌の小説 (新潮文庫)

掌の小説

掌の小説

太陽の季節

太陽の季節

文豪ナビ 芥川龍之介 (新潮文庫)

文豪ナビ 芥川龍之介 (新潮文庫)

川端康成集 片腕―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫)

川端康成集 片腕―文豪怪談傑作選 (ちくま文庫)






今日の料理


@草のサラダ






プランターで栽培しているとか、勝手に生えてきた草とかを4種類ほど切り取って、洗ってサラダにしました。メンバーは、紅法師(水菜)、ナスタチウムハコベ、ハルノノゲシです。塩を振っただけ。鮮烈な春の風味。

 (2015.02.16)




@豚薄切り肉のしゃぶしゃぶ・辛子風味






いつもは「生姜焼き」にする素材を、茹でてポン酢、辛子で和えました。

 (2015.02.16)




@アーモンド入りクリームシチュー




hirokonishidaさんがよくレシピに取り上げになるアーモンド。今日は普通のシチューにいれてみました。茹でピーナッツのような感じの食感ですね。

http://hirokonishida.hatenablog.com/entry/2015/01/31/070620 など。


 (2015.02.17)




@ラム肉のヌタ・エシャロット添え






わが家の定番料理のラム肉のヌタ。今回は、茹でるネギの生の風味も食べたいので、エシャロット(実はラッキョウ)をこま切りにして加えました。味噌は西京味噌。なお、ネギ類はその風味から、「ひる:蒜」と呼ばれますが、これは舌がひりひりすることから「ひり=ひる」と呼ばれるのかとも思います。(私の憶測)

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20130915#1379241154 参照。(ラム肉のヌタ)


 (2015.02.18)




今日の一句


廃屋の
庇の上に
狸おり

 (2015.02.19)





今日の驚愕


わが家では、半年おきに朝日新聞讀賣新聞を取ってきましたが、「虚偽の報道」の多い朝日新聞原発推進派で政府の「広報誌」である讀賣新聞を両方とも再契約しないことにして、来年3月から東京新聞を購読しようとしています。今日もコンビニで東京新聞を買ったら、‘ 防衛省文官統制」廃止へ’といったトップニュースを報じていました。戦後の自衛隊史に強力な変更を迫る大改悪の印象です。自民党の連中がいかにも食いつきそうな話です。しゃかりきに法案成立を急ぐのでしょう。よくぞトップ記事にしたと思います。かたや現在取っている讀賣新聞ではもはや手垢のついた「ギリシャの経済危機」というニュースがトップ記事でした。なんて報道姿勢が違うことよ。

 (2015.02.22)