虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

川端龍子(かわばた・りゅうし):「面白い」水墨画

まず、下に挙げる絵を見てください。これは川端龍子水墨画で、「ヤップ島所見 男の舞踊:1935」です。「これが水墨画?」と思われるほど、変格的な水墨画です。まず、題材が南方の島に住む原住民たちであり、彼らの踊りを絵にするというあたり、「水墨画」と言ってイメージされる絵柄と似ても似つかないのです。でも、この幾分手抜きの絵、どこか陽気で、「こんな水墨画もありなのだな」と思わせてくれるのです。



その川端龍子(1885−1966)について wikiから引いてくると


画家としての龍子は、当初は白馬会絵画研究所および太平洋画会研究所に所属して洋画を描いていた。1913年(大正2年)に渡米し、西洋画を学び、それで身を立てようと思っていた。しかし、憧れの地アメリカで待っていたのは厳しい現実であった。日本人が描いた西洋画など誰も見向きもしない。西洋画への道に行き詰まりを感じていた。失意の中、立ち寄ったボストン美術館にて鎌倉期の絵巻の名作「平治物語絵巻」を見て感動したことがきっかけとなり、帰国後、日本画に転向した。


1937年(昭和12年)に『潮騒』を発表。幅 14 メートルの超大作。岸壁の海岸、深い海の青が浅くなるにつれ、透明度の高い緑に変化していく様子を鮮やかに描いている。この作品で龍子の筆致は大きく変わった。岩に激しくぶつかる水、そこには輪郭線がない。想像だけで描いた『鳴門』と比較すると繊細な波の動きがよりリアルに表現されていることが分かる。新たな水の表現を獲得した龍子。


しかし、1941年(昭和16年)太平洋戦争勃発。自由に絵を描くことが許されない中で、龍子は作品を発表し続けた。1944年(昭和19年)には『水雷神』。水にすむ神々が持ち上げているのは、魚雷である。暗く深い海の底、その水は重く濁っている。龍子はこの神々に命を投げ出し、突き進む特攻隊員の姿を重ねた。この絵を描いた頃、龍子は息子を戦地で、妻を病で亡くしていた。重々しい色使いは龍子の心情の表れかもしれない。


この解説では、龍子は一般的な絵の具を用いる画家として紹介されていますので、私が水墨画として挙げる作品群とはちょっとイメージが違います。私が読んでいる本は「現代の水墨画6 川合玉堂川端龍子」(講談社)で、以前取り上げた川合玉堂を目当てに借りてきたものだったのですが、川端龍子が期待外に印象的だったので、また改めて借りているのです。


この本によると、龍子はマンガ編集、新聞挿絵も手がけていて、通常の画家より諧謔性に鋭敏だったように思います。そのような経歴の人が描くであろう絵として、「ヤップ島所見 男の舞踊」があるのだと思います。ただし、彼の場合は、当時の軍部に協力して、嘱託画家として、中国や南方に派遣されたりしています。ただその後、四国八十八か所巡礼の旅をしています。家族だけでなく、亡くなった多くの日本兵を忍ぶためもあったのか・・・戦争に対する態度は画家それぞれですが、協力を断り中国戦線に送られ病死した靉光あいみつ)、協力したが戦後失意のうちに日本を離れ、フランスに永住した藤田嗣治などの選択が一般的でしたでしょうか。



 
その外、気に入った作品を2つ。


怒る富士(1944)



いまだかつて、これほど荒々しい表情の富士山を描いた画家はいないのではないでしょうか?


燈明(1958)



サギのごとき鳥の頭の天辺で燃える燈明。この鳥は実物のもの?それとも模型?・・・不思議に想像力を掻きたててくれる絵です。



参考過去ログ

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20130608#1370658842

:眼のある風景〜〜靉光あいみつ)の反骨的絵画



今日のひと言:日本画家と言えど、良い出会いであるか悪い出合いであるかは問わず、西欧絵画に接することは、自らのあり方を自問する意味で、重要なのでしょうね。なお、川合玉堂の記事でも書いたように、水墨画も、色絵の具を使うことがあります。 

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20160817#1471422631




川端龍子 詠んで描いて四国遍路 (小学館文庫)

川端龍子 詠んで描いて四国遍路 (小学館文庫)




今日の一品


@3色豚ソテー



弟作。ソテーして、塩を振ったあと、1)パクチーソースの緑 2)マヨネーズ・辛子の白 3)ナツメグの赤としました。なかなかの出来ですね。三元豚ではありません。

 (2016.09.17)



@コマイ焼き



コマイ氷下魚)は、北海道で良く取れるタラ科の魚。焼いてマヨネーズして美味です。むかし東京にいたとき、魚介類やワインなど、北海道の美味しいものを食わせてくれる家庭的な雰囲気のあるスナックで知りました。

 (2016.09.18)



@鶏モモ肉のカシューナッツオイスターソース餡掛け



弟作。茹でたモモ肉に、その煮汁少々、カシューナッツ(砕いたもの)、オイスターソース、かたくり粉を一緒にして加熱した餡を掛けました。

 (2016.09.20)





今日の詩


@「詩がない」志賀直哉


一昔前の構造主義者(蓮実重彦など)に絶賛された志賀直哉
「城の崎にて」で梶井基次郎に大きな影響を与えたが、
この「小説の神様」、実はトンデモだ。


ハンセン氏病の作家、北条民雄のことが書いてある印刷物に
触ることさえ嫌ったそうだ。穢れると。
川端康成小林秀雄などが多大の支援を北条に与えたのと好対照だ。


また戦後、いい加減な言語、日本語を世界一美しいフランス語に
置き換えるべきだと論陣を張ったこともある。
――フランス語についてよく知らないのに。


以上、志賀直哉は「詩がない」デクノ坊である。

                    Q.E.D.



いのちの初夜 (角川文庫)

いのちの初夜 (角川文庫)

志賀直哉随筆集 (岩波文庫)

志賀直哉随筆集 (岩波文庫)


  (2016.09.20)