「フランダースの犬」:ネロはルーベンスになれたか
「アニメで読む世界史」特集その1
以前、「アルプスの少女ハイジ」を取り上げた際、表題の本があるという情報を掴み、図書館の相互貸借を利用して借りてみました。「アニメで読む世界史」(藤川隆男・編:山川出版社:2011初版:本体1500円+税)です。
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20130504#1367638899 (その記事)
この本は歴代のテレビ・アニメになった作品たちの歴史的な意味合いを分析するという視点で描かれますが、特にアニメでは「ハイジ」と「フランダースの犬」が印象に残っていますので、この2作品についての記述を取り上げようと思います。(「母をたずねて三千里」はその歴史的背景が面白いので、稿を改めて別ブログで取り上げます。)
まず、「フランダースの犬」についてですが、「ネロはルーベンス並みの画家になれたか?」という問いについて、冷酷に「否=NO」としています。その理由として
幼いころからおじいさんの代わりに働いていたネロは、学校へはほとんど通えず当時公的な場で必要だったフランス語どころか、オランダ語の読み書きすら満足にできなかったのではないでしょうか。かりに学校に通えたとしても、貧しい村なので、教師の質やカリキュラムはアントウェルペン(筆者注:アントワープ)より見劣りしたでしょう。そのうえ、ネロには、本を読む時間もお金もないので、教養がありません。
(中略)
一流の画家=芸術家として世界的に有名になって「白い大理石の宮殿をたて・・・豪華な庭園をきずく」には、まずアカデミックな画壇で認められて、上流階級や裕福なブルジョアから高い値段でたくさん絵を注文してもらわなければなりません。そのためには、古典について知っておく必要がありました。ミドルクラス向けの新聞や雑誌の挿絵画家や版画家になってお金を稼ぐ方法もありましたが、それでさえ同時代の政治・社会・文化を読み解く能力が必要です。アニメはともかく原作のネロにとって、15歳までの教育のブランクを埋め、教養を身につける作業に時間をとられることは、画家をめざすうえで、とてつもないハンディになったはずです。実際、19世紀にネロのような生まれで成功した画家はほとんどいません。
62P(注:このようにこき下ろすことを書いていながら、著者(頼 順子さん)はもし特別なチャンスに恵まれれば、成功したかもしれないとフォローしています。)
この際、ネロの母国・ベルギーはどんな国だったか一瞥しておきましょう。先ほども出てきましたが、話される言語は主としてフランス語、オランダ語。そして、オランダと同じように海抜下の低い土地を領土とする国です。おおむね、オランダに近い地域(フランデレン地域)ではオランダ語が話され、フランスに近い地域(ワロン地域)ではフランス語がしゃべられます。そして首都・ブリュッセルではオランダ語とフランス語が公用語として両方話されます。
ベルギーは、カトリック国家(フランス)とプロテスタント国家(オランダ)に挟まれ、1830年に建国された新しい国です。オランダとの軋轢の末、独立したのですね。ただ、この国に暮らす農民の多くは小作農のうえ、狭い耕作地で収益が上がらず、商業都市・アントウェルペンに出稼ぎに行く農民も多かったとのこと。でも、ネロは出稼ぎには行っていません。アントウェルペンは、ネロにとってさほど魅力的でなかったのか・・・
ベルギーは今国家分裂の危機に晒されています。フランデレン地域の経済発展にワロン地域の住民が追いつけず、嫉妬の念を抱いているからだとか。
「アルプスの少女ハイジ」については、噂だと「何故ハイジは黒髪で金髪ではないのか」という問いの謎解きが触れられていると聞いたのですが、この本にはこれについての記述はありませんでした。残念。また、飼い犬ヨーゼフはもちろんセントバーナードですが、スイスの人たちにとっては、日本人がニンジャ・ゲイシャといわれるのと同じ紋切り型で、不評を買い、スイスのテレビ局では日本アニメ「アルプスの少女ハイジ」を一度も放送していないらしいです。ドイツのテレビ局の放送では聴取でき、案外スイスの子供たちは楽しんでいるようです。
今日のひと言:ハイジの話に登場する、クララ・ゼーゼマンの住むフランクフルトは、当時から大都市で、ドイツ統一前には、一種の都市国家としての姿をしていたようですね。
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↑朝ドラで有名になった村岡花子さんの訳ですね。
今日の料理
@ホウレンソウのツナ・マヨネーズ和えイリゴマ入り
この前紹介した春菊の料理の兄弟版です。ホウレンソウはシュウ酸を含むので、それをマスクするカルシウムが豊富なゴマを加えました。
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20140925#1411639553
(2014.09.30)
@メカジキのカレー風味ムニエル
以前、弟が作って、驚くほど美味しかった料理。メカジキの切り身に、塩、カレー粉をまぶし、しばらく置き、片栗粉をまぶしバターならぬラード(豚の角煮を作ったときの余り)で焼きました。美味しかったけど、弟の作のほうが美味しかった・・・
(2014.09.30)
@シカクマメのゴマ汚し
四角豆(シカクマメ)は、アフリカ原産のマメ科植物。断面が四角の独特な莢の形をしていますが、インゲンマメと同じように調理でき、味は絶佳です。今回は「サカタのタネ」で種子を入手しました。
(2014.10.03)
@茗荷の浅漬け
沢山収穫できて、あまり加減だったので、弟の発案で、「エバラの浅漬けの素」で5時間ほど漬けました。真っ二つで漬けたので、ちょっとキツイ風味になりましたが、好きな素材なので美味しく食べられました。
(2014.10.03)
今日の詩
@休息
携帯MD・PLAYER――
「CRUEL:残酷」集を聴きながら
見渡す庭の
すずやかさ
シロザの穂先は
風にゆらめき
時間は止まる
南面したる我は
王者なりけり
MDはテーマ別に曲を収録しています。「LOVE」「FEAR」「FACT」などのように。特に「CRUEL」などは名曲揃いです。例えば坂本龍一氏の「THATNESS AND THERENESS」、新世紀エヴァンゲリオンの「残酷な天使のテーゼ」、ホルストの「火星」など。
なお、中国の諺に「君子南面す」という表現があり、この詩はそれを踏まえています。
(2014.10.01)
THATNESS AND THERENESS