サリン→
UNEP(国連環境計画)は、環境とそれに化学物質が与える影響を調査する国際機関ですが、80年代ころに以下のような声明を発表しています:
人類の存亡は核戦争よりもむしろ これから増大していく化学物質の取り扱いいかんに依存している
現在、環境問題といえば「温暖化」のみ注目されているかのようですが、いわゆる「環境ホルモン:内分泌撹乱物質」への関心は、どこへ行ってしまったのでしょう。日々、あらたな化学物質が発明され、それが「善」かのように受け取られているのでしょう。
また、私が「化学物質」についてブログを立てると、(例えば「チメロサール」とか「スクラロース」)決まって「摂取量が少ないから大丈夫」とか「ADME」「ADI」「LD50」はちゃんと調査しているはず」とかの茶々が入り、あげく「トンデモ」扱いされます。「お前らは厚生労働省とか化学メーカー、製薬メーカーの回し者か?」とも言いたくなります。(いずれも以下の2ブログのブックマーク欄。)
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20100516 :飼い犬は水俣病になるか・・・チメロサールの毒性
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20091207 :Slat(スラット):人工甘味料の落とし穴(スクラロース
また、コメント欄で議論した回として
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20101102 :危険な人工甘味料・・・チクロからスクラロースまで
さて、表題の本は1999年の7月から9月までの3ヶ月、NHK教育テレビで放映された「人間講座:20世紀の化学物質 人間が造り出した“毒物”」のテキストです。講師は毒物学に詳しい常石敬一氏です。
この本は全12回でコンパクトにまとまった資料ですが、この中からP(リン)とCl(塩素)にまつわるお話をピックアップします。
1) As(砒素:ひそ)の毒性の由来・・・3酸化2砒素の場合、致死量は「0.15g」、これほどの毒性を持つのは、人体内でエネルギー伝達に関わるATP(アデノシン3リン酸)が水和して分解してエネルギーを放出しますが、その反応を進めるATPアーゼという酵素の活性基・スルフヒドリル基にAsが取り付き、生体反応が阻害されて死に至る。リンと砒素は周期律表では、同じグループに入ります。だからその挙動が紛らわしいのですね。
2)有機塩素化合物の特殊性・・・まず、はっきりさせておきたい点は、炭素(C)と塩素(Cl)が直接結びついた形をしているが、このようなタイプの化合物は自然界では希なものである点です。最初は塩素ガスをさらし粉にしていましたが、第一次世界大戦でドイツ軍が毒ガスとして使用しました。戦後は有効利用(平和利用)のためイロイロな有機塩素化合物が生産されました。PCB、BHC、DDTなど。ところがこれらには全て人にとって慢性毒のあるものと解り、生産は中止されました。PCB汚染の実例として「カネミ油症事件」があります・・・ライスオイルを精製する配管と、冷媒として別の配管に流れていたPCBが混ざっちゃった。配管が別なら大丈夫・・・このような神話が崩れた例です。(実際の悪者は、現在、PCBに含まれたダイオキシン類であるとされます。)
3) サリンなど有機リン系毒ガスの毒性の由来
これは、脳からの命令を筋肉に伝える際不可欠な物質「アセチルコリン」、これは役割を終えると直ぐ分解されるべき所、その反応を司る「コリンエステラーゼ」がサリンと反応してしまい、神経系に混乱を来たし、最悪死に至るというわけです。
また、サリンは比較的簡単な構造をした化学物質ですが、塩素の仲間のフッ素(F)をその構造のなかに持つ、有機ハロゲン化合物でもあります。(有機塩素化合物より有機ハロゲン化合物のほうがより広い概念です。)毒ガスとしてのサリンの弱点は、人体に作用する前に水酸化ナトリウムを反応させれば、Fがとれてしまい、もはや毒ガスとしての機能は果たさなくなるのです。(あ、ここで気づいたのですが、サリンのもつフッ素は、直接炭素原子に結びついているわけではないので「有機ハロゲン化合物」とは言えないかも知れません。以上訂正。)
今日のひと言:常石氏は、全12回、最後の回で、環境ホルモン、内分泌撹乱物質を取り上げていますが、温暖化問題の影にかくれた感のあるこれらの化学物質が、生命界の諸諸なる命を奪わぬか、大変心配です。
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