虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

80日間世界一周(映画)


 この、SF作家・ジュール・ベルヌ原作の映画「80日間世界一周」(1956年公開)のテーマ・ソング「Around the World」(作曲:ヴィクター・ヤング)が痛く気に入ったので、探した結果、図書館でもレンタルショップでもなく、たまに通うウナギ屋にあったので、借りて・観ました。


 時は日本の明治時代初期の1872年。イギリス紳士であるフォグ(デヴィッド・ニーヴン演じる)は、昨日、新しい執事(パスパルトゥー:カンティンフラス演じる)を採用したばかり。それが、彼の出入りするサロンで、新しい鉄道が開通したこともあり、「80日あれば世界を一周できる」と言いだします。「いや、できない」「できる」との押し問答の結果、その結果に賭けることになり、フォグは、パスパルトゥーを連れて世界一周の旅に出ることになります。賭けに負ければ一文無しになる賭けです。これは、丁半博打などのしみったれた賭け事より、ずっと痛快な賭け事ですね。


 この旅は北半球の温帯地帯沿いを西から東に(半時計周りに)進みますが、このルートは最後の結末で、あっと驚くことを用意しています。(それは秘密です)


 まず、手始めに、「熱気球」を購入し、器用なパスパルトゥーのお陰で、無事フランスまで飛びます。あとはスペインで、地元の有力貴族に船旅の手配を依頼したかったのですが、
目の前のその有力者にアクセスする機会がありません。そこは気の利く執事パスパルトゥーが、貴族のテーブルクロスをサッと引き剥がし、食器類はそのままにしておくという奇術のような賭けに出て、そのテーブルクロスであたかも闘牛をしているかのように舞います。有力者:「明日、彼に闘牛をさせよう。うまく行けば船はくれてやる」フォグ:「それは虐殺だ」・・・そして当日、パスパルトゥーは見事に仕事を果たします。


 次はスエズ運河を越えてインドのポンペイ(たしか、今のムンバイ)へ。ところがこの頃には、フォグがイギリスで起きた銀行強盗の犯人であると信じて疑わない刑事が付き纏います。


 インドでは、破壊の女神カーリー神を信奉する狂信的な集団から、生け贄にされそうだったインド人女性・・・アウーダ姫(シャーリー・マクレーン演じる)を救出し、一行に加え、香港で船の予約をしましたが、刑事に一杯食わされたパスパルトゥーが一人だけ日本に行ってしまい、フォグとアウーダは、もっと小さな船に乗船して日本に向かいます。


 ひとり先立って横浜に来たパスパルトゥーは鎌倉の大仏を見たり、町中が赤と白ばかりの服を着た人たちを見たり、女の子たちが大勢で「かごめかごめ」を遊んでいる場面をみたりします。
また、歌舞伎みたいで、ちょっと変なセットで、曲芸する芸人に感動したりと、1872年当時の日本では、もう、ちょっとありえないかな、という光景が入ります。時代考証は大丈夫だったのか・・・曲芸をしていたパスパルトゥーはあとでフォグたちと合流します。


 そして船で大平洋を渡り、アメリカ合衆国へ到着。ここでも可笑しなシーンがあります。
1872年といえば、アメリカは奴隷問題が発端の南北戦争がすでに終結しており(1861−1865)、インディアン、とくに勇猛さで知られるスー族が弓矢で鉄道を攻撃するといった場面がこの映画に登場しますが、この頃にはスー族にそれほどの勢力があったとも思えないのです。


 日本とアメリカ合衆国のイメージがステレオタイプなのですね。ゴラク作品とはいえ、時代考証はしっかりやってもらいたいものです。(この映画はその辺がいい加減なアメリカ映画ですけど)


今日のひと言:このブログで最初に書いたように、この映画のテーマ・ソングが非常によい曲で、旅番組ではよく流される音楽だそうです。作曲者は「ヴィクター・ヤング」、曲名は「Around the World」。日本の有名な旅番組「兼高かおる世界の旅」のテーマソングにも採用されたそうです。いかにも、旅気分を盛上げてくれる曲ですね。



映画を見るまえの私の予想では、フォグのようなイギリス紳士ではなく、やんちゃな若者が、世界へ、一期一会の旅にでるのかな、という先入観がありましたが、このキャストでも面白いですね。フォグみたいに、毎日の日課を寸分の間違えもなくこなすような几帳面な人が、突発事に巻き込まれながら、精神のバランスを崩さないというのも、これはこれで、たいした精神力です。なお、例の刑事のフォグ拘束要求に対し、スエズ運河の責任者は「これからティータイムだ(だからそんなことはやらない)」と言い放ったのが面白いです。


また、アウーダ姫と独身者フォグの恋も実るでしょうか?イギリス人とインド人では、支配・被支配の関係が付き纏いますし、アウーダの出身カーストでは食べられない食材も目白押しでしょう。この2人、前途多難です。



(お断り)当ブログは、時事ネタは少な目なブログです。たまに時事ネタをエントリーしますが、大部分は今回のように「東北地方太平洋沖地震」なども取り上げないこともあります。特に今回のように能天気なエントリーもありますが、悪しからず。


海底二万里 (上) (岩波少年文庫(572))

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