私のブログによく投稿してくれる「てくっぺ」さんの推薦で、田山花袋(たやま・かたい)の短篇「一兵卒」を読んでみました。病気上がり(いまだ治ってはいない)の一兵卒が理不尽な運命に翻弄されるというお話です。
彼の命を奪うのは「脚気衝心:かっけしょうしん」、ビタミンB1欠乏症ですね。かの文豪・かつ陸軍軍医総監の森鴎外(もりおうがい:大正11年没)は、脚気の原因を、ばい菌によるもので、栄養失調症とは思ってもいなくて、医師としては落第かと思います。この作品「一兵卒」が発表されたのは明治41年ということですから、森鴎外の目は黒く、いまだにビタミンB1を豊富に含む玄米ではなく、白米が供されていたのかも知れないですね。話のなかで、この気の毒な兵士にあてがわれたのは「白米」でした・・・ 鈴木梅太郎氏が明治44年に欠乏物質は「オリザニン:ビタミンB1」であると証明していたのですが。
兵隊にとっては過酷です。
また、戦の舞台は、中国本土というように設定されているかのように見えますが、これって、第二次世界大戦の先駆けとなる日中戦争を予言していたのでしょうか?疑問です。
こんな作品を第二次世界戦争当時に発表したら、発禁処分になったかも知れないですね。
全体を通して、良質な作品だったかと思います。細部の描写がかなり客観的です。
なお、田山花袋は、日本の自然主義文学の立役者の一人で、群馬県の郷土カルタ・上毛カルタで「誇る文豪田山花袋」として言及されています。その自然主義文学とは
以上、Wikipediaから抜粋。
自然主義文学(しぜんしゅぎぶんがく)は、19世紀末にフランスで提唱された文学理論に基づく作品、およびそこから影響を受けた日本の20世紀前半の文学のこと。
エミール・ゾラにより定義された学説の下、19世紀末、フランスを中心に起こった文学運動。自然の事実を観察し、「真実」を描くために、あらゆる美化を否定する。チャールズ・ダーウィンの進化論やクロード・ベルナール著『実験医学序説』の影響を受け、実験的展開を持つ小説のなかに、自然とその法則の作用、遺伝と社会環境の因果律の影響下にある人間を描き見出そうとする。
(中略)
そして島崎藤村の『破戒』や田山花袋の『蒲団』が自然主義文学の支柱を成した。花袋は、『露骨なる描写』を発表し、自分の作品を貫く論理を明らかにしようとした。また、「早稲田文学」を本拠に評論活動を行った島村抱月や長谷川天渓も、自然主義文学の可能性を広げようとした。花袋も『一兵卒』のような作品では、客観描写による小説のふくらみを試みてはいた。
(中略)
しかし、『蒲団』の衝撃は大きく、これによって自然主義とは現実を赤裸々に描くものと解釈され、ゾラの小説に見られた客観性や構成力は失われ、変質してしまった。
なるほど、田山花袋の「蒲団」などは、自然主義文学を曲解させるに十分なパワーを持っていたのですね。おなじく自然主義文学の「破戒」(島崎藤村)などはどうなのでしょうね。私は確か未読でした。
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