虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

人口問題へのアプローチ・日本の適正人口は?





ロジスティクス曲線→
http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/lecture/Regression/growth/logistic.html)より

 以下は、過去ログからの引用の引用です。

『・・・ほんとに簡単な計算だが、一組の男女で子供を一人しか産まなければ一億の人間は一代で五千万人になるのは確実である。もう一代、一人ずつしか産まなければ人口は二千五百万人になって、もう一代たてば一千二百五十万人になるのである。三代たてばいまの東京都の人間だけで日本国中に住んでいいことになるのである。
  つまり、一人しか子供を産まなければ三代たてば土地が高いとか、部屋代が上がるとか、水が足りないとか、交通マヒなんてことは伝説になってしまうのである。こんな簡単な計算になるのだから人間がふえることは悪い状態なのである・・・』(213P−221Pのうち215P)

 以上の挑戦的な文章は「子供を二人も持つ奴は悪い奴だと思う」(人間滅亡の唄:深沢七郎:1971年:徳間書店)の一節です。このエッセイに対しては読む人の評価が大きく割れるだろうにせよ、強烈な世界観があると思います。
 

世界観の表出としてのエッセイ(山本一力深沢七郎):
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070326



私も深沢氏と同様な感覚を持つ者です。私の住んでいる地域も、宅地化が進行していて、有効な「緑の植物」は減る傾向にあります。いつか、お隣のおばあさんが、「家が増えてよいことですねえ」と話掛けられ、「何がいいものか。」と応対したことがあります。


 そんなわけで、私は人類の数が少ないことを良しとしますが、世界を人口問題からみるとどうなのか知りたくて、「地球人口100億の世紀  人類はなぜ増え続けるのか」(大塚柳太郎、鬼頭宏:ウエッジ選書)を読んでみました。いわゆる「地球学」という学問なのですが、この学問分野は経済学より多彩な側面があるため、結構難しい議論がなされています。



特に核となる概念は「r戦略者」と「K戦略者」です。いずれも生物学の概念ですが、「r戦略者」は昆虫や魚のように、大量に卵を生み、自然の淘汰に行く末をまかせるタイプの動物で、「K戦略者」は少なく子どもを産み、大切に育てるタイプの動物で、哺乳類、なかでも霊長類がこれに当たります。「r戦略者」は、その増加が指数関数的で圧倒的に増えます。一方の「K戦略者」は、いわゆる「ロジスティクス曲線」に従い、初めは指数関数的ですが、最後には天井に当たって、一定数で安定します。



 人類が圧倒的に増えたのは、人類が「r戦略」をとったと見なせますが、これは農耕の起源と相前後するようです。先に人が増えたから農耕するようになったか、農耕するようになってから人が増えたのか。議論がさまざまあるようです。

 「r戦略者」になるとは・・・・人類が選んだのは「自己家畜化」のようだそうです。あたかも家畜を増やすように家族の人数を増やしていったのでしょうね。両戦略を兼ね備えているわけです。


以上の議論を踏まえてこの本を読めば、地球学の入門になるでしょう。それにしても、いずれ人類の全員の重量が地球より重くなるとは・・・考えられぬ事態です。



今日のひと言:有名なマルサス人口論、人口は幾何級数的に増加し、農業生産量は算術級数的にしか増加しないので、いずれは人類の一部は食にありつけないという議論は、アメリカなどがバイオ燃料穀物を転化している点で、当たっていると思います。



 今こそ、老子の「小国寡民」の実現をめざすべきなのでしょう。
エタノール車と「小国寡民」:http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070902



なお、日本の適正人口についての議論もあり、本書113pの記述では、平地を可能なかぎり水田に切り替えて、農薬、肥料、動力なしで、人力で自給したとして、おおむね4000万人あたりが可能な人口ではないか、という感じでした。石油ショックが起きたときの試算です。これは、国民ひとりひとりが自給自足的に化石燃料なしに農耕を業とした場合です。やれ旅行だ、遊びだと無駄な行動は抜きにしてのことです(これは、原書の表現を真似て書きました。)。これは、明治時代前期の人口数に当たります。



新しい地球学 ―太陽‐地球‐生命圏相互作用系の変動学

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楢山節考 (新潮文庫)

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人間滅亡的人生案内 (1971年)

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