虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

「現代の樋口一葉」(川上未映子)は4コママンガと同等。

     川上未映子 →

    http://www.edayjapan.com/mi1.jpg


 「現代の樋口一葉」・・・という触れ込みで売っているのが、第138回芥川賞受賞の「乳と卵」(ちちとらん)、川上未映子作。この触れ込みにおもわず一冊買ってしまいました。


 この作家は、ルックスがとてもいいので、ヴィジュアルな方面からこの小説に入ったひともけっこういるようです。(MIXIのコミュで調べてみました)


この物語りには三人の女性が登場します。初潮をまじかにして、卵子精子にこだわる小学生・緑子と、その母で豊胸手術にこだわる巻子、その姉妹の「わたし」。舞台は東京。


 私は、作品を読んでいて、中盤を過ぎたところで、「地の文」と思っていたのが「わたし」のモノローグであることが多いとやっと気づきました。

そして、唯一起きる事件として、緑子が巻子に鶏卵を投げつけるということがあり、ただそれだけのことが起きただけで、緑子、巻子はなにごともなかったかのように大阪にもどってゆきます。


 読後感はそれほどいいものではなく、ドラマツルギーといえるものもない、平凡な作品といるでしょう。まあ、大阪弁をためらわずに文体としているのがユニークと言えばユニークですが。



 私は「樋口一葉」を読んだことがないので、比較できないですが、「乳と卵」は凡作だと思います。その凡作に箔をつけるために「樋口一葉」と無理やり関係づけたのでしょう。文章(センテンス)が連綿と長く続くというだけの意味でね。



ただ、この退屈な文字列を4コママンガにすると面白いと思います。

1) 緑子は卵子精子のことで悩む
2) 巻子は豊胸手術を望む
3) 緑子が巻子に卵を投げつける
4) ふたりそろって大阪に帰る(めでたし、めでたし)

この小説が描く程度の文学空間は、すでにとっくの昔にマンガが成し遂げているのです。例えば「中川いさみ」の不条理マンガです。
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20061105不条理マンガの雄・中川いさみを解体新書する



この小説にカップリングされているもう一篇、「あなたたちの恋愛は溺死」も、4コママンガにするのはラクチンです。あっさり4コマに収まるような文字列は、はっきり言って小説として無意味・無価値です。マンガの表現力は、小説を超える、という説は、筒井康隆氏も以前言っています。だから活字で勝負する物書きは、よほど頑張らなければならないとのことでした。それなら、もっと、感動(いろいろな意味で)を与えてくれる偉大な小説を、私は欲します。4コママンガに御株を奪われない小説を。確かに、「起承転結」という括りは、小説にも(4コマ)マンガにも適用できるのではありますが、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」とかアナトール・フランスの「神々は渇く」とか夏目漱石の「こころ」などの一級品の小説を、4コママンガにするのは不可能です。



 今日のひと言:芥川賞といえば、芥川龍之介を超えている梶井基次郎中島敦など、ほんまもんの作家は受賞していません。太宰治は賞を欲し、文壇における政治活動をしました。瀬戸内寂聴さんは、「芥川賞」は「チンピラが受賞する賞である」と放言していましたが、幾分か、共感できるのです。