虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

田中ユキの世界〜〜早熟な女性たち


インターネット・カフェで手にしたマンガが田中ユキの「神社のススメ」。神社の見習い神職(里見伸二郎)と巫女(みこ)・(真鍋千穂)のラブストーリーです。出合いのとき、千穂は15歳の高校生、里見は24歳の9歳差の年の差カップルです。
 千穂は精神年齢的に早熟であるとして描かれていて、9歳年上の里見はついていくのがやっと。おおむね男性より女性のほうが早熟とは言われますがそのアンバランスさで一気に読ませてくれました。おすすめのマンガ。(アフタヌーンコミックで4巻出ています。)私は以前神職の女性との縁談話があったこともあり、このようなテーマは好きなのですね。田中ユキは巫女の体験もあり、神社のこまごまとしたことも詳しく描かれています。



 田中ユキは「神社のススメ」のほか「ストレンジラブ」「フェティッシュ」などの短編集がある寡作な作家で、青年雑誌に書くヒトなので、いわゆる少女マンガの絵柄に対してはちょっと拒絶反応のある私にも受け入れられる絵柄をしています。やはり男女の感性差を描くのが得意なようです。ただ、これら短篇集、現在入手困難なのですが、辺りの古本屋をめぐって、「フェティッシュ」を入手しました。このコミックには「drop(前編)」「drop(後編)」「フェティッシュ」「複雑な彼女」「鍵」「海の近くで暮らしてみれば」「ALIVE」の7編が掲載されています。


 「フェティッシュ」は、高校男子生徒を誘惑する女性家庭教師のお話。「フェティッシュ」は、「(性の)おもちゃ」といった意味でしょう。「鍵」は男友達を性的に虜にするため「やらせてあげるから」と別の男子生徒をそそのかして体育館に2人で閉じ込めてもらい、自分の思いを遂げようという女子生徒のお話、「複雑な彼女」は、男性教師に恋をして、彼の前途を変えさせてしまう特異な感覚の危うい女子高校生のお話です。


 「フェティッシュ」全巻にわたり、「神社のススメ」の巫女(真鍋千穂)とは異なる女性の類型が見られます。巫女(真鍋千穂)は、良い意味でしっかり者でしたが、破滅的な性格をしているのが「フェティッシュ」に登場する女性たちなのです。そうしてやはり早熟である点は共通です。
 その倫理的な危うさについては、私が論評すべきものではないでしょう。一つの作品世界の出来事ですから。なお、「フェティッシュ」の女性家庭教師は、「おもちゃ」にされた男子高校生に辛辣なしっぺ返しをうけますが、彼は彼女に直接真意を聞いたのではなく、彼女が付き合っている男性からの情報のみで彼女の真意を判断したのですが、彼女が本当に彼を「おもちゃ」と思っていたかは永遠の謎ですね。


 田中ユキは、いろいろな有様の女性を示してくれるのですね。