虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

渡部昇一の道徳本:13歳からの道徳教科書

上智大学名誉教授の渡部昇一さんと言えば、忘れられない逸話があります。それは、作家の大西巨人さんが、血友病の息子たちを生むのに異を唱え、「第一子が遺伝病であれば第二子を控えるのが社会に対する神聖な義務ではないか」としたこと。これって、ナチスが好んで行っていた「優生学」の発想であり、不完全な人間は要らない、といったジェノサイドに繋がる危険な発想をしていた(る)のですね。その意味で、この人は極右の人です。


また、主著「知的生活の方法」では、女性のオルガスムスは、男性に比べて数時間、もしくは1日も長く持続し、そのことが男性によく尽くすことに繋がる、なんとか言ったトンチンカンな自説を披露し、「そんなんじゃ、体持たないわよ」と言った女性たちが多数いました。


さて、今回取り上げるのは、その渡部昇一さんが世話人となって「道徳教育をすすめる有識者の会」が出版したこの本、「13歳からの道徳教育」。発行は「育鵬社」発売は「扶桑社」と、フジ・サンケイグループの出版社です。


一読、「良いお話」が37話書き綴られています。どこへ持っていっても、「良いお話」ですね、とされるお話が。これらのお話にはさほど瑕疵がないようです。たとえば、ヘレン・ケラーが憧れた江戸後期の盲目の国学者塙保己一はなわ・ほきいち)のエピソードとか、トルコの難破船・エルトゥールル号の生存者を手厚く看護した紀州の人びとのお話とか、O・ヘンリーの小説「最後の一葉」とか・・・「ちょっと良い話のオムニバス版」といったところでしょうか。


ただ、全37話のなかで、腑に落ちなかったのは、美智子妃殿下が、古事記に出て来る日本武尊命(やまとたけるのみこと)と弟橘比売命(おとたちばなひめのみこと)が、海上で嵐にあった際、比売が海に身を投げるという自己犠牲を払い、夫である武の一命を救ったというお話に感動されたというのですね。妃殿下が受けられた感動は感動として、皇室のトップの発言には国民一般にたいする一種のプレッシャーが籠もるのが怖いと思います。話す人がやんごとない人なら、なおさら。天皇陛下皇后陛下のためなら自己犠牲を行う、命をも惜しまないといった国民性が蘇るかもしれないですね。自己犠牲の精神を国民に植え付けるための、皇后陛下の発言の利用。このような、お話の取り上げ方は、会として狡猾だと思うのです。

(176P−181P:25話「橋をかける」)から。


それから、渡部さんがみずから筆を執ったコラムが2本ありました。その内の一つ(69P)を挙げれば、「フリードリッヒ・フォン・ハイエク」教授の言葉から論を進めていきますが、私は以前この新自由主義の経済学者についてダメだしをしたことがあり、久しぶりにこの名を目にしました。


http://d.hatena.ne.jp/iirei/20051217

  :ハイエクに関連した過去ログ


なかで、長きに渡って存続する集団は、かならず「規範」というのを持っている、持ち得ない民族は滅びるというのですね。結局は、家系を大事にする民族は滅びない、とくに日本の場合は天皇家があったから、源氏や平氏の派生組も込みで、日本は滅びないという趣旨のことが書かれていました。なんだか論理が無理やりだなあ、との印象を持ちます。


さて、私の座右の書である「老子」は、フルネームでいえば「老子道徳経」です。そういえば今回の「教科書」には老子の話が出てきませんでした。老子のいう「道徳」とは、必ずしも「規範」という硬っくるしいものではなく、「徳(すなおな気持ちで)道を歩けば(有形・無形の)得るものがある」といった意味だと理解しています(旧字の徳はもう一画多く、その字を字解きすれば「すなおな心で行く」とできますし、徳=得=とく、と音と意味が連関します)。老子には押し付けと言ったものは見当たりません。老子は極右の人には理解できないのでしょう。



今日のひと言:コラムの一つには、元文化庁長官の三浦朱門有識者の会・同人)の妻・曽野綾子の短いのがあって、「国際人になるには」とかいった文が綴られていますが、この人が「(オリンピックの)選手村は、人種ごとにしましょう」と発言して、「それは、アパルトヘイトだ」と物議を醸したのは、最近のことですね。このオバはん、田舎で蟄居していればいいのです。考え方が浅薄なので、「国際人たる日本人」としては、「国際社会に出て欲しくない」ですね。


13歳からの道徳教科書

13歳からの道徳教科書

知的生活の方法 (講談社現代新書)

知的生活の方法 (講談社現代新書)

知的生産の技術 (岩波新書)

知的生産の技術 (岩波新書)




今日の一品


パクチーソース入り卵焼き



弟作。今注目のパクチーソース(チューブ入り)を使って卵焼きを作りました。フライパンに広げて焼きつつある状態の卵の中にソースを入れ、丸めます。あと塩少々いれました。美味。このソースを使い、私もスパゲティを食べたこともあります。

 (2016.10.03)



@冬瓜のスープ



弟作。大き目なウリ科作物・冬瓜(とうがん)。冬のスープは体の芯から温まります。今回は賽の目切りにした冬瓜に、クコの実、ベーコン、干しシイタケを加え、コンソメ、塩、コショウで味付けしました。

 (2016.10.04)



@アボカドのマヨネーズ・辛子和え



弟作。一口サイズに切ったアボカドを、マヨネーズ、辛子で和えました。id:whitewitch さんおススメの一品。アボカドの食材としての価値が確認できます。

 (2016.10.05)



@ブラウンマッシュルームのアヒージョ


アヒージョは、食材をオリーブオイルとニンニクで炒めたもので、スペイン料理。食材は自由。この辺、得点高いですね。

 (2016.10.06)





今日の詩


空爆


アメリカは白頭鷲
空爆するのが好き。
自分はされたことなし。
上空から下界を睥睨し
恥じることなし。


でも「翼をもがれたら」
ただの哀れな存在。
それまで威圧されていた
タヌキにも
殺されるだろう。

 (2016.10.07)



現在、ブログの更新はおおむね6日に一回行っています。