虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

鳥獣人物戯画絵巻(鳥獣戯画)・・・世界初のマンガ

 この絵巻物を知らない日本人はいないでしょう。カエルとウサギが相撲を取り、見事カエルがウサギを投げ飛ばすという絵などは、とくに人口に膾炙していると思います。


ただ、私がこの鳥獣人物戯画絵巻(ちょうじゅうじんぶつぎがえまき:国宝)を知ったのは、中学校の歴史であった(美術ではなく)と覚えていますから、もし、いわゆる「ゆとり教育」で教わってないという生徒がいれば、それは気の毒です。「ゆとり教育」は失敗でした。それは、歴史の場合、生徒から、日本の誇るべき文化を遮断してしまうからです。生徒の記憶力というものを舐めていたのが「ゆとり教育」だったと思います。鳥獣戯画を愛するあまり、マンガ家、アニメーターになる人が出てもいいではないですか。


 平安末期から鎌倉時代初頭に完成されたとされるこの絵巻物は、甲、乙、丙、丁の4巻からなりますが、作者だと仮託される鳥羽僧正覚猷の真筆とされるのは、甲、乙巻であり、それ以外の丙、丁巻は、別人が描いたとされます。絵自体があまりにヘタクソだからです。(もっとも、あくまで仮託であり、鳥羽僧正が描いたとの確証はありません)




 ここでは、甲巻でも、さきの相撲の話と並び面白い絵について観てみましょう。仏教的世界観では釈迦は絶対ですが、その「絶対の存在」であるべき釈迦が「カエル」で、いわゆる施無畏与願印(せむい よがんいん) を切っています。これはどんな印かというと、


施無畏印(せむいいん)
手を上げて手の平を前に向けた印相。漢字の示す意味通り「恐れなくてよい」と相手を励ますサインである。不空成就如来が結ぶ。



与願印(よがんいん)
手を下げて手の平を前に向けた印相。座像の場合などでは手の平を上に向ける場合もあるが、その場合も指先側を下げるように傾けて相手に手の平が見えるようにする。相手に何かを与える仕草を模したもので宝生如来などが結ぶ。


施無畏与願印(せむい よがんいん)
右手を施無畏印にし、左手を与願印にした印。坐像の場合は左手の平を上に向け、膝上に乗せる。これは信者の願いを叶えようというサインである。施無畏与願印は、如来像の示す印相として一般的なものの1つで、釈迦如来にこの印相を示すものが多い。

Wikipedia より


です。このカエルは、いっぱしの釈迦気取りなのです。その釈迦如来のご本尊に、なにか祈祷するサルの生臭坊主。なにかしゃべった言葉がもやもや水蒸気みたいにもやい、生臭さを演出するのです。


この絵、
http://blogs.yahoo.co.jp/monmoblog/2939567.html  から引っ張ってきました。



 この絵は絵心のある僧侶が描いたのでしょうか?鳥羽僧正に仮託されたこの絵巻、かならずしも鳥羽僧正が描いたとはいえないのが、現在の定説のようです。僧侶が描いたのだとすれば、その当時の仏教の有様を憂えた僧が描いたことになるかも知れませんね。それにしては、面白い描写です。


最後に各巻の特徴を少々。説明はwikipediaを参考にしました。


@甲巻:様々な動物による水遊び・賭弓・相撲といった遊戯や法要・喧嘩などの場面が描かれる。


@乙巻:馬・牛・鷹・犬・鶏・豹・山羊・虎・象といった実在の動物だけでなく、麒麟獅子・竜・など架空の動物の生態が描かれており、動物図鑑としての性質が強い巻。絵師たちが絵を描く際に手本とする粉本であった可能性も指摘されている。


@丙巻:前半10枚は人々による遊戯を、後半10枚は甲巻の様に動物による遊戯を描いている。後半部分については、甲巻の動物の遊戯を手本に描かれたものとも言われる。


@丁巻:人々による遊戯の他、法要や宮中行事も描かれている。描線は奔放で、他の巻との筆致の違いが際立つ。


今日のひと言:鳥羽僧正は、密教系の僧で、そちら系統の絵(たとえば曼荼羅)などを得意としたと思われますが、真筆も作品が残っているかについては、私は知りません。


なお、平安時代末期から鎌倉時代初期に多く作られた絵巻物は、「怪物」・後白河法皇肝いりで制作されたものが多いとのこと。信貴山縁起絵巻(国宝)なども鳥獣人物戯画絵巻もその例です。ただし、鳥羽僧正の生没年と齟齬があるので、真相は闇の中です。


参考過去ログ:後白河法皇と政治・今様

  http://d.hatena.ne.jp/iirei/20120603#1338718591


鳥獣戯画―国宝絵巻 (双書美術の泉 6)

鳥獣戯画―国宝絵巻 (双書美術の泉 6)




今日の料理


@チャーハン・ア・ラ・バイアム




バイアムは日本での栽培開始からすでに30年くらい経っているけれども、一般には知られぬ野菜です。ヒユ科の植物で、その葉の薄い黄緑色がおいしそうな野菜です。別名:ジャワホウレンソウ。これを間引いた分を市販のチャーハンの素を使い、炒めたものです。も、ちょっとすると大きな葉が収穫できるでしょう。野草でいえばイヌビユアオゲイトウなども近縁のヒユ科植物ですが、味はバイアムには及びません。ただ、ヒユ科植物はシュウ酸を含むので、食べるなら、それなりの対処が必要です。

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20091028#1256715953

:シュウ酸・・・身近で危険な酸

(2013.07.03)




今日の詩


@水の運命


ここに、
甲武信ヶ岳という
山がある。
甲斐、武蔵、信濃
流れる水の
分水嶺となる
山だ。


ついさきほどまで
友達だった
雨粒は
一方は日本海
あと二つは太平洋に
注ぐ。


かれらが再会する
ことは皆無であろう。
ここに
悲しい
運命がある。


でも、水は
新しい
友人を得て
満足するだろう。


甲武信ヶ岳(こぶしがたけ)は、山梨県・埼玉県・長野県の3県の境にある標高2,475mの山で、奥秩父山塊の主脈の中央に位置する。甲武信岳(こぶしだけ)とも呼ぶ。


甲州山梨県)、武州(埼玉県)、信州(長野県)の境にあるのでこの名になっているとされる説が有名だが、山容が拳のように見えるからという説もある。千曲川新潟県に入ると信濃川)、荒川、笛吹川釜無川と合流し富士川となる)の水源の地。頂上に三角点はない。また、すぐ隣の三宝山のほうが標高が僅かに高い。日本百名山の一つ。


山頂からは百名山のうち43座を見ることができる。

注はwikiより。



反歌


出会っては
また別るるや
水雫(みずしずく)



  (2013.06.29)




今日の一句



匂い立つ
シルクジャスミン
わが家にて


この植物については、過去ログ

 http://d.hatena.ne.jp/iirei/20110803#1312366885


にも記しました。ミカン科で、ジャスミンのような香りがする常緑性樹木です。この種の香りの植物には3000種類くらいあるらしいです。なお、2011年に咲き、2012年は咲かず、一年置きに咲くようです。

  (2013.06.30)