虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

吉村作治の「悪夢の結婚」

 私のブログによくコメントを下さる「レモンバーム」さんが挙げていた本を読んでみました。原題は「ノーモア・マリッジ」(情報センター出版局)、改題して「僕が結婚をやめた理由」(PHP文庫)です。吉村作治さんは高名なエジプト考古学の学徒であり、早稲田大学教授を務めました。


 なんでも、吉村教授、エジプトに留学中の23歳のころ、下宿先の16歳の娘と恋に落ち、結婚したのですが、一家で(子供は2人)日本に来て熱海あたりを旅行したとき、吉村教授が「ラーメン」を食べたとのこと、これを妻は見とがめたのです。ラーメンといえば豚肉のチャーシューが使われ、またスープも豚骨のエキスを使うわけですから、イスラムの戒律からすると、「やってはいけない行為」だったのですね。・・・速攻、離婚されました。


 教授は、この体験に圧倒され、結婚とはなにか、という重い命題に憑かれることに
なりました。(以後、吉村教授を「教授」と書きます。)


 ここで、古代エジプト古代ローマの結婚に関するお話が取り上げられますが、これが面白い。古代エジプトでは

実は古代エジプトの王家では、ファラオの位を継ぐ権利を持っていたのは第一王女である。だからといって、女が次のファラオになるわけではない。王位継承権を持つ長女と結婚した男がファラオになるのである。この制度では、たとえ長男でも、長男というだけでは父を継いでファラオになることはできなかった。

            65P


この結婚制度には驚きます。正当に伝えられるのは、女性の遺伝子で、男性の持つY遺伝子はおまけのような感じがします。日本のようにY遺伝子にこだわる姿勢は皆無ですね。


古代ローマのお話では、乱脈を極めた淫乱な女性のお話がいくつか登場します。なかでもローマ帝国四代目皇帝・クラウディウスの妻だったメッサリーナのお話が印象的です。彼女は「夜の顔」を持っていて、夜な夜な宮殿を抜け出し、多くの男と「関係」を持ったとのこと。また、気にいらぬ政治家とか軍人とか役人とかを抹殺したりしています。(「関係」した男も含まれる)


ローマ帝国も末期になってくると、刹那的(せつなてき:そのときだけ良ければいい)という空気が帝国を覆いましたが、現代日本もこれに似ていると教授は喝破します。このような状態になると、人口の増加率が鈍り、国の勢いは衰えるのですね。


 教授は、日本人の女性から来てのない農家に、アジアの人びと(特に女性)が来日することは新たな遺伝子を取りこめるので良い事だとしていますが、これは鳩山由紀夫民主党党首が「日本列島は日本人だけのものではない」として物議を醸した案件と似ています、どんなものか、と私はやや否定的に感じます。国家として、衰退するのも、その国家の自由であると思われるのです。


 今日のひと言:この本では、現代日本の恋愛事情も語られますが、教授は「結婚反対」論者です。特に、戸籍という制度は国家が国民を管理する道具ですが、結婚制度もそのために不可欠であるとしています。結婚不要論者の教授は、食事のことも自分で用意して済ますそうです。よほど、本人の離婚体験が壮絶だったのでしょうね。だから、結婚を考えている男女に、辛口のメッセージを発しています。

科学でわかる男と女になるしくみ (サイエンス・アイ新書)

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