虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

海産物を肥料にする・・・グァノの危機

 
 「グァノ」という言葉をご存知ですか?
グァノ(wikipedia)→


熱帯の乾燥地域の沿岸や島々に堆積した海鳥糞で、窒素・リン酸分に富み、有効な肥料である。19世紀に入って、グァノが肥料として、ヨーロッパで大量に用いられるようになり、はじめは、アフリカ大陸の北西岸から輸入されたが、ペルーの沿岸には、大量の魚が生息し、それを餌とする海鳥が多く、その沿岸や島々には、数十メートルに達するグァノが堆積し、良質で豊富であることが知られるようになったため、1840年ごろからダイナマイトを使って大量に採掘され、ヨーロッパに輸出されはじめた。 (グアノとも呼ぶ)

 グァノのもたらす利益は、ペルー、とくに一時衰退していた首都リマの繁栄をもたらした。この資源に目をつけたスペインは、1863年に、ピスコ沖のチンチャ諸島を占領した。ペルーはチリと協力の上、1865年にスペインを撃退したが、その戦費のため大きな負債を負うことになった。グァノは、1870年ごろまで、約30年間に900万tが掘りつくされ、現在は、わずかな量が残存するにすぎない。


http://www.tabiken.com/history/doc/F/F112R100.HTM  より。なお、グァノは、「鳥糞石」とも言い、ケチュア語の「糞」が語源です。糞が起源とは言え、立派な鉱物です。ダイナマイトを使って採掘とは、ノーベルも嘆いていることでしょうね。

 また、その用途で言えば


グァノには「窒素質グァノ」と「燐酸質グァノ」の2種類がある。前者は降雨量・湿度の低い乾燥地帯に形成されたもので、窒素鉱物を含有する。後者は熱帯・亜熱帯など比較的降雨量・湿度の高い地域に形成され、長年の降雨によって窒素分が流出してリン酸分が濃縮されたものである。
いずれも近代化学工業(化学肥料)には欠かせぬものであり、前者はチリにおいてチリ硝石として大量に採掘されてヨーロッパに輸出された。この莫大な利益は一時的にチリに好景気をもたらしたが、資源の枯渇と20世紀初頭のドイツにおける化学的窒素固定による人工窒素肥料の製造法確立によって衰退した。
後者はリン鉱石が発見されるまで、最も主要なリン資源であった。南洋の島々に多く、資源としては大量に存在するものではないため、かつての採掘地の多くはすでに掘り尽くされ、枯渇している。
   wikipediaより

グァノをめぐって戦争が起きたり(チリVSボリビア)、アメリカ合衆国が介入したり(グァノ島法)と、その物資としての大事さがわかります。



リン鉱石資源として重要な鉱床は、成因により3種類に分類される。
化石質鉱床
古代の動植物や微生物が起源となった比較的大規模なリン鉱石鉱床で、アメリカ、モロッコヨルダンなどに存在する。現在のリン鉱石の大半はこの鉱床から供給されている。
グァノ(鳥糞石、糞化石質リン鉱石とも)鉱床
別項を参照。ナウルなどに存在していた。
火成鉱床
地殻変動によって生じた金属鉱床などと同じ無機質のリン鉱石鉱床で、ロシアのコラ半島に大規模なものが存在する。

世界中に分布するリン鉱石であるが、価格が極めて安価であったことから、大規模な開発により生産コストを低減させる必要があった。このため、特定の国の巨大鉱床に依存することが多い。かつての日本では、主にアメリカ合衆国フロリダ州の鉱山から大量に購入してきたが、1990年代後半、アメリカが資源枯渇を理由に禁輸措置を実施したため輸入量が減少。代替先として、中華人民共和国四川省の鉱山から購入するようになった。


しかし2005年頃から、世界的に投機資金が先物市場全般に流入すると、リン鉱石の国際価格も上昇。追い打ちを掛けるように、2007年に四川大地震が発生すると生産量が激減。中国が、国内の肥料相場をコントロールするためにリン鉱石に100%の関税を掛けたことから国際価格はさらに急騰、相場が大混乱を来すこととなった。日本の例では、2008年夏頃には化成肥料製品ベースで50%以上の値上げが見られた。

なお、リンの採取自体は、鉱石に頼らずとも活性汚泥や鉄鋼スラグなど産業廃棄物からも技術的に採取が可能であり、戦略物資として位置づけられるかについては議論の余地がある。

   これもWikipediaより。


 私は、「リン鉱石」自体ほとんど枯渇状態にある、と聞いていましたが。グァノだけが枯渇しているのでしょうか?



 このグァノの著しい特徴は、海の魚を食べた海鳥(うみどり)が、海水中の有益なミネラルを濃縮して、陸地に落とした恵(めぐみ)であったことです。ほおっておけば、海水のなかから陸上には行かないミネラル分を、鳥がちょうどポンプの役割をして陸上に落とすことを、延々と行ってきた精華がグァノだったと思うのです。彼らの働きにより、海⇔陸の物質循環が行われていたわけです。リンは、エネルギー代謝をつかさどるATPや、遺伝子であるDNAの構成元素であり、リンは生命活動の重要な柱のひとつです。


 そこへいくと、これまでの人類は、リン鉱石を消費しても、リンを生産してきたのではないのですね。
 そこで、どうでしょう?枯渇しつつあるリン鉱石の代わりに、海の海草とか魚などを取ってきて田畑に鋤(す)きこむというのは。ミネラル豊富な肥料になるでしょう。現に海辺にすむ人で、海草を持ってきてそういった実践をしているひともいますし、海の小魚(とくにゴマメイワシ)を「田作り」とも呼んでいたことでもありますし。こんどは、人間が「ミネラル・ポンプ」になるべきなのです。海産物を食べてから、排出された老廃物を利用するなら、もっと良い。人間は、近代以後、下水道の普及であまりにもチッソリンを無駄に垂れ流してきたのです。


今日のひと言:ただし、有用なミネラルと同時に有害なミネラル(カドミウムとか水銀など)を含むというリスクを負わなければなりませんが。でも、生命に不可欠なリン資源を枯渇させてしまったのなら、この鋤きこみ法しかないとも思われるのですが。・・・、また、この物質循環の輪、こんどの福島第一原発による海洋汚染という難問も生まれています。放射能を含んだ海産物を鋤きこむことも、汚染地ではできなくなるかも知れないですね。海も放射能で汚染されているとすれば・・・不毛の海、不毛の大地。・・・さらに、本来地上で循環するはずだった人間の廃棄物(汚水とか屎尿:うんことおしっこ)も、形を変えた汚泥活性汚泥)が高濃度で放射能汚染され、行き場をなくしています。これは、人間が住めない地上になってしまうことを意味します。ああ、罪深きは原発に頼る人間の弱さか・・・

物質循環の化学―地球的視点からの化学をめざして

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