伊藤若冲・・・万物斉同の視点
伊藤若冲(いとう・じゃくちゅう)は江戸時代中後期の画家で、ほんらい青物商人の息子として生まれています。この家の4代目当主(伊藤源左衛門)でしたが、早々に弟に家督を譲り、隠居して好きな画業に専念します。
生没年は1716−1800年。
この画家は、どんな流派にも分類されず、独立峰のような存在で、「鶏:にわとり」を描かせたら天下一品であるとの評価があります。
ただ、彼の場合、鶏に限らず、動植物に注ぐ「慈愛」の感覚がつよく感じられるのです。たとえば「魚群図:動植綵絵」のように、海のなかを自在に泳ぐタイやフグたちが一枚の絵のなかで活写されています。万物斉同の視点です。
万物斉同とは・・・
はてなキーワードより。
道家の思想家・荘子(そうし)の中心的な概念。「全ての物を斉しく(ひとしく)同一と見なす」という概略であるが、この場合 民主主義の「平等」という概念とはまったく違う。自己が絶対者であるという意識をもって「全てのもの」に差別を設けないという境地を言うのである。「物」には「者」としての人間も含む。なお、その絶対者も万物のひとつに過ぎないという認識も重要である。「荘子:そうじ(書物としてはこう読む)・斉物論編」に詳しい。
(ただし、「万物斉同」という言葉は、荘子は直接には言っていません。後代の人が付け加えた概念だろうと思います。同じく老子の「無為自然」という言葉も、老子自身は使っていません。)
若冲は、若いころ、物の飲み込みが悪く冴えない若者でしたが、交際していた人たちの知的レベルの高さに吊り上げられるように、性格も作風も洗練されていきました。「若冲」というペンネームも、付き合いのあった文人により、老子の一節・第4章にある言葉から取られたとのことです。「道はむなしい容器であるが(冲)、いくら汲み出しても、あらためていっぱいにする必要はない・・・」(中公文庫:小川環樹・訳注)
そして、彼のきわめて独創的な点は、フランスのスーラが「グランド・ジャット島の日曜日の午後」で創出した「点描法」を、それにそうとう先立って(半世紀以上も)、実行していることです。
これは、西陣織の設計図用に、必要に応じて描いたものでしょうが、みごとに点描しています。「枡目描き」というようです。(ブログの今日の一枚参照。)
それから、先ほど伊藤若冲は、絵画史上「独立峰」であると書きましたが、じつは、琳派(俵屋宗達を始祖として尾形光琳が引き継いだ絵画の一派)の影響をそうとう受けていると思われます。実際、若冲は尾形光琳の絵を研究したそうですし、とくにその絵に表れるユーモアのセンスは、きわめて俵屋宗達に似ていると思います。「象:エレファント」を描いた、若冲・宗達の絵を並べてみましょう。
若冲の象
宗達の象
どうでしょうか?かなり似ているでしょう。若冲は宗達の弟子筋にあたると思われます。なお、「今日の一枚」の絵は、下で取り上げた絵の一部です。象、猫、龍などが登場する賑やかな絵です。
今日のひと言:江戸時代の日本は、優れた画家(絵師)を多数輩出していますね。これは日本絵画史上におけるルネサンスですね。たとえば俵屋宗達、長谷川等伯、尾形光琳、池大雅、与謝蕪村、中村芳中、円山応挙、伊藤若冲、喜多川歌麿、写楽、葛飾北斎、安藤広重・・・ゴールデン・キャストです。
参考文献:「異能の画家 伊藤若冲」新潮社(狩野博幸、森村泰昌)
:俵屋宗達 (新潮日本美術文庫)
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今日の一句
ヒナゲシの
なまめく赤さ
目の毒か
ヒナゲシの
一輪ばかり
咲き居りぬ