虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

中国哲学には救済の2文字はない:一般の宗教と違う点

中国哲学には救済の2文字はない:一般の宗教と違う点


私は、中国古代から伝わる書物:『老子』、『荘子』、『易経』、『書経』などを読んできて、最近気づいたことがあります。それは、中国哲学には「救済」の概念は、限りなく乏しいか、または無い、ということです。


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老子』(小川環樹:訳注:中公文庫)


一般の宗教の場合、世界3大宗教・・・キリスト教イスラム教、仏教においては、「救済」という概念は不可欠です。いや、これがないと、信者は安心して信仰生活には入れません。「罪深い、また穢れた私を救って下さい」という声が無ければ、宗教だって成立しないのです。


そう思考して、「中国哲学に救済という言葉があるか」というキーワードでグーグル検索してみました。そして、ヒットするページが表示されましたが、それは「経世済民」ないし「経国済民」という言葉でした。その意味は「世の中を経営して、人民を助ける」という意味です。いわゆる「経済」、さらに言えば「政治」の目的を示すのですね。確かに「救済」という意味を含みますが、これは宗教上の「救済」とはずいぶんニュアンスが違いますね。そこには、政治を行う人は想定していても、救済する神仏という想定はありません。


中国・東晋の葛洪の著作『抱朴子』内篇(地眞篇)には「經世濟俗」という語が現れ、經世濟民とほぼ同義で用いられている。時代がやや下り、隋代の王通『文中子』礼楽篇には、「皆有經濟之道、謂經世濟民」とあって、「經濟」が經世濟民の略語として用いられていたことがわかる。さらに後代の『晋書』殷浩伝(唐)、『宋史』王安石伝論(元)などにも「經濟」が現れるが、以上はもちろん政治・統治・行政一般を意味する用法である。清末、戊戌の政変後、従来のような儒教的教養によらず学識ある在野の有為な人材を登用するために新設された科挙の新科目「経済特科」も、この用法によるものである。

     wiki(経世済民

以上がこの言葉の典拠でした。『抱朴子:ほうぼくし』という儒・道の相の子のような本に初出したとは意外です。ところで、中國には伝統的に、国民を潤す技術書があります。その一つ『斉民要術:せいみんようじゅつ』という書物を紹介しますと(wiki)、


『斉民要術』(せいみんようじゅつ 繁体字: 齊民要術; 簡体字: 齐民要术)は、中国北魏の賈思勰(かしきょう)が著した華北の農業・牧畜・衣食住技術に関する総合的農書。92編、全10巻。成立は、532年から549年頃。世界農学史上最も早い農業専門書であり、中国に現存する最古で最も完全な農書である。


賈思勰は6世紀前半、山東益都県(現・山東省寿光市)の人で、北魏朝の高陽郡(現・山東省淄博市西北)の太守を勤めた文人である。


北魏までの農書の集大成とされ、『氾勝之書』や『四民月令』など、すでに散逸した古農書逸文を多く含む。全10巻よりなり、記述は主穀、蔬菜類、果樹、桑麻などの栽培法から畜産関係や麹・酒・醤・酢・乾酪などの醸造法、食品加工法,外国の物産論に及ぶ。体系的で叙述も厳密、精細である。中国古代農学の発展に大きな影響を及ぼした。中国料理史でも不可欠な文献である。雑説部分には後人の加筆があるとされる。


北魏時代は、中世寒冷期に直面して農耕や牧畜の北限が南にずれて華北の農耕民の武装難民化による江南移民とモンゴル高原などの牧畜民の華北移住が進行した後漢末から五胡十六国時代までの戦乱を経た、華北の政治経済の安定期である。そのため、斉民要術に記されているのは漢代までの華北の農耕社会の伝統に加え、北方の牧畜社会の技術や食文化が大規模に移転された社会であった。こうして斉民要術には今日のモンゴルにおける乳製品加工技術と酷似した様々な乳製品の製法が記されるなど、牧畜色の濃い記述が多く記されている。


・・・こんな感じになります。これは純粋に技術書であり、宗教的な「救済」が書かれた本ではありません。中国哲学についても、この「救済」という概念は希薄だと思います。『書経』(尚書)は、政治家の統治と代替りのエピソード集ですが、あくまで政治の事のみが語られ、そこには宗教のかけらさえ見当たりません。中国人は元来、政治が好きだったとされますが、その特徴は、世界4大文明の中で、異質です。エジプト文明にも、メソポタミア文明にも、インダス文明にも、ちゃんと神話があるでしょう?黄河文明にはないと思われます。中国の場合、神に近い者として、初代帝王:伏羲(ふっき)とその妻:女媧(じょか)が人面蛇身だったとか、その次の帝王が神農(しんのう)という牛面人身だったとか、異形の者たちが登場しますが、彼らは異形・異能だったとはいえ、あくまで帝王で、神ではありません。この辺は、徹底していると思われます。


これまでの記述で、疑問に思われた方も多いでしょうが、「儒教道教」などは宗教ではないのか?」と。これらは確かに実在する宗教で、もしかしたら(しなくても)現世ご利益的な「救済」はあるのでしょう。ただ私は「哲学」と「宗教」を峻別する者です。原初のピュアな思考が、民間習俗によってダーティーな教えに変貌したのが今ある宗教なのだと考えます。



今日のひと言:中国的には、「天と地」の概念も重要だと思います。この2つの言葉はしばしば畏敬の対象になり、極めて「神」と近いのですが、老子は言います:「天地は仁あらず。」すなわち「天も地も、人に優しくはない。」(第5章)と。ここでも中国哲学には救済という概念が乏しいのが解るのです。




老子 (岩波文庫)

老子 (岩波文庫)

天工開物 (東洋文庫 (130))

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  • 作者:宋 應星
  • 発売日: 1969/01/01
  • メディア: 単行本





@今日の戯言(NHK正月ドラマについて)


1月2日、「ライジン若冲」という、江戸時代中期の絵師を主人公に据えたドラマが放映されました。見るともなく見ていましたが、「芸術家」と若冲(じゃくちゅう)を呼んでいたので、違和感を覚え、放映後調べてみましたが、「芸術」という言葉は、明治時代になって「art」という言葉を日本語にして、初めて使われるようになったものです。時代考証はどうなっているのでしょう?この作品、「源孝志」という人が作・演出を手掛けています。ずいぶんいい加減な作品を作ったものです。


若冲のことは天才とも称されていましたが、私がこの絵師を評価するに、その画面構成能力で葛飾北斎俵屋宗達などには遠く及ばず、色彩と細密描写のみ評価できるありふれた絵師に過ぎません。


ついでに、若冲と庇護者の坊主が「男色関係にあった」と読み取れる描写が多く、現代のLGBTに配慮して作った映像だなあ、と思いました。



参考過去ログ:

iirei.hatenablog.com


この過去ログは、若冲に好意的に書いてあります。

 (2021.01.03)





今日の一品


@雑煮  


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わが家の雑煮は質素です。今年は愛媛のジャコテン(蒲鉾替わり)、小松菜、セリ(庭に生やしている)、餅、ネギ(薬味)、柚子(薬味)などです。うしろ右、数の子、昆布巻き、左花豆です。

 (2021.01.01)



@青のり掛けざるそば


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昼食。刻み海苔がなかったので、青のりを掛けました。

 (2021.01.01)



@ケールとクコの実炒め


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ケール

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ケールはキャベツの祖先とされるアブラナ科植物。濃い緑の緑黄色野菜。今日は炒めて食べました。調味料はナンプラータラゴン(ハーブ)、梅サワー漬け(酢)。

 (2021.01.01)



@カルダモン風味目玉焼き


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通常、塩・胡椒で味付けする目玉焼きですが、胡椒の代わりにカルダモン・パウダー。弟にも好評でした。

 (2020.01.03)



@大根卸し餅


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餅は、胃にもたれるので、この日の昼食は大根卸しをつけて食べ、大根の持つデンプン消化酵素を利用することにしました。これで、今年正月の餅は、終わりです。

 (2021.01.04)






今日の四句


柿の木の
手足もがれて
苦吟する


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 (2021.01.01)



欠け初め
月の掛かりし
荒野かな


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 (2021.01.03)



今出でぬ
団地の隙間
赤く染め


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 (2021.01.03)


月と日の二句は、ほぼ早朝の同時刻の体験です。



蝋梅の
寒空の下
一人咲く


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 (2021.01.04)







☆☆過去ログから厳選し、英語版のブログをやっています。☆☆

“Diamond cut Diamond--Ultra-Vival”


 https://iirei.hatenadiary.com/


ダイアモンドのほうは、週一回、水曜日か木曜日に更新します。
英語版ブログには、末尾に日本語ブログも付記します。記事は
虚虚実実――ウルトラバイバルとはダブりませんので、こぞって
お越しを。