虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

「のだめカンタービレ」と「ピアノの森」

 *「のだめカンタービレ」と「ピアノの森



 どちらも話題の音楽関係のマンガです。特に前者「のだめカンタービレ」の大ヒットは記憶に新しいところです。このブログでは、それぞれの主要な登場人物2人にしぼって人間関係を探ってみます。
 まず「のだめカンタービレ」(二ノ宮知子・原作)の場合。主人公は「千秋・真一」(以下「千秋」と呼びます)というピアノ科から指揮科への転科を希望する優秀で眉目秀麗な男子音大生、「のだめ」というのは「野田恵(のだめ・ぐみ:「のだめ」とは、野田恵の最初の3文字)」という、譜面も読めないくせに天才的なピアノを弾く女子音大生です。「のだめ」は、日常生活上、だらしなく、その部屋はゴミ箱のような有様です。なお、女性が汚い部屋に住んでいるという設定は、男性の側からは敬遠されるというハンディを持って「千秋」と付き合うということになりますが、これがまた女の子の乙女心をくすぐるのでしょう。

 ここで、「千秋」は諦観(「どうせ、オレなどは・・・」、などという)に満ち、あっさり現実をつまらないものと見なす傾向があり、「のだめ」が現実世界の面白さを伝える、といったようなシーンが「のだめカンタービレ」には頻出します。例えれば、天の岩戸に閉じこもるアマテラスオオミカミを「千秋」であるとすれば、彼女をひきつけるSEXYな踊りを踊るアメノウズメの役割を担うのが「のだめ」です。ここで、両者を女神に例えていることを覚えておいてください。
 「ピアノの森」(一色まこと・原作)の場合。風俗嬢の息子で、一見女の子に見える一ノ瀬海(いちのせ・かい)」はピアノにかけては天才的な素質があり、色町のはずれの森に捨てられていたピアノを弾いて育ちます。そのピアノの元の持ち主は、将来が約束された天才ピアニスト。その男「阿字野壮介(あじの・そうすけ)」は不幸な交通事故で左腕が使えなくなり、ピアニストを断念し、「海」のいる小学校で地味な音楽教師をやっていました。「阿字野」は「海」が自分と同質のピアニストであることを見抜き、「海」を生涯ただ一人の弟子にして、その才能を磨くための裏方に徹します。
 言ってみれば、かつての光を失った「月=ツキヨミノミコト」が「太陽=アマテラスオオミカミ」を導くというお話になっています。この場合、ツキヨミは男性です。


 さて、ここで以上の神話的表現を整理してみましょう。主要登場人物2名が、「のだめカンタービレ」なら女性同士、「ピアノの森」なら異性同士のお話であることになりますね。SEXといった観点からすると、「千秋」と「のだめ」はSEXするまでの間柄にはならないでしょう。その部分は少女マンガとしてはなかなか越えられないでしょう。「同性」だし。また、女の子向きと言えるのが、登場人物の間に階級差というものがないこと。女性は基本的に横並びを好しとする生きものなのです。一方、「海」は親しくなった女の子と、サッサとSEXしちゃいました。この辺は青年マンガらしいですね。そして、「海」と「阿字野」の関係には階級差が認められます。男性の社会の特性です。かと言って、「海」と「阿字野」が同性愛関係になるとは私は言っていません。それは別のジャンルのマンガとなるでしょう。「異性」「同性」という言葉は、あくまでシンボルとして言っているのです。だから、実際の性別と異なることもあります。



  そして、どちらのマンガも、主要登場人物2名が、それぞれに光と影を表しているように思えます。「千秋」と「のだめ」は、「現実逃避したい自分と現実に目を向ける自分との間での葛藤」と見ることもできます。「海」と「阿字野」は、「目標とされる自分と目標を目差す自分の間の葛藤」。種類は違うけれども葛藤を伴っています。この葛藤という言葉は、「藤と葛の2種類のつる草が相巻き合い、容易に切り離せない状態」を指す言葉です。この葛藤は、「千秋」あるいは「海」という一つの自己(パーソナリティー)のなかで展開されるとも考えて良く、彼らの成長の物語と言えるでしょう。だから、この両作品を、ラブコメと見るのは間違いです。そしてもうひとつ、両作品に共通なのは、他の登場人物を含めて、どちらも大きな青春群像のドラマとなっている点であります。





今日のひと言:阿字野壮介が星一徹(「巨人の星」)みたいになったら大変だろうなあ。「オズマ、お前の出番だ!」なんちゃってね。





過去ログで取り上げたマンガ、アニメ関係ブログ(お参考までに。)
エヴァンゲリオン(byガイナックス)、ベルセルク
    http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070320
課長バカ一代(by野中英次
    http://d.hatena.ne.jp/iirei/20060109
美味しんぼ(by雁屋哲花咲アキラ
    http://d.hatena.ne.jp/iirei/20060113
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20060114
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20060115
アキハバラ@DEEP(by石田衣良・アカネマコト)
    http://d.hatena.ne.jp./iirei/20060609
バジリスク(by山田風太郎せがわまさき
    http://d.hatena.ne.jp/iirei/20060826
東京トイボックス(byうめ)
    http://d.hatena.ne.jp/iirei/20061020
クマのプー太郎(by中川いさみ
    http://d.hatena.ne.jp/iirei/20061105

犬夜叉(by高橋留美子
   http://d.hatena.ne.jp/iirei/20061109
ブラックジャックによろしく(by佐藤秀峰
  http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070303
ベルセルク(再録・by三浦建太郎
  http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070320
最上殿始末(by手塚治虫)
  http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070323

県庁の星(by桂望実・今谷鉄柱)
  http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070520


のだめカンタービレ(12) (KC KISS)

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ピアノの森(26)<完> (モーニング KC)

ピアノの森(26)<完> (モーニング KC)