虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

小説「アキハバラ@DEEP」の人間関係

    


 「アキハバラ@DEEP」(アキハバラ・アット・ディープ)は、弱小IT企業だが、この企業の6人のメンバーは、これまでなかったサーチ・エンジン:「クルーク」を開発する。(グーグルとかヤフーとかの進化形と思えば良い。)ところが、「デジキャピ」という巨大IT企業の社長・中込威(なかごめ・たけし)によって6人の自宅とオフィスの7箇所に「同時多発空き巣」に入られ、コンピュータなどのハードごと「クルーク」を盗み出されてしまう。6人は、奇想天外な手段で「クルーク」を救出する・・・といった筋である。原作は石田衣良(いしだ・いら)の小説(同名・文藝春秋)だが、私は「週間コミックバンチ」(新潮社)に掲載されているマンガではじめて注目した。05年秋のことだ。作画は「アカネマコト」。ただ、マンガのほうは現在進行形で連載中なので、小説のほうを先に読むことにした次第だ。
 6人のメンバーは、ページ(代表、文才あり、強度のドモリ)、ボックス(グラフィック担当。過度の潔癖症、女性恐怖症)、タイコ(音楽担当。たまにフリーズする←どこででも、動かなくなってしまう)、アキラ(営業担当。メンバーで唯一の女性。ミリタリー・オタク)
、イズム(天才的なプログラマー。色素欠乏症)、ダルマ(財務、法務担当。強度の引きこもり歴あり。)まあ、オタク、ニート、引きこもりの集団というところか。かれらは全員どこかに大きな欠点を持つ。また、彼らはお互いをハンドル・ネーム(ニック・ネーム)で呼び合う。
 この6人を結びつけたのが、ネット上で人生相談をやっていた「ユイ」という女性である。彼女自身「うつ病」患者だが、人を救うことに生きがいを持っていた。彼女のHP(ホームページ)のメンテナンスをやっていたのがイズムで、彼はプログラムにAI(人工知能)を導入し、ユイが居ないときでも、AIがHP訪問者と応対できるようにしていた。
 このユイは不慮の事故死を遂げるが、6人をひき合わせる重要な役を演じる。おそらく「結」という本名なのだろう。「結び付ける」という意味だな。そう言えば、「新世紀エヴァンゲリオン」でも、綾波レイの本体として「ユイ」という女性が登場していたな。また、イズムの色素欠乏症による赤い瞳も、綾波レイに似ている。かなり「エヴァ」の影響を受けていると見た。
 このイズムの発想によるAI搭載のサーチ・エンジンがクルークなんだね。「アキハバラ@DEEP」のメンバーはクルークをオープンストラクチャー(誰でも無料で使用できるソフト)のままにしたかったので、製品化したい中込威がどんなにいい条件を出そうとも、承諾はしなかったわけだ。だから中込は強硬手段に訴えたというところか。
 痛みを分かちあうように寄り添う姿が、「アキハバラ@DEEP」のメンバーには相応しいのかも知れない。大きな企業にはなじまないのかも。ハンドル・ネームで呼び合うのも相応しい。クルークについても、ハンドルネームでつながる「仲間たち」相手に商売をしたくなかったのであろう。
 また、不思議なのは、紅一点の美少女であるアキラを巡って、男性間の抗争が起きなかったこと。これは、性の無差別化だよね。アカネマコトの絵は、充分アキラを魅力的な女性として描いているけどね。
 クルークの争奪戦が主眼だから、このような記述になるのかも知れないけど、性の無差別化もはっきりと読み取れるのではないかと思う。中性的な男性たち。


今日のひと言:私がこの作品に注目したのは、やはり「アキラのミリタリールック」からだったな。迷彩服がよく似合うキャラクターだ。うん、私にも充分「オタク」の資格があるかも。萌えーーー。   
今日のひと言2:シンドラーのリスト:殺人エレベーター企業・シンドラーエレベーターが、世界
        各地で殺した人たちのリスト(定義)。